障がいのある人とのオモシロ話【後編】

オンラインで視覚障がいの人とトークセッションをするというプログラムを担当した私が、企画運営のプロセスでのエピソードや気付きをお伝えします。コラム後編は、Kさん夫妻のプロフィールと障がいのある人との向き合い方などについてです。

●Kさん夫妻のこと


共通の知り合いを介して出会い、ご結婚されてから18年目になるそうです。たかしさん、ようこさんには今の状態、つまり「見えなくなる」までの経緯がそれぞれあるのですが、敢えてざっくりと説明するならば「はじめから見えない」たかしさんと、「だんだん見えなくなった」ようこさん。お二人のものの捉え方、考え方の違い、それによる関係性などから、視覚障がいのある人を理解するためのヒントをいただいたように思います。ちなみに、違うからこそお二人の相性は抜群に良いと、先にお伝えしておきます!(笑)

◎ようこさん:出会った頃は私の目がまだ見えていたので、見えないたかしを私がサポートするということが多かったです。それが今では、料理はすべてたかしが担当し、私は美味しくいただくだけ(笑)、見えない世界を楽しみ、味わうことを様々体験し、学んでいるところです。

初対面のエピソードにもあるように、たかしさんは聴覚・嗅覚・触覚を常に使い、空間認識を含む膨大な記憶をもとに正確な判断ができるよう、幼少期からトレーニングを積んできた人、といったところでしょうか。とにかく知的で行動力があり、好奇心旺盛かつ論理的思考タイプ。

◎たかしさん:私の行動はすべて理由に基づいています。行動してから考えるということはまずない。また、手元の情報から推理して組み立てる思考パターンで全体像を作り上げていくので、ざっくりと全体を大まかに捉えることは逆に苦手なのです。

この説明自体がわかりやすくて何とも気持ちいい!
早速たかしさんに変身して世界を眺めることを想像してみますが、なかなか難しい。私はどちらかというと(いや、かなり?)ざっくり派だと思いますし、見える私が見えない人になりきるには、少し時間がかかりそうです。

けれどもようこさんは、だんだん見えなくなる中で、たかしさんの感覚で世界を眺めることを身をもって経験したわけです。トークセッションの素材としてテキストでいただいた自己紹介の中には、こんなエピソードがありました。

・美味しいもの好きのたかしとの生活の中で、食材の特長を活かした調理をすれば、視覚以外の感覚でこんなにも楽しく味わえるんだ、と感動しました。
小松菜の葉を触るとつるつるしていること、水につけておくとシャキシャキが保てること、生の青のりの新鮮な磯の香り、紅茶に耳かき1杯の塩を入れると香りがぐーんと膨らむことなどなど…見えていた時には味わえなかった私。え、昔からだよ、普通だよ、とたかし。

・人を深くわかると、面白いことがいっぱい。たかしがワイングラスをテーブルの端に置く理由がやっとわかりました。見えなくても手に取りやすい位置に置くのです。
行動に理由ありの一例です。

・空間認知はたかしは3次元、私は2次元だったが今は3次元に。例えば見える人は富士山と花火を2次元で認識しますが、見えない人は3次元で認識します。
つまり、富士山は円錐状、花火は球体状のイメージ。これも見えない世界の面白さの一つです。

・白杖を持って街を歩くようになると、人から声をかけられやすくなり、話す機会が増えて嬉しいと感じることも多くなりました。言葉や行為にその人の理解の深さ、やさしさが表れるので、人って面白いなと感じるように。見えなくなって不便もありますが、人との違いがわかって自分らしさに気づくことも。
一方で、見えても見えなくても、人と同じところがあるとも感じるようになりました。

● コラボレーションの可能性を探って

訪問時に私が感じた「視覚障がいの人の感覚って面白い!」という思いをトークセッションを視聴してくださる方々にどのように伝えるか。
セッションのタイトルを「見えない世界はこんなに面白い!」として、たかしさん、ようこさんのことを紹介するだけでなく、見える人との「違い」に着目したエピソードも伝えることで、視覚障がい者と接点のない人にも興味を持ってもらいたいと考えました。Kさん夫妻もこの考えに大いに同意してくださり、事後複数回のZoomミーティングやメールのやり取りをしながらプログラムを練りました。

