2022年4月18日に「日本障害者雇用企業協議会」が主催する『発足記念セミナー』が大阪市内で開催されました。
今回は、この『発足記念セミナー』の様子をご紹介いたします。
「日本障害者雇用企業協議会」とは、企業の障がい者雇用の実務担当者が参加する任意団体として、当初は関西在住の企業が中心となって立ち上げました。現在は参加企業を日本全国に広げ、各社が取り組んでいる障がい者雇用の活動報告や情報共有をもとに、企業が直面している課題や雇用の問題を持ち寄り解決のための意見を交わす交流の場となっています。
今回レポートを執筆する私も協議会の発足メンバーとして参加しています。
※私が代表を務める株式会社日本障害者雇用総合研究所とは別の団体となります。
『発足記念セミナー』が開催された当日は、新型コロナウイルスによる緊急事態宣言及びまん延防止措置が全国で解除された時期ではあったのですが、リモートによるセミナーや集まりごとが浸透していましたのでリアル(来場形式)での開催には主催者としては難しい判断を必要とする中での決断でした。実際には、約130名の方々が来場され、そのうちのおよそ60%が企業の実務担当者や経営者でした。このことはコロナ禍である一方、障がい者雇用に対する企業の関心度合いの高さを感じさせる数字となりました。
【プログラム】
① 「基調講演」
厚生労働省 職業安定局 障がい者雇用対策課 課長 小野寺徳子氏
② 「特別講演1」
「障がい者雇用の可能性 〜活躍の場を広げ企業の戦略へとつなげる〜」
The Links株式会社(with SARAYA) 取締役 笹さとみ氏
「特別講演2」
「与える喜びを体験する靴磨き事業 〜パートナーシップを活かした人材育成〜」
株式会社革靴をはいた猫 代表取締役 魚見航大氏
「特別講演3」
「テレワークによる戦力化とは? 〜会話による心理的安全性の構築〜」
阪和興業株式会社 ダイバーシティ推進室長 辻敏彦氏
③ 「パネルディスカッション」
「登壇者によるパネルディスカッション」
〈パネリスト〉
厚生労働省 職業安定局 障がい者雇用対策課 課長 小野寺徳子氏
The Links株式会社(with SARAYA) 取締役 笹さとみ氏
株式会社革靴をはいた猫 代表取締役 魚見航大氏
阪和興業株式会社 ダイバーシティ推進室長 辻敏彦氏
〈ファシリテーター〉
株式会社日本障害者雇用総合研究所 代表取締役 上前忠司氏
④ 「サイドイベント」(8社が出展)
・株式会社パソナハートフル
・株式会社パソナ農援隊
・株式会社革靴をはいた猫
・サラヤ株式会社
・株式会社JR西日本あいウィル
・株式会社クロフネファーム
・コンビニこさえたん(大阪府工賃向上計画支援事業/一般社団法人エル・チャレンジ福祉事業振興機構)
・大阪府立とりかい支援学校
●「基調講演」
厚生労働省 職業安定局 障がい者雇用対策課 課長 小野寺徳子氏
・障がい者雇用の現状として「ハローワークより10万人の障がい者が就職」。コロナ禍でも実雇用数は増加傾向にある一方で、これまでは経済状況に影響されることなく右肩上がりだったが、直近では障がい者雇用求人の数値がコロナ前の水準以下。
・法定雇用率の達成割合は企業規模が大きいほど高い。厚労省としては「中小企業の障がい者雇用の取り組みを強化」させたい。
・今後は「量(雇用率重視)より質(障がい者労働力の戦力化)を求める障がい者雇用」を増やしていきたい。
・更なる企業と福祉の連携強化により共生社会の実現を目指す。
・他にも「除外率設定業種への伴奏型支援」「精神障がい者に関する雇用率カウント」「納付金対象企業の拡大」「週の労働時間20時間未満もカウント」など。
●「特別講演1」
「障がい者雇用の可能性 〜活躍の場を広げ企業の戦略へとつなげる〜」
The Links株式会社(with SARAYA) 取締役 笹さとみ氏
・雇用事例:精神障がい2級(ASD)・女性、趣味は絵を描くこと・写真撮影
・障がい特性から成る個人の強みを理解し、それを活かした業務マッチング
・本人だから生まれるアイデア、創作意欲、デザイン力。
・仕事を通じて「成功体験」「周囲から得る安心感」「チャレンジできる環境」「評価による自己肯定感と自己理解力の向上」できる組織づくり。
「特別講演2」
「与える喜びを体験する靴磨き事業 〜パートナーシップを活かした人材育成〜」
株式会社革靴をはいた猫 代表取締役 魚見航大氏
・靴磨きの技術を習得した障がい者が活躍する会社。
・元々は龍谷大学在学中に学内にあるカフェを拠点としてできた「チーム・ノーマライゼーション」がきっかけ。
