リモートワークで障がい者雇用を進めるメリットと雇用前に確認するポイントについて【後編】

前回の続き。

メリット③「重度身体障がい者の雇用がリモートワークで可能に」

メリット①②に共通する点でもありますが、車椅子ユーザーも該当する重度身体障がい者にとって、少しの外出であっても自宅から出る行為には、我々の想像以上に気を配っている点があります。
自身の足で歩行できる人と違い、少しの坂道でも車椅子から見える景色には怖さを感じます。また小さな段差であっても侵入の角度を間違えば転倒、怪我をする可能性があります。また、電動車椅子であればバッテリーの消耗時間を考えることは不可欠であり、万が一帰宅途中にバッテリー残量がゼロになってしまうと考えたなら、気軽に外出ができないといった車椅子ユーザーの声をたくさん耳にしました。

雇用側は障がい者の「移動」という行為に対してもっと注意を払うことが必要だと感じています。これらのことが外出のたびに頭の中に浮かび、中にはヒヤヒヤした気持ちになりながら交通機関を利用している障がい者もいます。
しかし視点を変えると、「移動」のリスクを取り除くことが出来るのであれば、企業として戦力となる障がい者を雇用することが可能だと考えるとどうでしょう。リモートワークははたらく能力があるにも関わらずその機会を奪われてしまっている障がい者にスポットライトを当てることが出来るはたらき方のひとつだと改めて感じます。

それでは、ここからリモートワークで障がい者雇用を進めるにあたり、採用活動時に確認しておくことでその後の雇用定着につながるポイントについてお話をしたいと思います。

ポイント①「障がい者への支援体制について確認」


リモートワークでは心身への不調も含め、突発的な出来事により仕事ができない状況になった際に障がい者のところへすぐに駆けつけられない場面が想定されます。そのような時に障がい者が普段から障がい者就労・生活支援センターや定着支援等の専門機関による支援を受けている状態にあるかというのは非常に重要なポイントだと考えています。

障がい者にとってリモートワークではたらく場所のほとんどが自宅だと思います。本人にとって最も安心できる環境ではありますが、急な体調異変が起こることも考えられますし、災害が発生した場合であれば障がいの特性によっては自力で避難することが困難な状況もあります。安全な状態・環境が確保できているのかというのは長く勤務していただく上で最初に確認しておきたいポイントになります。

ポイント②「健康を維持するためのケアについて確認」

障がい者の中には日によって体調のアップダウンに変化がある人がいます。
理想は自分で体調のコントロールができればいいのですが思う通りにいかないと感じることも多くあります。健康について普段の生活から目を向けている障がい者は小さな変化にも敏感に感じ取り、セルフケアを実施します。「十分な睡眠を取る」「週末は自宅でエネルギーを充電する」「ウォーキングで汗をかく」など、こちらに挙げたのは、企業で働く障がい者が体調の変化を感じた時に実際に取り入れているセルフケアの例です。
障がいの有無に限らず、日々の生活を送る上で心身の状態を常に良好な状態であることは少なく、変調を感じた時に自分なりの調整法を身につけている人材は採用する企業にとっても安心感を得られます。自身の健康に対して関心が薄いと感じる障がい者は少なくないというのがこれまで関わってきた中での印象です。事前にセルフケアを身につけている方ばかりではありませんので、雇用後に健康の大切さについて理解を深めてもらうための教育も同時に必要なように感じます。
他にも健康の維持については、掛かりつけの医療機関があるかどうか、服薬を守っているかどうかなども採用活動中の面接の場面で確認しておきたいポイントです。

ポイント③「任せたい業務との相性について確認」

時々、企業の人事担当者から「障がい者を採用したが任せるつもりだった仕事ができないので困っている」と相談を受けることがあります。もし、障がい者の採用を進める活動時に「業務との相性を確認できる」なら雇用後のミスマッチを軽減させることにつながります。特例子会社や障がい者の雇用定着を実践している企業の多くが「実習」と言われるインターンシップのような取り組みを導入しています。
採用に向けた「実習」を実施することで

  • 想定している業務との相性を確認することが出来る
  • 業務を通じて障がい者とのコミュニケーション方法を学ぶことができる
  • 職場の従業員が障がい者の特性理解をすることが出来る
  • 障がい者にとっても実際の職場の雰囲気を事前に認識することができる

が得られます。

リモートワークに雇用でも、実際の勤務を想定してリモートによる業務についてもらいながら、通信の状態やコミュニケーションで気になるところ、業務の進め方などを確認した上で採用に進められます

他にも職場となる自宅のリモートワークスペースの確認も事前に行う必要があります。
自宅となると公私の切り分けが難しいですが、最近は機密情報の取り扱いに配慮した環境であるのかどうかも重要となりますので勤務にあたっての注意を促すことも必要です。また、健康状態に影響がない環境が準備されているのかも確認しておくことが良いと考えます。夏の時期に暑さを我慢してエアコンなどの空調設備の使用をしなかったことで、熱中症になってしまってはせっかくのリモートワークによる雇用が残念な事例となってしまいます。

ABOUTこの記事をかいた人

[障害者雇用コンサルタント]
雇用義務のある企業向けに障害者雇用サポートを提供し、障害者の雇用定着に必要な環境整備・人事向け採用コーディネート・助成金相談、また障害者人材を活かした事業に関するアドバイスを実施。障害者雇用メリットの最大化を提案。その他、船井総研とコラボした勉強会・見学会の開催や助成金講座の講師やコラム執筆など、障害者雇用の普及に精力的に取り組んでいる。

▼アドバイス実施先(一部抜粋)
・opzt株式会社・川崎重工業株式会社・株式会社神戸製鋼所・沢井製薬株式会社・株式会社セイデン・日本開発株式会社・日本電産株式会社・株式会社ティーエルエス・パナソニック株式会社・大阪富士工業株式会社・株式会社船井総合研究所・株式会社リビングプラットフォーム