自閉症、発達障がいのある人を職場で活かす方法

4月2日は、世界自閉症啓発デーでした。
職場のサイトにも書きましたが、この日は私にとっても特別な1日です。
好きなブルーにライトアップされることは嬉しい気持ちになりますし、この日をきっかけにして、世の中の人が少しでも自閉症や発達障がいに関心を持ってもらえたらと思っています。

さて、タイミングよく4月2日に公開とはいきませんでしたが、自閉症や発達障がいについて改めて書いてみたいと思います。
(書き出したのが4/4。来年はもう少し早く書き始めようと思います…)

以前のコラムでは、障がいの特性理解について書きました。
詳しくはそちらを見ていただくとしまして、今回は職場での活かし方として「職場環境」をキーワードにまとめています。

発達障がいの特性理解〜自閉症スペクトラムの特性を中心に〜

2019.02.21

1、職場環境との相互作用

自閉症や発達障がいのある人は「見えない障がい」と言われることもあって、周囲からの適切な理解とサポートを得にくい状況にあります。
ご本人も周囲環境に影響を受けることも多く、例えばADHDで衝動性のある人は目や耳から入る情報量によっては必要以上に反応したり衝動性が増す場合があります。
また、自閉症(自閉症スペクトラム)の人の場合だと、曖昧なルールや手順は理解が難しく混乱する一方で、具体的ではっきりしていることはスムーズに取り組めたり、納期や期限の有無によって仕事に取り組む姿勢やパフォーマンスが変化するなど、周囲環境との相互作用によって障がい特性は強くも弱くも現れると言われています。

つまり、自閉症や発達障がいのある人の周りの環境がどのような環境であって、それはご本人にとって適しているものであるか、もしくは周囲環境のなにが原因で現在の障がい特性を現しているか(ご本人にとっての「生きづらさ」と考えた方がわかりやすいかもしれません)を考えることがポイントであると言えます。

2、物理的環境とのマッチング

職場の物理的環境とは、騒音、照度、温度、湿度、作業スペース、作業姿勢などで、これらが自閉症、発達障がいのある人に適しているかを見極めることがポイントとなります。
障がい特性のひとつに、感覚面の特性があります。
五感(聴覚,視覚, 触覚,嗅覚,味覚)に過敏さや鈍感さがあるという意味で、過敏さや鈍感さは私たちの想像の域を遥かに超えたものと理解したほうが分かりやすいように思います。

例えば、聴覚過敏の人の場合、蛍光灯やエアコン、冷蔵庫などの小さな音が異常に大きく聞こえたり、音量の調整が難しいため目の前の人の会話と周囲の雑音が同じ音量で聞こえるため相手の話に集中できない(私たちは静かなオフィスと思っていて、ご本人は交通量の多い道路の側にいる感覚のようです)などがあります。
他にも、視覚過敏の人は、太陽光のまぶしさや蛍光灯のちらつきなどが異常に眩しく感じられるとか、触覚過敏では、洋服の繊維がチクチクした触感で耐えられなかったりタグが不快に感じるなど、内容は人によってかなり多様です。
過敏さは一つに限らず重複していることもあれば、過敏ではなく鈍感な場合もあり、痛み、疲労、食欲、尿意などが鈍感な場合もあります。

障がい特性の説明が長くなってしまいましたが、物理的環境と感覚面の障がい特性は職場適応に影響していることは多いと思われます。
感覚面は、本人が自覚していることもあれば、鈍感なために自己理解ができていないこともありますが、面接時や入社時などに確認しておくことが望ましいかと思います。
また、以前書いた「障害者雇用で成功している企業の共通点」でもあるとおり、3S(整理・整頓・清潔)などの実施で、どこで何をするか、どこに何があるかなど一目でわかりやすい物理的環境がご本人の働きやすさに関係している事例も多くあります。

