障害者雇用が大きな課題となっている企業が年々増えてきています。雇用義務のある企業の範囲も拡大し、法律や助成金の勉強・求人活動の大変さや採用後の定着に奮闘している人事担当者の方もこのコラムをご覧いただいていると思います。
最近では障害者雇用に関するセミナーや書籍も増えており、法律改正を機にそれらを活用し何とか自社で成果を出したいとお考えの企業も多いのではないでしょうか。これらも非常に大事なことではありますが、それよりも先に必要なコトがあります。それは、「自社の失敗理由」を知ることです。何事も上手くいかないのには理由があります。その理由を理解していないうちに次の策を講じても成功しないということはお分かりいただけると思います。失敗理由を知るメリットは決して小さくないはずです。
今回のコラムでは自社の失敗理由から雇用義務のある企業を成功する障害者雇用に導くために必要な改善ポイントをいくつかご紹介したいと思います。
1.《障害者雇用 = 身体》を改善
徐々に少なくなってきましたが、障がい者の雇用は「身体障がい者」だけという求人の企業はとても危険です。企業における障がい者採用が積極的になっている今、これから“雇用の格差”が大きくなってきます。
この雇用の格差とは障害者雇用に成功している企業と失敗している企業の格差が広がるということです。上手く雇用が出来ている企業には働きたい障がい者が集まりますので、より適正な人選が出来、結果として採用が進みます。逆に上手く雇用が出来ていない企業は数少ない求職者からの人選となり、適性に関係なく無理矢理な採用となるため結果として雇用の定着が進みません。
確かに、身体障がい者は周囲の理解や配慮も容易というメリットがあるので、人事側としては第一に考えたいところではあります。しかし、身体障がい者の採用は競争も激しく、基準を満たすような人材は既に就労しているため市場にはほとんどいないと考えるのが妥当です。にもかかわらず、基準を変えずに結果に結びつきにくいところでの採用競争に巻き込まれてしまっているので担当者は疲弊してしまっているわけです。お気づきだと思いますが、今後は精神障がい者にも採用基準を拡大する必要があります。「障がい者=身体」という思い込みが、定着を邪魔しているわけです。
現在、うつ病や発達障がいなど精神障がい者の括りに該当する障がい者が増えています。うつ病に関しては2016年度から改正労働安全衛生法が施行、ストレスチェック制度が導入されたことでお分かりだと思いますが、職場による心の病は社会問題化しています。また、近年は発達障がいという言葉も認知が進み、特性にマッチした幼年期からの取組みも見られるようになりました。
国も精神障がい者人口の増加に加え、働く能力があるのに職に就けない人材を納税者として社会参加してもらいたいという考えから、企業に対して精神障がい者の雇用促進につながる働きかけが強くなっています。今の雇用だけを考えるのではなく、将来の雇用を考えてみてください。
2.《同一部署だけで雇用》を改善
昔から一定数の障がい者を雇用している企業によく見られます。同一の部署にだけ障がい者を配属しているケースです。おそらく、障がいの特性に適した業務が多く存在するために、採用された障がい者は特定の部署や業務に就いているのだと推測します。
これ自体は決して悪いことではありません。ただ、仮に企業規模が大きくなるにつれて従業員数が増えたり、時代に合わせて業務内容の変更もあります。また、法律の改正で障がい者の受入れが増えることを考えると、同じ部署で同じ業務に障がい者を就かせているというのはいずれ限界点に達するだろうと想定できるのではないでしょうか。他の配属部署を決めるのを先延ばしにすることは可能ですが、ギリギリでの選択よりも早いうちに新しい配属部署を準備することをお勧めします。おそらく、同一部署での雇用の場合、身体障がい者か軽度の知的障がい者がほとんどだと思いますが、前項でもお話ししたようにこれからの障害者雇用は精神障がい者の採用が必須です。精神障がい者の雇用定着には、本人へのサポートはもちろん、周囲の従業員へのフォローも欠かせません。そういった準備が必要となりますので、従来の採用基準や職場配属の見直しをご検討ください。
ちなみに、障害者雇用に積極的な企業は数年前から精神障がい者の採用を考慮した採用基準の設定や受入れに必要な従業員への研修などの取組みを始めています。
また、比較的高齢の障がい者が多く勤務されている企業で、ここ数年新しく障がい者求人を実施していない場合、あるタイミングで定年退職者が続き、法定雇用率が不足してしまったというお話しもよく聞きます。しばらくの間、求人活動をしていなかったためにどうやって障がい者を募集すれば良いかわからないといったご相談をいただきます。
今は障害者雇用が上手くいっていても、現実を理解し変化に対応しなければすぐに“雇用の格差”をつけられる側になってしまいます。