人事担当者にとって、新年度がスタートするこの時期は従業員の異動などに関連した業務が増え、最も忙しくなります。併せて、自社の障害者雇用数を報告する義務、いわゆる「ロクイチ」報告の時期でもあります。この「ロクイチ」報告は、障害者雇用統計のもととなる数値報告のため、各企業から提出される内容は雇用の現状を把握するにあたって非常に重要となります。(厚生労働省「障害者雇用状況の集計結果」)
ずっと以前に比べて、「障がい者の雇用義務」「法定雇用率の達成」は、社会的責任・ダイバーシティ経営という企業評価のかたちが浸透した今の時代では、経営層にとっても重要な課題のひとつだという捉え方が進んでおり、事業目標として掲げる企業も増えてきました。しかし、その一方で直近の「障害者雇用状況の集計結果」を見ると、法定雇用率2.2%を達成している企業の割合は該当企業101,889社の48.0%となり、前年の45.9%よりも2.1ポイント増加したものの、全体の半数に満たない数値というのが現状です。
半数を超えない理由のひとつは、障害者雇用に対して消極的な姿勢の企業が依然多く存在しているからだと考えます。
そのような状況の中でも、人事担当者にとって障がい者法定雇用率の達成というのは、目指すべき目標のひとつに挙げられると思います。自社での法定雇用率の達成で難しさを感じるのは、様々な要因の発生時であっても達成状態を継続させるという点です。人事担当者としては、不足状態が見られる場合には、新たな求人活動により人員を採用していくというサイクルで取り組んでいると思います。どうしても目前の数値達成に重きを置き過ぎてしまうのですが、これからは企業の成長に合わせて障害者雇用も持続性のある取り組みとする時代になってきていることを感じます。
例えば、現在障害者雇用が達成している場合でも、ある状況下に置かれているとしたら近いうちに雇用数が不足してしまい、罰金の支払いが発生。ハローワークからは「雇用未達成企業」というレッテルを貼られてしまうかもしれません。
もし、自社が下記に挙げる状況にあるとしたら、今からでも遅くありません。助成金の利用や身近にある社会リソースの活用と共に障害者雇用に対する理解促進(障害者雇用をデメリットからメリットに)につながる取り組みが必要です。これからでもできる準備・計画を進めてほしいと思います。
①50代以上の障がい者が70%を越えている《危機度★★★★★》
自社で雇用している障がい者の年齢層をご存知でしょうか。
人事担当者は自社の雇用している障がい者の様々なデータを把握していると思います。例えば、「障がい特性」「障がい等級」「年齢」「体調」など。特に「年齢」からみる雇用の状態は今後の法定雇用率の達成維持とそれに向けた採用活動に大きく関わってきます。
厚生労働省から興味深いデータが公表されています。障がい者の求人募集の際、身体障がい者の採用を希望する企業が多いと思いますが、実は身体障がい者人口の74%以上は65歳以上になります。
65歳未満:26% 65歳以上:74%
知的障がい者(108.2万人)
65歳未満:84% 65歳以上:16%
精神障がい者(392.4万人)
65歳未満:62% 65歳以上:38%
参考:厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/seikatsu_chousa_b_h28_01.pdf
仮に雇用している障がい者が10人の企業で70%にあたる7人が50代以上だった場合、65歳を定年として長くても15年後には全員が定年退職となります。該当者が「身体障がい者」だった場合、退職者の後任として採用する障がい者は「身体障がい者」以外になる可能性が高くなります。加えて重度の障がい者だった場合、ダブルカウント(二人分)の採用は競争が激しいため非常に苦労することが考えられます。また、障がいがあるために想定よりも早く退職時期を迎える方もいると考えると時間はあまりないといえそうです。
雇用率が達成している現時点で採用の計画を立てなくてはいけません。また、これまで長年にわたって自社に貢献していただいた高齢の障がい者ですから、次に採用される障がい者への周囲からの期待値も高いものになってしまうことも考えられます。そのため、配属先には障害者雇用の現状というものを事前に伝えて、理解しておいてもらうことも必要ではないでしょうか。
②障がい者業務のほとんどが付帯業務《危険度★★★★☆》
付帯業務とは、「雑務」「定型作業」「補助業務」など、その仕事そのものが売り上げに直結せず、例えるなら「アウトソースしても大丈夫な業務」となります。
現在、企業での雇用の職場では、障がい者に担当してもらう仕事の多くが付帯業務になっています。「シュレッダー作業」「郵便物の仕分け」「清掃」「封入作業」「データ入力」など、特徴としては「作業量が多い」「単調な反復作業」「判断が少ない」といった点が挙げられます。企業は、各部署への協力と工夫により障がいがある人材でもできる仕事を切り出すのに大変な苦労をしています。その苦労が「障がい者の採用=仕事の切り出しが負担」というイメージになってしまい、積極的な採用の邪魔をしてしまっている部分もあると感じます。
これからを考えてみましょう。
世間ではAIやRPAの導入で助成金が受給できるなど、運用が本格的になりつつあり、大手企業を中心に職場では当たり前のように活用される時代になってきました。その反面、仕事が奪われるのではないかという声もよく聞かれます。特に障がい者が担当する付帯業務はAIやRPAへと切り替えが可能な仕事になります。仮にそれらの導入がなくても、業務の見直しにより徐々に付帯業務は減少することになります。
今後、法律の改正が続き法定雇用率は上昇することが予想され、これまで以上に企業で働く障がい者が増えます。現状のまま付帯業務を中心とした仕事に就くことが当たり前のように続くのであれば、今以上に障害者雇用に苦労することでしょう。
早い時期からこういった課題に気付き、取り組みを始めた企業は、障がい者にも主要業務に就いてもらえるように工夫をしています。例えば、業務の細分化により得意な作業を障がい者に担当してもらったり、障がい者ができない部分をRPAに補ってもらうことで仕事を奪う存在ではなく共存する道を見つける企業もあります。これからの付帯業務というのは、完全になくなることはありませんので限られた範囲の仕事しかできない障がい者には継続して業務就いてもらうことも可能です。
また、障がい者の職域開拓として、主には大企業に見られるのですが、増加が見込まれる障がい者従業員に従事してもらう業務をこれまでの仕事の延長線上ではなく、本業とは別に新しく始める事業の中で働いてもらう場を設ける企業が増えてきている印象です。例えば、製造メーカーやソフト開発企業が農業や外食産業で障がい者を雇用するという形です。
自社で取り組むことができる障がい者の新しい働き方と出会うために行動してみませんか。