障害者雇用で成功している企業の共通点

2018.11.22

3、人的環境


人的環境とは、職場の人数、年齢層、男女比率、指揮命令系統、人事異動の頻度、文化や雰囲気などを表します。
自閉症や発達障がいのある人に限らず、精神障がいのある人も同じですしもしかしたら障がいの有無は関係ないように思いますが、人的環境は同僚や上司部下との関係性がポイントであり、人間関係が職場適応と関連することは多いものです。

障がい特性の視点で考えてみると、コミュニケーションに障がいの特性があり、一方的に話したり、場違いな言動があったり、相手の話を独特に解釈するなど、一人ひとりに違いはありますがコミュニケーションに障がい特性があることは押さえておく必要があります。
そのために、指示命令系統のわかりやすさや担当者の配置、人的環境が作り出す雰囲気などもマッチングと職場適応に欠かせない視点です。

4、理想の職場環境


私も自分の職場で障がいのある人と一緒に仕事をしていますが、以下に示す理想の職場環境とはまだまだ程遠いと感じています。
ただ、上記の環境との相互作用を考えると、理想の職場をイメージした上で自社の状況とどう擦り合わせていくかを考えることは大切なように思います。
理想は理想ですが、以下のようにまとめています。

<物理的環境>

  • スケジュール等で先の見通しが具体的に示されている
  • 物品の配置が整理統合され、視覚的に分かりやすい
  • 業務マニュアル、手順書、完成品の提示等、指示内容が明確で具体的
  • 暗黙のルールが少ない、もしくは暗黙なことをできるだけ明確に示されている
  • 気持ちの切り替えやクールダウンするための休憩室等がある
  • 音や光、臭い等の感覚刺激に対して個別的に柔軟な対応が可能

<人的環境>

  • 順序立ててひとつずつ説明(指示)する人がいる
  • 肯定的なフィードバックをする人がいる
  • 話すときは、簡潔に短文で、あっさり、はっきり、ゆっくり話してもらえる
  • 急かさず、話の腰を折らず、ゆっくりと話を聞いてもらえる
  • 本人の個別の事情(特性等)を踏まえて、一人ひとりを大切にする雰囲気・風土

自閉症、発達障がいのある人の障がい特性の視点で考えると、視覚的な理解、具体的で分かりやすいこと、肯定的なフォードバック、個別的な対応などが必要であり、もちろん効果もあると思います。

ただ、理想の職場環境を目指すには、他の従業員とのバランスも考える必要があり、障がいのある人だけを特別扱いすることではなく、理想の職場環境は障がいの有無に関係なく働きやすい職場であるという前提のもと、職場環境を考えていくことが望ましいように思います。

私もこうやって書いておきながら、自分の職場はまだまだです。
理想の職場環境づくりに向けて、私も日々取り組んでいきたいと思います。

ABOUTこの記事をかいた人

▼プロフィール:
京都生まれ京都育ち。児童福祉の専門学校を卒業後、長野市にある社会福祉法人森と木で障害のある人の就労支援(企業就労の支援、飲食店での支援と運営管理等)に限らず、生活面(グループホーム、ガイドヘルプ等)の支援、学齢期のお子さんの支援などに従事。2013年に帰阪し、自閉症・発達障害の方を対象に企業就労に向けたトレーニングをする2つの事業所ジョブジョイントおおさか(就労移行支援事業・自立訓練事業を大阪市と高槻市で実施運営)にて勤務。2014年より所長(現職)。また、発達障害のある大学生に向けた就活支援プログラム(働くチカラPROJECT)の運営にも力を入れており、2016年より大阪にある大学2校のコンサルタントも務めている。

▼主な資格:
社会福祉士、保育士、訪問型職場適応援助者(ジョブコーチ)

▼主な略歴:
長野市地域自立支援協議会 就労支援部会 部会長(2011〜2013)淀川区地域自立支援協議会 就労支援部会 副部会長(2015〜)高槻市地域自立支援協議会 進路・就労ワーキング 委員(2016〜)日本職業リハビリテーション学会 近畿ブロック代表理事(2017〜)NPO法人ジョブコーチネットワーク、NPO法人自閉症eサービスが主催する研修・セミナー等での講師・トレーナー・コンサルタント等(2013〜)