はじめに
昨今、障がい者雇用を取り巻く環境は目まぐるしく変化しており、法定雇用率の引き上げなど関連する法律の改正や企業が社会的に求められる役割・ダイバーシティ推進の観点からも、障がい者雇用の重要性は年々高まりを見せています。
障がい者雇用の最前線に立つ人事担当者にとって、法定雇用率の達成・維持は重要なミッションですが、採用活動を進める中で大きな壁に直面するケースも少なくありません。例えば、「現場からの要望で身体障がい者に絞って求人を出しているが応募がない」「雇用形態をアルバイトとしているが定着しない」「求人を出せばすぐに採用できると思っていたが、想定外に苦戦している」といった悩みを抱える人事担当者や経営者は依然として多いのが実情です。
障がい者雇用において成果を上げるためには、単に自社の希望条件を並べるだけでなく、全国で求職活動を行っている障がい者がどの程度いるのか、そしてどのような特性を持つ方が多く就職しているのか、社会全体の最新の動向を正確に把握することが不可欠だと考えます。
そこで今回は、厚生労働省から公表された『令和7年度 ハローワークを通じた障がい者の職業紹介状況などの取りまとめ』をもとに、現在の障がい者雇用の状況と今後の展望について解説いたします。
新規求職申込件数は過去最高を更新、就職件数は高水準を維持
今回発表されたデータでまず注目すべき点は、ハローワークを通じた「新規求職申込件数」です。令和7年度の新規求職申込件数は278,136件となり、対前年度比3.7%増で過去最高だった前年度(令和6年度)の数値をさらに上回りました。働く意欲を持つ障がい者が確実に増加していることが読み取れます。
一方で、「就職件数」に目を向けると115,178件となっており、対前年度比で0.4%の微減となりました。就職率としては41.4%(対前年度差1.7ポイント減)という結果になっています。新規求職者が増えているにもかかわらず就職件数が微減した背景には、厚生労働省の分析によると「就労継続支援A型事業所への就職件数が前年度に比べて減少したこと」などが要因として挙げられています。
就職件数自体はわずかに減少したものの、11万5,000件を超える水準は過去の推移から見ても極めて高く、一般企業における障がい者雇用の受け入れは依然として活発に行われていると言えます。
【令和7年度の特筆すべき点】解雇者数の大幅な減少

例年のデータと比較して、令和7年度の集計結果で特筆すべきポジティブな要素があります。それは「解雇者数」の大幅な減少です。
ハローワークに届け出のあった障がい者の解雇者数は、前年度(令和6年度)が9,312人であったのに対し、令和7年度は3,692人と半数以下にまで急減しています。
この数値が意味するところは非常に大きいです。企業側が障がい者を雇用するだけでなく、入社後の定着支援や職場環境の整備に力を入れるようになった結果、早期離職や解雇に至るケースが減っていると推測されます。また、支援機関やジョブコーチとの連携が深まり、トラブルを未然に防ぐ体制が社会全体で構築されつつあることの表れとも言えるでしょう。
労働人口が減少の一途をたどる日本において、企業が生き残るためには人材の定着が至上命題です。従来の「組織の都合に人材を合わせる」採用から、「人材の特性や働き方に組織が合わせる」採用へのシフトが、確実に進展し結実してきていることがこのデータから伺えます。
精神障がい者の就職数が全体の約6割を占める時代に

次に、障がい特性(種別)ごとの就職件数に注目してみます。令和7年度の就職件数115,178件の内訳は以下の通りです。
| 障がい種別 | 障がい種別 | 割合 | 対前年度比 |
|---|---|---|---|
| 身体障がい者 | 21,463件 | 18.6% | 5.5%減 |
| 知的障がい者 | 22,215件 | 19.3% | 1.0%減 |
| 精神障がい者 | 66,580件 | 57.8% | 1.6%増 |
| その他の障がい者 | 4,920件 | 4.3% | 0.4%減 |
このデータが示す最も重要なポイントは、「精神障がい者の就職件数が全体の半数を優に超え、6割に迫る勢いである」ということです。
身体障がい者、知的障がい者、その他の障がい者の就職件数が前年度から軒並み減少している中で、精神障がい者のみが増加(対前年度比1.6%増)を記録しています。過去のデータを見ても精神障がい者の就職数の伸びは著しく、現在の障がい者採用市場における主役は完全に精神障がい者へとシフトしています。
これまでは、「職場環境のバリアフリー化が進んでいない」「業務の切り出しが難しい」といった理由から、長らく企業では身体障がい者の採用が好まれる傾向がありました。しかし、身体障がい者の新規求職者は減少傾向にあり、企業間で限られたパイを奪い合う激しい採用競争が起きています。
一方で、発達障がいを含む精神障がい者は、適切な配慮や業務の明確化を行うことで、非常に高いパフォーマンスを発揮するケースが多く報告されています。「精神障がい者に業務を任せても大丈夫である」という認識や、テレワークの普及をはじめとする柔軟な働き方の導入が企業に浸透したことが、この精神障がい者の就職数増加の背景にあります。
激化する人材獲得競争と企業に求められる準備
これまで見てきたように、障がい者の新規求職申込は過去最高を記録しているものの、企業が求めるような特定の条件(例えば身体障がいのみなど)に合致する人材が豊富にいるわけではありません。母数となる求職者が増えていても、自社にマッチし、定着して活躍できる人材を確保するための企業間の競争は、年々激しさを増しています。
法律の改正や法定雇用率の段階的な引き上げに伴い、今後も多くの企業が障がい者採用に注力していくことは間違いありません。そのような中で「求人を出せば応募が来るだろう」という待ちの姿勢では、採用目標を達成することは困難です。
自社で障がい者の雇用を成功させるためには、最新の市場動向を正しく理解し、それに基づいた採用戦略を練る必要があります。受け入れに向けた具体的な準備としては以下の点が挙げられます。
- 就職者の主流となっている精神障がい者の雇用を前提とした業務の切り出し
- 職場内の理解促進とサポート体制の構築
- 地域の就労支援機関や専門機関とのネットワーク構築
単なる「数の確保」としての障がい者雇用から、企業の貴重な「労働力」そして「多様性」としての雇用へ。令和7年度の職業紹介状況等の結果は、私たちにその意識のアップデートを強く促しています。自社のこれまでの常識を疑い、多様な人材が活躍できる柔軟な組織づくりへと舵を切ることが、企業がこれからを生き抜くための鍵となるでしょう。





