いよいよ障がい者法定雇用率が引き上げられる2018年4月を迎えました。障がい者の雇用義務のある企業は労働局に対して「障害者雇用状況報告書(六一報告)」をまとめる時期となります。
障害者雇用に敏感な企業の人事担当者の方々であれば、もっと早い時期からこの引き上げに向けた対策に合わせて行動しているため焦った様子はありませんが、反対に具体的な取り組みはこれからだという企業の場合は、現状の数値が表面化したこのタイミングでご相談の連絡をいただくことが多いです。
昨年から複数の障害者雇用事業に関わることがありました。これらには共通するキーワードがあります。それは『地方』です。
この2018年4月にありました障害者雇用に関する法律の改正は、あくまでもきっかけのひとつであり、数年前からはこれまでの障害者雇用にあった「定石」だけでは成果を生み出すことが困難な時代になっていました。これからは、新たな障害者雇用の枠組み作りの導入が「ある」企業と「ない」企業では大きな差が生まれてくるでしょう。そんな新たな障害者雇用の枠組み作りのひとつとして考えられるのが『地方』での採用です。実は『地方』での採用にはメリットもたくさんあります。
この『地方』を活用した枠組み作りがこれからの障害者雇用に必要なのかを下記の項目ごとに説明したいと思います。
- 『地方』に目を向ける理由
- 障害者雇用の現状を振り返る
- 『地方』採用のメリット
- 『地方』の現状
- 『地方』における課題
① 『地方』に目を向ける理由
都心部 = 採用競争が激しい
企業の障害者雇用への関心度合いは年々高まっており、それに比例して求人数が増加傾向にあります。その理由としては、以下のような点が挙げられます。
- 2015年に「納付金対象企業が拡大(常勤雇用労働者101名以上の企業)」され、これまでの納付金(罰金)の支払い義務があった企業数約24,000社が約47,000社に増加
- 企業の「ダイバーシティ」「CSR」などの取り組み強化
- 徐々にではあるが障害者雇用に対する認知が拡大
企業の多い都心部などでは、障がい者の求人倍率が高くなってきているため、障がいを持つ求職者にとっては選びたい放題の状況となっています。求職者が最初に得る企業情報は求人票に記載されている部分だけになりますので、少しでも競合企業の待遇面より低い条件となれば、他にもっといい部分があるにも関わらず、そこだけでエントリーするかどうかを判断されてしまいます。この状況で勝負し続けることへのリスクが高いのではないでしょうか。
限られた人材から選択
おそらく、都道府県ごとの障がい者人口の比率というのは多少の差があるにせよ、概ね同じ数値となります。障がい者人口だけが突出して多い地域があるということをこれまで聞いたことはありませんし、急激にある特定の地域だけ障がい者人口が増加するということも考えにくいですから、一定の人口比率の中から自社に最適な人材を採用しようとするのはかなり高いハードルを越えることだと思ってください。
また、障がい者は地元に残って生活を送る人が、健常者と比べても圧倒的に少なくなります。障がいの特性や治療の状態などを考えると環境の変化に柔軟な対応を取りにくいということがあります。
「テレワーク」の発達
2016年度あたりから国や厚生労働省は企業のテレワーク導入に積極的な姿勢を取っています。理由のひとつは、2020年東京オリンピック・パラリンピックの開催時には海外からの観光客も含めて、首都東京には大規模な人の移動が発生すると想定されています。このままでは開催期間中は間違いなく交通機関がマヒしてしまいますので、それに向けて少しでも人の動きを抑制しておきたいという狙いがあります。あとひとつは、テレワークの普及に合わせて、「未就労だが労働能力の高い障がい者の雇用を促進」させるというものです。障害者雇用が上手く進まない理由の中には企業が持つ原因(受入れ準備不足、社内理解の遅れなど)もあれば、障がい者本人が持つ原因(通勤問題、コミュニケーション障がいなど)もあります。それらをクリアにする方法のひとつがテレワークなのであれば、これまで雇用の対象でなかった障がい者も採用のターゲットになることが大いに考えられます。また、地域によっては助成金を活用できるところもあります。
② 障害者雇用の現状を振り返る
法律に右往左往
今回の法定雇用率の引き上げは、数年前から決まっている話でした。具体的な数字が発表されたのは昨年度でしたが、これまでは0.2ポイントずつの引き上げでしたから、今回も2.0%にプラス0.2~0.3ポイントされるのだろうと言われていましたので簡単な予想でした。にも関わらず、2018年度が間近になる頃まで具体的な対策を打っていない企業が多くあり、平成29年度の法定雇用率を達成している企業は約90,000社の半数でしかありません。現時点でも、達成していない企業の多くは雇用の枠組み作りができておらず、セミナーに参加したり他社の見学会に参加するだけなのではないでしょうか。
既存の雇用障がい者の退職
現在、企業で働いている身体障がい者で50代以上の方が占めている割合は少なくないはずです。おそらく、人事担当者の皆さんは直近の入退職の数字を把握していると思いますので、今後50代以上の退職者が発生した後の穴埋めをどのタイミングで進めればいいのかを準備しておく必要があります。
売り手市場となり欲しい人材の確保が困難
今、障がい者も含めて人材採用は売り手市場の状況です。これまでのように、募集のあった人材を書類選考や入社試験、面接などで合否を出すのは企業ではありますが、人材がエントリーする入り口については「企業が求職者を選ぶ立場」から「企業を求職者が選ぶ立場」へと変化しました。いかにして求職中の障がい者をこちらへ誘導するかが大きな課題です。もうひとつは、今働いている障がい者が転職しないようにするための取り組みも始めないといけません。
身体障がい者 → 精神・発達障がい者への移行(負担増)
数年前から新たな障がい者求人は精神障がい者や発達障がい者となっています。身体障がい者の求人をしながら、メインは精神・発達障がい者の採用を進めるといった状況です。これは、世の中の身体障がい者のうち、一般的な通勤に問題がなく働く能力のある人材のほとんどはすでに企業で働いています。そのため新たに障がい者を雇い入れようとするならば、知的障がい者や精神・発達障がい者をターゲットにしないと成果が生まれないからです。精神・発達障がい者の雇用経験のない企業にとっては不安も大きく、雇用の邪魔となる様々な意見に悩まされると思いますが、厚生労働省は精神・発達障がい者の雇用を後押しするための助成金や特例措置も設けていますので、これらを活用するというのも考え方のひとつです。
未だに「身体障がい者しか採用しない!」と言い続けている企業があれば、一日でも早く見直しすることを勧めます。
常に職域開拓が必要
今後、企業が雇用する障がい者の数は増加していきます。その一方でAIやRPAの普及が一般的になると、業務の棲み分けが必須となります。現状ですら、社内で障がい者にしてもらう業務の切り出しが困難になっていますので、新たな職域開拓は念頭に置きながら、常に取り組まないといけません。
最近では、農福連携という言葉もよく聞かれますが、障害者雇用の職域開拓のために農業へ進出する企業も増えてきました。しかしながら、参入への障壁は高く簡単に導入することは厳しいため、短期的な取り組みとしては考えにくいというのが現実でしょう。
続きは次回に。