多様性を謳う一方で障がい者雇用が定着しない企業に見られる特徴

企業のHPでダイバーシティ推進、社会貢献活動といった言葉を目にします。中には障がい者雇用についての自社の取り組みを紹介しているページもあり、具体的な実践内容を拝見すると非常に勉強になります。

一方でHPでは判断できませんが、「障がい者雇用=コスト」と割り切った考えを持つ企業もあります。障がい者雇用に取り組む義務のある企業、それぞれに考え方があり「障がい者雇用=コスト」とみなしているところも法定雇用率の2.3%をクリアしていれば法律上は問題ありませんが耳にするとあまりいい響きではないと感じます。

例えば、我々の中で話題に上がることもある「農園モデル」による障がい者雇用。問題となるのは「雇用する障がい者のマネジメントまでアウトソース(丸投げ)」「成果が経済活動に伴わない仕事に従事」「数値達成以外、組織に蓄積されるものがない」など。
障がい者の雇用は専門性を求められるところがあります。そのためノウハウや経験の蓄積は継続した障がい者雇用の実現には不可欠な要素だと考えます。
しかしながら、蓄積されたものがなく雇用数確保に重きを置いた取り組みでは様々な問題が発生することを経験した企業はリスクを回避するために一時的な活用のひとつとしての「農園モデル」の選択はあるものの、これが自社の障がい者雇用の完成形だと言われると非常に残念な気持ちになります。

法定雇用率をクリアするためにコストをかけて凌ぐという考え方もひとつの方法として考えられますが、法律で定められた障がい者雇用は企業にとって永続的に取り組むことが求められています。まして農園モデルを活用する企業は、決して安価でない利用料(年間数千万円)を支払うため大体が大企業になります。

こうしたことの背景のひとつとして、組織が障がい者雇用に関して真剣に取り組むことを避けているからだと考えます。現状、障がい者雇用が本業に直結した取り組みとなっているところは限られており、組織が取り掛かる優先順位としても高くないというのが現実です。
そのため、「障がい者を戦力化するための工夫」「障がい者を含めた多様性に理解のある組織作り」「障がい者雇用を長期的な取り組み」などはどうしても後回しとなってしまいます。

その結果、人事担当者などの障がい者雇用実務担当者にとって、障がい者雇用という役割は負担の大きなものとして捉えられます。会社からの明確な後押しのないまま、法定雇用率の達成を目標のひとつとして指示されます。しかし、ノウハウも知識も経験も少ない中で実績を残すことを求められてしまうと、どうしても農園モデルのような安易な障がい者雇用を求めてしまうことが考えられます。
これで「障がい者雇用=コスト」で完結させる企業がひとつ出来上がることになります。

法定雇用率の達成企業割合が50%に満たない企業が多い中小規模の会社にも農園モデルではないものの、雇用不足を納付金(罰金)の支払いで割り切っているところも数多く存在します。
私はそのような考え方で障がい者雇用に取り組んでいる組織ではたらいている障がい者は幸せだろうかと考えてしまいます。また、従業員に対して「我々の組織は障がい者雇用をコストと捉えてアウトソースしています」と全体朝礼の伝達事項として伝えたりするのでしょうか。
それを聞いた従業員はどのような気持ちになるのか聞いてみたいです。

企業にとって障がい者雇用に取り組む目的が法律で義務化されている法定雇用率の達成を上げるところは少なくありません。法定雇用率は企業が雇用を実現させるための指針であり、現在の障がい者雇用実績を牽引してきた大きな役割を担ってきました。もちろん、法定雇用率といった目標や義務化を維持させながら、障がい者の雇用の質も見る新たな評価を設ける段階へと進む時期にきているのかもしれません。

最後に。
一般的に企業の価値とは事業を通じて得た売上・利益、純資産から見えるその企業の経済的な価値を指します。併せて企業には社会的な価値も求められる時代になったと感じます。本業に加え社会的な活動についてどのような取り組みでどのような成果を挙げ、今度どのような成長が見られるのかといった視点は投資の面でも重要な判断基準になっています。

「成長」とは課題に取り組んだり壁を乗り越えるために経験したプロセスが重要な要素になると考えます。
常に成長を続ける企業とは、ひとつの成功や現状に満足することなく継続的にチャレンジする姿勢を忘れない組織だと思います。

例えば、
「自動車メーカー」
ガソリン車 → 電気自動車 → 自動運転 → ?
「トイレメーカー」
温水洗浄便座トイレ → 自動開閉機能装置便座トイレ → 自動便器洗浄機能搭載便座トイレ → ?

障がい者雇用への取り組みもこれまで組織になかった多様性を取り入れるという課題に対するチャレンジのひとつだと考えると組織を成長させる大きなチャンスだと思います。
障がい者雇用を目の前にある小さな石と捉えて簡単に飛び越える道を選択するのか組織の成長につながる大きな山と捉えて攻略するのか。
理想とする多様性理解を進める企業で実践される障がい者雇用とは、障がい者も含めた誰もが自分の特性を活かしながら役割を通じて共に成長できる組織だと思います。

ABOUTこの記事をかいた人

[障害者雇用コンサルタント]
雇用義務のある企業向けに障害者雇用サポートを提供し、障害者の雇用定着に必要な環境整備・人事向け採用コーディネート・助成金相談、また障害者人材を活かした事業に関するアドバイスを実施。障害者雇用メリットの最大化を提案。その他、船井総研とコラボした勉強会・見学会の開催や助成金講座の講師やコラム執筆など、障害者雇用の普及に精力的に取り組んでいる。

▼アドバイス実施先(一部抜粋)
・opzt株式会社・川崎重工業株式会社・株式会社神戸製鋼所・沢井製薬株式会社・株式会社セイデン・日本開発株式会社・日本電産株式会社・株式会社ティーエルエス・パナソニック株式会社・大阪富士工業株式会社・株式会社船井総合研究所・株式会社リビングプラットフォーム