企業の障がい者雇用の現場に配置される「相談員」「支援員」の活躍について考える(後編)

前回の続きです。

現場からよく耳にする課題としては、就労系支援機関で勤務していた支援スタッフは、福祉の現場での経験は豊富である反面、一般企業におけるビジネスパーソンとしての勤務経験が浅い(もしくはゼロである)ケースが多いという点です。そのため、「障がい者のケアや支援はプロフェッショナルとしてできるが、企業組織の中での立ち回りができない」「他部署との折衝や、ビジネスにおけるコスト意識・納期意識に欠ける」といった声が上がります。

さらに深刻なのは、「支援員が障がい者に寄り添いすぎてしまう」という問題です。過剰な配慮や手助けをしてしまうことで、本来であれば障がい者本人が業務を通じて経験するはずだった「チャレンジの機会」や「失敗から学ぶ成長の機会」を損なってしまっているケースです。これが行き過ぎると、そこが利益を追求する「企業の職場」なのか、それとも保護を目的とした「福祉施設」なのか分からなくなってしまうという、本末転倒な事態を引き起こします。

本来、障がい特性が多様化した職場で相談員・支援員に期待されている役割が全うできていないこの状況は、放置すれば、今後ますます進む企業の障がい者雇用に対して「やはり障がい者雇用は難しい」「専門家を入れても解決しない」というネガティブな影響を与えかねない、非常に危惧すべき現実です。

■ 相談員・支援員に求められる「真の役割」とは何か


では、どこに課題があり、どのような改善策が求められているのでしょうか。ここで改めて、企業における「相談員・支援員の真の役割」とは何かを考えてみたいと思います。

第一に、企業に雇用されている障がい者が「健康に、かつ安定的に業務で成果を上げるためのサポート」を行うことです。企業である以上、最終的な目的は事業貢献です。単に居心地を良くするだけでなく、働く障がい者が業務を遂行する上での困りごとや課題を一緒に考え、どうすれば乗り越えて戦力になれるかを導く伴走者でなければなりません。

第二に、障がい者が配置されている職場で一緒に勤務する同僚や上司からの相談にも対応し、双方の通訳となるような「本人と職場の架け橋的な存在」であることです。

第三に、障がい者の雇用において協力を要請する外部機関(就労系支援事業所、障がい者就業・生活支援センター、ジョブコーチ等の医療・福祉ネットワーク)との窓口となり、同時に社内の人事担当者とも密に連携を取るハブとしての役割です。

そして第四に、これが最も欠けがちな視点ですが、職場の障がい者の直接的な支援に加えて、「障がい者が担当する業務そのものを深く把握し、時には一緒に業務につきながら業務理解を図る」ことです。納期やクオリティの管理、業務の責任者や依頼元部署との業務調整をするなど、ビジネス上の関係構築を行うことも、支援員の極めて重要な役割なのです。

■ 企業の「安易な期待」からの脱却と採用前のすり合わせ

企業側が障がい者の職場定着や安定的な業務遂行を真剣に考え、コストをかけて相談員・支援員の配置を検討すること自体は、非常に素晴らしい前進です。しかし、それが成功するかどうかは、それら支援人材の特性(これまでの福祉業界での経験や働き方の文化)を企業側が正しく理解し、自社で勤務してもらう際の「具体的な役割や期待値」を採用前の段階で明確に提示できているかどうかが、結果に大きく影響すると考えます。

うまく機能していない企業の多くは、おそらく上記のような「ビジネスの現場で期待する役割(業務調整や他部署連携など)」について、採用時に明確に伝えていません。そのため、支援員は福祉現場の感覚のまま勤務を開始し、企業が求めるスピード感や成果志向とのギャップに追いつけず、結果的に成果に結びついていないのではないかと考えます。
もしかすると、そこまでの具体的な役割を企業側自身もイメージできておらず、「現場の社員から不満が出ているから、とりあえず知識や経験のある就労系支援機関出身のスタッフを相談員として置いておけば、現場の負担が軽減されて丸く収まるだろう」という、企業側の安易な考えからスタートしてしまっているケースも少なくないのではないかと感じてしまいます。

■ おわりに:これからの障がい者雇用と支援員の未来


今後、法定雇用率の引き上げだけにとどまらず、日本社会全体が直面する少子高齢化に伴って、労働力の確保はあらゆる企業にとって死活問題となります。その意味でも、雇用義務のない小さな規模の中小企業までもが、障がい者の労働力に大いに期待し、積極的に採用を進めようとする動きが確実に増えてきます。
そうなると、障がい者人材はもちろんのこと、彼らを支える「支援人材」の確保もより一層難しくなってきます。働く障がい者の特性の多様性はさらに広がり、現場に求める配慮の範囲も広がりを見せるでしょう。企業だけでなく福祉の分野でもより高いレベルの「支援の質」が求められる時代となり、支援スタッフに対する社会的な期待はかつてないほど高まっています

これからの支援スタッフは、福祉業界にとっても、そして企業の経済活動にとっても、両輪を回すための極めて重要な役割を担う存在となります。支援機関で泥臭く経験を積んだ人材が持つノウハウは、企業での活躍においても大いに期待されるべきものです。
企業側がこれまで述べてきたような「支援とビジネスのギャップ」という課題をしっかりと認識した上で、役割を明確にして相談員・支援員としての採用に取り組むことができればどうなるか。それは雇用した障がい者本人の活躍を引き出すことはもちろんのこと、一緒に働く一般の従業員にとっても「誰にとっても働きやすく、安心してチャレンジできる環境づくり」に大きく貢献することになるはずです。相談員・支援員の真の活躍が、企業の組織力を底上げする原動力になることを期待してやみません。

ABOUTこの記事をかいた人

[障害者雇用コンサルタント]
雇用義務のある企業向けに障害者雇用サポートを提供し、障害者の雇用定着に必要な環境整備・人事向け採用コーディネート・助成金相談、また障害者人材を活かした事業に関するアドバイスを実施。障害者雇用メリットの最大化を提案。その他、船井総研とコラボした勉強会・見学会の開催や助成金講座の講師やコラム執筆など、障害者雇用の普及に精力的に取り組んでいる。

▼アドバイス実施先(一部抜粋)
・opzt株式会社・川崎重工業株式会社・株式会社神戸製鋼所・沢井製薬株式会社・株式会社セイデン・日本開発株式会社・日本電産株式会社・株式会社ティーエルエス・パナソニック株式会社・大阪富士工業株式会社・株式会社船井総合研究所・株式会社リビングプラットフォーム