集約型と分散型
これは、あくまで個人的に考えた勝手な定義づけです。
障害者雇用の「集約型」とは、特定の会社・部署に障がいのある人を集めて雇用すること。特例子会社や中規模以上の企業(グループ適用)がスケールメリットを活かし、庶務や軽作業、単純作業などいわゆる「間接業務」を特定の職場に集約し、雇用するスタイルです。間接業務ではないですが、所有するビルや敷地内の清掃業務を「集約型」で取り組む事例も多くあります。
一方、「分散型」の雇用は、会社・部署に障がいのある人を分散させて雇用すること。例えば、小売業・飲食業等で地域に点在する店舗に対して1店舗1人以上の障害者雇用を行ったり、社内の部署や担当チームなどの1つの集団に1人以上の雇用をするなど、散らばって雇入れするスタイルです。
根強い集約型
集約型の代表例は、特例子会社です。現在、日本には464社(平成29年6月1日現在)の特例子会社があり、調査研究等があるわけではないので実態は定かではないが、ざっくり半分以上、いや7〜8割以上は「集約型」の雇用形態をとって経営されているように思います。
根強い人気というと語弊があるかもしれませんが、集約型雇用のほうが障がいのある人を雇用する上で効率的に雇入れしやすいというのが理由のひとつなように思います。
慶応義塾大学中島隆信先生の問題提起
最近、慶應義塾大学商学部教授の中島隆信先生が「新版 障がい者の経済学」を出版されました。その中で、特例子会社による“仕事切り出し型”や“内部取り込み型”の問題点を指摘されていました。
集約型で行う「間接業務」自体は本業ではないというのが中島先生のご意見で、「間接業務」の拡大が企業業績の向上に寄与するわけでもなく、むしろ、これらの「間接業務」をなるべく省力化していくことが企業収益の向上に貢献するため、障がいのある人に担ってもらいやすい「間接業務」を社内で増やすことは、企業経営にとってプラスにならないという問題提起でした。
分散型の成功事例
これは、とある特例子会社A社のお話です。
日本全国に店舗展開されているA社は、各店舗に障がいのある社員を雇用できるよう努めており、全店舗の7〜8割以上は1店舗1名の雇用を実現されています。店舗での採用権は、店長。採用前の実習受入れ、面接等の採用見極め、一般従業員への周知と理解啓発、雇用後の職場定着支援などは、特例子会社に在籍する障害者雇用専門スタッフが各店舗に巡回し、店長への助言やサポートをする他、雇用された障がいのある従業員のサポートも行っておられます。
ここでのポイントは、障害者雇用に関わる専門的知識や技術は専門スタッフに「集約」してはいるものの、障がいのある人の雇用は「分散」し、専門スタッフが「分散」された障がいのある人と雇用店舗のサポートをする仕組みです。
障害者雇用(法定雇用率)の未来
厚生労働省は、人材不足や少子高齢化の時代の流れも鑑みて、働けそうな人にはできるだけ働いてほしいと考えています(たぶんですが、そのはずです)。また、法定雇用率は、精神障がいのある人を算定基礎に加えたこともあって、今年の4月から2.2%(民間企業)になり、3年以内にプラス0.1%の改定が決まっています。
法定雇用率は、5年に一度の見直しとなっており、2023年にまた大きな変更が予想され、2.3%から0.2〜0.3%程度の上昇は想定内と考えておいたほうがよいかもしれません。(5年毎の見直しで、近年は0.2%程度の上昇となっていますので…)
「集約型」は、大企業などのスケールメリットを活かせば、これからもある程度は実現可能かと思いますが、日本の企業の9割以上は中小企業であり、「集約型」にしたくてもできない事情もあり、「分散型」を目指すしかない企業が多いのも実情ではないでしょうか。
ダイバーシティの相乗効果に期待を
LGBTや障がいのある人など、社会にはマイノリティと言われる人が多様におられます(LGBTは約8%、障がいのある人は約6.7%)。
また、身近なところで考えると、外国人旅行者や留学生は上昇傾向にあり、街中で見かけたり、道を聞かれたりすることも昔に比べて多くなりました。
(外国人のマナーの悪さを指摘する方もおられますが、日本と外国の文化・生まれ育った環境の違いを理解することも大切ですし、何よりも外国人による経済効果はとても大きですしね。)
近年は、ダイバーシティ経営やインクルーシブ教育などが注目されることも多くなり、マイノリティの人を受け入れ、お互いを尊重し、違いを活かし合う取り組みが増えています。人それぞれの多様な違いを理解するには、知らないことや分からないことも多いため、エネルギーや労力は結構かかりますが、将来的なコストパフォーマンスは高いはずです。
「人を大切にする経営学会」の会長で「日本でいちばん大切にしたい会社」の著者でもある法政大学大学院坂本光司教授は、多くの仮説を考えて研究されており、その中に以下のことも含まれています。
- 障害者雇用を推進すると業績がよくなる、という仮説
- 終身労働こそが未来の日本を元気にする有効な処方箋だ、という仮説
実際に、障害者雇用が経営に大きな効果をもたらした企業を著書の中で多く取り上げられており、ダイバーシティの相乗効果は実証されています。
マイノリティの人をひとつの集団として固めるよりも、社会の中の構成比と同じスタイルでマイノリティの人が職場に混ざって働くほうがとても自然なのだと思います。
一人ひとりを大切にした組織文化の醸成を、私も日々の実践で積み重ねていきたいと思います。