前回のコラムでは、『初めての「精神障がい者」の人材を採用する時の4つのポイントのひとつ目(① 既存従業員へのケアやサポートを第一に考える)をご紹介しました。
今回は残りの3つのポイントについてご紹介いたします。
② 面接時の感覚だけで採用可否を決めてはいけない
「障がい者との面接が難しい」「面接でどのようなことを聞けば良いのか分からない」といったご相談をいただくことがあります。確かに、よく分かります。私もこのような仕事に就いていなければ、障がいを持つ方たちとどのように接すれば良いのか想像もできないと思います。従って、単発での面接や雑談しかしないといったものが多くなるのですが、面接で見るポイントを事前に用意することで自社に適した人材を選出することができます。
このポイントで重要となる点はこちらです。
A, 面接は複数回実施することで判断材料が多くなる
B, 聞きにくいことと思ってもしっかりと確認を取る
C, 可否の判断に迷う時は見送る勇気を持つ
企業内で知識を多く持つ人事担当者であっても、「精神障がい者」や「発達障がい者」を採用する時には1度の面接で判断するのは非常に危険です。Aについては、元々、外見からは判断ができにくい障がい特性ですから、じっくりとコミュニケーションを取る時間を設けることが重要です。複数回お会いすることで、印象が変わったりすることがあります。気分の状態や心のバランスを上手くコントロールできていない人材だった場合、働きだすと予測できない心の状態となる場面が増えますので安定的な就業を実現できない可能性が考えられます。但し、健康な方でも生活の中で心の浮き沈みがあるのは当然のことですから、バランスを崩しそうなときのリカバリーの方法を自身でお持ちなのであれば、その人の強みとして捉えても問題ないと思います。
次にBですが、採用する上で障がいに関することを確認するという行為は決してNGではありません。本人にとっても企業にとっても大切なことです。
私は、障がい者の方と初めて採用に関する面談をする際に必ずお伝えするワードがあります。それは、『答えたくないと感じることをご質問するかもしれませんが、あなたを採用した後に「配慮できない」「理解が不十分」だったとなってしまった結果、お互いが不幸な雇用関係を生まないためにご協力ください』とお話しします。この言葉を伝えることで、自分に対して危害を加えたり嫌な思いをさせるためではなく、長く働いてもらいたいんだと感じてもらうように努めています。そうすることで、採用側の抱える遠慮や気兼ねを払拭して質問をすることができます。
Cについてもよくご相談をいただきます。私自身も人材会社に在籍していた時に、クライアント先に採用が決まった障がい者の人材を直前になってお断りした経験があります。
採用活動中、最初は良いと思っていた人材が、接する機会が増す度に「?」と感じてしまう方がいらっしゃいます。例えば、メールによる連絡の返信が遅くなったり、電話による受け答えが変に感じたり、郵送物のトラブルが発生したりなど、小さな違和感を感じることがあると思います。受ける感覚には個人差もありますので一概には言えませんが、初めての「精神障がい者」雇用の場面なのであれば、一度採用を見送ってみてもいいと思います。自社で採用したい障がい者との巡り会わせはご縁ですし、希望にマッチした人材であれば尚更です。但し、採用後のミスマッチは周囲の従業員への影響も想像以上となります。障害者雇用の定着には知識と経験が必要ですから、ここは泣く泣く諦めて、次回のチャンスを期待するという決断も必要です。
③ 企業実習やトライアル雇用で得られる両者のメリット
「身体障がい者」と違い、「精神障がい者」や「知的障がい者」の採用時には企業実習が多く活用されています。これは、特例子会社や障害者雇用を率先して取り入れている企業の活用事例から見てもご理解いただけると思いますが、ミスマッチの回避に大きく影響しています。
企業実習における特徴としては、
A, 障がい者に対する思い込みをアップデート
B, 周囲への安心を確保できる
初めて企業実習を取り入れた企業からの感想としてこのような声をよく聞きます。
「大人しいぐらいで働いている姿だけ見たら障がい者だとは気づかない」
「想像していた以上に仕事ができることを知った」
といった、これまで抱いていた障がい者に対する間違った思い込みを変えるモノでした。私は障がい者人材を職場に定着させるこの仕事をしていて常に心にある言葉があります。それは、「百聞は一見に如かず」です。言葉で伝わる情報と視覚から伝わる情報による理解度は比べ物にならないということを証明してくれます。
障がい者の雇用が企業で受け入れられるためには、従業員からの理解と協力が必要です。まず、理解を得るためには間違った思い込みを事実に書き換える作業を実施してください。理解が進めば従業員の方たちは安心して障がい者と一緒に働く道を受け入れてくれると思います。そうすれば、「精神障がい者」人材の採用であっても協力が得られるのではないでしょうか。