オンライン上ではありますが、視聴してくださる人が「見えない世界」を実際に体験できる要素もあると良いなあ、とも考えました。
ここで話題になったのは、アイマスク+白杖で歩いてみるなど「視覚障がい者の不便を体験する」ための従来の福祉教育プログラムについてです。
たかしさんは、このような体験は見える世界で生活している人に恐怖を与えることにしかならず、あまり意味がないのではないか、と、常々感じられているようでした。一方ようこさんは、自分たちの生活を体験してもらうことから得られる気づきも少しはあるのではないかと思う、とのこと。障がいに至るまでの由来の違いもあって、お二人の間でも「見えない世界」の捉え方が違うのかもしれません。

私はというと実は従来の福祉教育プログラムはあまり好みではなく、特にこれまで障がいのある人と接点のなかった人に向けた企画・情報発信については、限りなくポジティブなメッセージを込めた内容・見せ方を心掛けてきました。
「かわいそう」「大変そう」だから「手助けしなければ」といった思いから障がいのある人と関わるのではなく、「自分との違いを知りたい」「面白い」と感じたほうが、障がいがあってもなくてもフラットかつ持続的な関係になれると信じているからです。

結局、40分間のトークセッションということもあり、今回は体験プログラムを実施できなかったのですが、訪問時のエピソード、食や調理に関するこだわり、空間認知の特長などの話題を通して、「見えない世界」の入り口を紹介できたのではないかと思います。

● さいごに


私が常々大切にしている姿勢のひとつは、障がいがあってもなくても、その人と自分との「違い」を知り面白がることです。
このような考え方は、随分前からぼんやりと自分の中にあったのですが、東工大教授 伊藤亜紗さんの著書『目の見えない人は世界をどう見ているのか』(光文社、2015年)によって言語化され、明確になりました。本書は複数の視覚障がい者へのインタビュー、見えない人をガイドにした美術鑑賞などの活動を通して、美学者である伊藤さんの視点から目の見えない人の世界を論じたものであり、全く新しい障がい者との関係性のヒントとなるものでした。

今をときめく著名な研究者の伊藤さんと私の共通点を語るのは、ちょっとおこがましいのですが、「障がいのある人の世界を知ろうとする」そして「面白がる」といった視点が似ているのかな、と思います。出会いから7年後の今本書を読み返しても、改めて共感するたくさんの言葉に溢れた作品。ここでは前述の「福祉教育のありかた」にも関連する「3本脚の椅子」を例にした記述を紹介したいと思います。

(本文より)「視覚を遮れば見えない人の体を体験できる、というのは大きな誤解です。
(中略)視覚抜きで成立している体そのものに変身したいのです。(中略)それはいわば、4本脚と3本脚の椅子の違いのようなものです。もともと脚が4本ある椅子から1本取ってしまったら、その椅子は傾いてしまいます。
でも、そもそも3本の脚で立っている椅子もある。脚の配置を変えれば、3本でも立てるのです。
脚の配置のバランスによって生まれる、4本のバランスと3本のバランス。見えない人は、耳の働かせ方、足腰の能力、はたまた言葉の定義などが、見える人とはちょっとずつ違います。ちょっとずつ使い方を変えることで、視覚なしでも立てるバランスを見つけているのです。」

いかがでしょうか。
障がいのある人に今よりも一歩近づけば、これまでと違う世界が見えてきます。それを「面白がる」には勇気が必要なこともありますが、ようこさんからいただいた言葉が背中を押してくれました。

見えない世界を楽しく知ってほしい。善意の好奇心を持つ人が増えれば、違いは「難しい」から「面白い」に変化して、様々な人が一緒に楽しめるようになります。そんな連鎖により、世の中はもっと優しくなるのではないでしょうか」

ABOUTこの記事をかいた人

大阪府出身。子どもの相談援助や生活支援の現場を経て2008年にNPO法人の事務局となり、地域福祉やまちづくりをベースとした高齢・障がい・児童分野の人材育成やネットワークに関する事業を担当。2013年から障がい事業リーダーとして研修・イベントの企画開発と運営、執筆・編集、講演活動などをおこなった。特に就労継続支援B型事業所など障がい者の「はたらく」現場が抱える問題への気づきから、2017年立教大学21世紀社会デザイン研究科博士課程前期課程に進学。研究プロセスではインクルーシブデザイン、ソーシャルビジネスなどについても学び視座を広げた。2019年修了とともにMBA in social design studiesを取得、2021年4月より独立し現職。実践と研究をもとに「障がい者とのコラボレーションを促進する仕組み」の構築を目指して活動中。


WebSite:https://encouragesustainablecollaboration.wordpress.com/