【Q&A】障がい者の目標設定、課題解決について

【Q】
いつもコラムを拝見しています。
職場ではたらく障がい者のことでご相談があります。
それぞれの職場では全ての社員が半年ごとに自分の目標を決め、職場のリーダーがその目標の達成度合いを見て人事評価を行なっています。
目標が達成できなかった理由や活動で見えてきた課題について、障がいの特性による理由なのかその人自身の問題が理由なのかの判断がつきません。
障がい者との目標設定や課題解決をする際のポイントやアドバイスをお聞きしたいと思います。よろしくお願いします。
《製造メーカー、従業員数約750名、職場管理者》

【A】

ご相談ありがとうございます。
以前に比べて、企業で雇用される障がい者が仕事を通じて目標を設定する職場が増えてきたと感じます。それに伴って、今回のご相談者と同じ悩みを抱える担当者の声もよく耳にするようになりました。
これからお伝えする内容をもとに自社の取り組みと照らし合わせてみてください。

「個に合わせた『対応力』」


企業ではたらく従業員が目標を立てたり、抱える課題の解決策を立てる場合、所属先のリーダーや管理者と一緒に考える時間を設けつつ、最終的には個人でまとめて提出する職場が多いと思います。もちろん、業務を通じて設定する目標や課題に向けた取り組みは人から指示されたものではなく、自らが考え必要な行動に移していくことが求められているからなのですが、できることならば特に最初については目標の具体的な設定までリーダーが一緒に作成するという考えが必要だと感じます。

障がい者雇用の場面では、「人は一律ではない」のだと改めて自覚することが少なくありません。リーダーの立場としては、半期や通期を通して立てる目標や課題は自身で考えて表明してもらいたいと期待する一方、障がい者の中には社会経験の有無であったり、これまではたらいてきた環境の問題であったり、障がいの特性など、人によってはひとりで目標を立てることが苦手な方もいらっしゃいます。仮にそのような人材が職場にいた場合、「放置する」or「一緒に考える」のどちらを選択するのでしょうか。
「他の従業員は自分の力で目標を立てている」との声も聞こえてきますが、個々の能力を引き出し、業務成果につなげ、会社の利益にすることがマネジメントの役割なのだとするならば、個人の目線に合わせた『対応力』がリーダーに求められていると考えます。

「一緒に考え共有する」

次に『対応力』について具体的な例をもとに説明します。

【例】営業部に所属している障がい者雇用枠で勤務するAさんは上司や同僚からの指示のもと「顧客データの入力と修正」「見積書などの書類作成」「顧客からの問合せに関する返信」の業務を担当しています。しかし業務の中でしばしば締め切り時間を過ぎることがあるために、同僚に迷惑がかかることが出てきました。そこでAさんは今期の課題のひとつに「業務に取り掛かる際に締め切り期限を意識する」を挙げました。
しかし「業務に取り掛かる際に締め切り期限を意識する」に対して具体的な対処法が浮かびません。このままでは、目標が未達成となり評価にも影響します。

このようなケースの場合、本人からの策を待つよりも積極的なコミュニケーションを図り、一緒に考える時間をもつことを第一にプロセスを組みます。

  • ①課題の共有

課題:「業務に取り掛かる際に締め切り期限を意識する」

  • ②課題につながる原因まで掘り下げる

・なぜ「業務の締め切り期限を過ぎてしまったのか」

本人原因
「どの仕事から手をつければ良いか判断できなかったため」
「気になった仕事から手をつけてしまうため」
「優先する仕事の目安が分からないため」

環境原因
「周囲が明確な締め切り日時を示さずに依頼をしていたため」
「Aさんは複数の人から仕事の依頼や指示を受けていたため」

  • ③対処法を考える

・仕事の指示を出す際に締め切り日時を明確にする(例えば「◯月◯日17:00までに提出」)
・指示を出す担当者を選任し、依頼の際に優先順位の判断をしてから伝える

  • ④仕事で関係する部署・同僚に対処法を共有する

・業務の依頼の際に締め切り日時を明示する
・業務の依頼は担当者宛にする

  • ⑤対処法導入後、問題なく機能しているかを本人及び周囲と確認

・対処法により業務の締め切り期限が守られているか
・対処法がAさんの作業に支障をきたしていないか
・対処法が周囲の負担になっていないか
・仮に対処法の導入により違う問題点が浮かび上がった場合、③にて新たな対処法を考える。

例の「業務に取り掛かる際に締め切り期限を意識する」のような、一見して課題に挙げられるような内容で困り事を抱えている場合、障がいの特性による原因の可能性が考えられます。
但し、この例よりも判断に困る目標に対する未達成の理由は様々な職場で見られます。大切なことは、自立を理由に本人任せにし過ぎず、目標を立てる力や課題を見つけ具体的に対処できる人材なのかを見極め、個人に合わせて対処することを実行してみてください。個人との関係構築の先には、目標設定・課題解決に必要な判断軸が身についてきます。

補足として、障がい者に仕事を通じて目標の設定をすることにはメリットがあります。
ご存知の通り、障がい者は同じ障がい特性であっても個々に見られる状態に違いがありますので、例えば「Aさんは1ヶ月で◯個の処理」「Bさんは1ヶ月で□この処理」といったそれぞれの能力に見合った目標設定を設けることで、障がいにとらわれず、自分に与えられたゴールを目指すと言う明確なミッションに集中してもらうことができる一方、できなかったときの差を示し、共通認識しやすいと言う点もあるからです。

ABOUTこの記事をかいた人

[障害者雇用コンサルタント]
雇用義務のある企業向けに障害者雇用サポートを提供し、障害者の雇用定着に必要な環境整備・人事向け採用コーディネート・助成金相談、また障害者人材を活かした事業に関するアドバイスを実施。障害者雇用メリットの最大化を提案。その他、船井総研とコラボした勉強会・見学会の開催や助成金講座の講師やコラム執筆など、障害者雇用の普及に精力的に取り組んでいる。

▼アドバイス実施先(一部抜粋)
・opzt株式会社・川崎重工業株式会社・株式会社神戸製鋼所・沢井製薬株式会社・株式会社セイデン・日本開発株式会社・日本電産株式会社・株式会社ティーエルエス・パナソニック株式会社・大阪富士工業株式会社・株式会社船井総合研究所・株式会社リビングプラットフォーム