・そこに集まった仲間の思いとともに株式会社革靴をはいた猫を設立。
・我々が共有したいのは「パートナーシップを活かした人材育成」。
・これまでの経験をもとに阪和興業株式会社と靴磨き事業と業務提携。
・2025年大阪万博のテーマ「いのち輝く未来社会のデザイン」は当社が事業を通じて目指す社会と同じ。
「特別講演3」
「テレワークによる戦力化とは? 〜会話による心理的安全性の構築〜」
阪和興業株式会社 ダイバーシティ推進室長 辻敏彦氏
・現在、全障がい特性の雇用を実現(身体19名、精神17名、知的3名)。
・障がい者従業員の業務は「出社型業務」と「テレワークによるPC業務」。
・否定派だったテレワーク雇用に舵を切ったきっかけは厚労省のモデル事業に参加したこと。
・現在、北海道2名、関東1名、近畿4名、四国4名、九州1名の計12名が完全テレワーク勤務。
・テレワークによる孤独感・不安感を払拭するため常時通信可能な環境を準備することでコミュニケーションが増え心理的安全性が向上。
※当日は、各地で勤務する6名の障がい者がリモートで参加し、各人がテレワーク勤務の感想を来場者に伝える場面も。
●「パネルディスカッション」
協議会代表の上前がファシリテーターとなり、4名の登壇者をパネリストとして障がい者雇用に関する疑問やテーマをもとに意見交換を行いました。
例えば、
各企業の実務担当者としての立場から厚労省 小野寺氏への質問として
・雇用する精神障がい者の体調が不安定なため業務の生産性に影響してしまう。今後精神障がい者の雇用が増えることが予想されるが、どのような対策が企業として必要か?(The Links 笹氏)
・法定雇用率の達成と同時に個々の障がい者が持つ能力を仕事に活かすような、雇用の「質」を目指すことが求められるが、企業や当事者に対してどのようなことが必要だと考えますか?(革靴をはいた猫 魚見氏)
・障がい者テレワーク雇用の普及度合いと課題について教えてください。(阪和興業 辻氏)
・中小企業が実雇用数向上のために必要なことを教えてください。(ファシリテーター 上前)
また、厚労省 小野寺氏から登壇者に向けて
・働く障がい者が組織の中でキャリアアップを目指す場合にどのような取り組みが必要か?
といった質問がされ、各パネリストは実務担当者としての視点と経験から意見を述べるなど、企業と行政機関が直接意見を交わす見応えのあるパネルディスカッションとなりました。
今セミナーの最後には基調講演にてご協力をいただきました厚生労働省と同じく後援として参加いただきました大阪府より商工労働部就業促進課 課長 浜田真希氏より閉会のご挨拶を頂戴しました。
他にも当日は、セミナー会場の隣の部屋で「サイドイベント」として、協議会に加盟している企業の雇用事例をパネルにて紹介するコーナー、支援学校・福祉事業所からは生徒や利用者の方たちの自主製作品の販売がありました。また、特別講演にて登壇されました革靴をはいた猫による出張靴磨きもあり、当日ご来場された方が早速靴磨きを受けられていました。
こちらでは、障がい者のはたらく様子や自主製作品、雇用事例を実際に見たり聞いたりできるスペースとなっていて、障がい者雇用経験の浅い企業や新たな雇用にヒントを得たい実務担当者にとっては貴重なイベントとなったようです。それは、イベントの終了時間ギリギリまで来場者で賑わっていたことが何よりの証明だと感じました。
当日は在阪テレビ局の読売テレビの取材があり、関西地域の情報番組で放送されました。
最後に『発足記念セミナー』の来場者からご協力いただきましたアンケートの結果をお伝えいたします。
いくつかの項目のうち、当日の基調講演並びに特別公演についての満足度をお伺いしましたところ、全ての項目で「80%以上満足」という内容でした。この結果は主催者側が伝えたかったことが、実務担当者である来場者の方々に感じていただけたことだと嬉しい反面、我々の役割の大切さを改めて感じる機会となりました。
今後も企業における障がい者雇用で求められる役割は大きく、障がいの有無に関係なくその人が望む生活が実現できる社会のひとつが「はたらく」ことだと考えます。間違いなく、これから先、障がい者法定雇用率の引き上げに伴い、社会で活躍する障がい者を目にする機会も増えてきます。今後障がい者雇用は、法定雇用率を達成することに加え、職場で従業員が感じる課題を解消し、満足度の高い雇用を実現することだと考えます。
これは、日本障害者雇用企業協議会の目的とも重なります。障がい者雇用の最前線で活躍する実務担当者の支えとなる会ですので、今後ともよろしくお願いします。