~前半~障がい学生を採用するメリットと、採用時に確認したいポイント

はじめまして。伊藤かおりです。
私は、臨床心理士・公認心理師として、行政、福祉、教育、医療領域などで、主に障がい児者支援に関する仕事をしてきました。
障がい者雇用については、以前勤務していた発達障害者支援センターで、発達障がいのある方たちの就労支援に携わる中で、障害者就業・生活支援センター(通称、ナカポツ)や就労移行支援事業所の職員の方、ハローワークにいらっしゃる発達障がい支援トータルサポーターの方などと、連携させていただきながら、関わってきました。

そして、その後着任した地方の私立大学で、「合理的配慮の申請(reasonable accommodation)」をする必要がある、障がいのある学生(以下、障がい学生)の支援に携わり、学生や保護者と共に、障がいの状態やそれに伴う困難さを確認しながら、「合理的配慮申請書」を作り、大学側に承認、支援してもらうための手続きをしたり、うまくいかないときには随時、調整などをしたりしてきました。

なお、聞き慣れない言葉ではありますが、この「合理的配慮」というのは、障がい者から何らかの助けを求める意思の表明があった場合、提供する側が過度な負担になり過ぎない範囲で、社会的障壁を取り除くために必要な配慮のことを指しています。

今回は、コラムのトピックとして、年々増加している「障がい学生」の障がい者枠で採用するメリットや、採用時に確認したいポイントについて書いていきたいと思います。
是非、参考にしていただけると幸いです。

今、あなたの企業にいる障がい者の方達が、どういった経過をたどって、採用されているかご存じでしょうか?新卒であっても、中途採用であっても、今あなた達の企業にたどり着くまでに、実にさまざまなストーリーがあるものです。

障がい者雇用を選択するまでの経過として、主に、以下の2つに分けられます。

  • 特別支援学校の高等部を卒業し(特別支援教育を受けてきた)、障がい者雇用を選択した
  • 高等学校や、大学などの高等教育機関を卒業し、就職したのち何らかのきっかけで、障害者就業・生活支援センターや就労移行支援事業所などの支援機関のサポートを受け、障がい者雇用を選択した

どちらも、支援を受けてきており、障がい者の方に、その方をよく知る担当者がついていてくださるため、障がい者枠の採用の場面で、よくお会いする方達だと思います。

そして、近年では、この2つに当てはまらない
「卒業予定の障がい学生であり、障がい者雇用を選択する」場合も、徐々に増えています。

障がい学生とは、自ら「合理的配慮の申請」をして、大学側と調整を重ねながら、配慮や支援を受けてきた、なんらかの障がいのある学生のことです。
身体障害者手帳や精神保健福祉手帳を取得している学生もいれば、発達障がいなどの診断を受けているだけで、手帳は取得していないもあります。
配慮や支援を必要としない場合は、この申請を出さずに学生生活を送ることもありますし、診断があってもそれを開示しなかったりする場合もあります。
合理的配慮の申請をする学生の、障がい種別の内訳は、知的障がいはほぼなく、身体障がいや精神障がい、難病、発達障がいである場合がほとんどです。

障害者差別解消法(障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律)が施行されてから、各大学では、それまではなんとなく行っていた障がい学生の支援の在り方を明確に示しはじめています。担当部署(障がい学生支援室など)や担当者を設置している大学も増え続けています。

これまで、何度か障がい者枠での採用を試みたもののうまくいかず、なんとなく障がい者の採用に苦手意識をもっていた企業の人事採用担当者の方には、是非このコラムをきっかけに、障がい学生の採用を一度検討していただけたら、大変うれしく思います。

※なお、このコラムは、上記の方達よりも、障がい学生の方が採用しやすいということを主張するものではありません。障がい者雇用の門を叩くに至った、その背景を知っていただくこと、障がい者枠の採用に対する苦手意識を打破するきっかけとして、これまで、採用時にお会いした方達とは異なる背景の方の採用を検討していただきたいとの思いで、書かせていただいています。

【メリット①】

障がい学生が、大学でどのような配慮や支援を受けてきたかを知ることで、企業側が採用後、どのような配慮や支援が必要になるか参考にすることができる。

⇒ 実際に、採用面接の段階になって、急遽必要な配慮や支援を、支援者とともに懸命に考えたとしても、ご本人の実態に即していないことがあります
(そもそも労働環境が不透明な中、必要な配慮や支援を考えるのは、支援者であっても相当困難なことだと思います。また、ある程度予測はできたとしても、働きながら調整していくことがほとんどです)。

障がい学生でない場合、ご本人が、自身に必要な配慮や支援がよく分からない(または、受けてきた配慮や支援が曖昧でよく分からない)という可能性もあります。
一方、障がい学生の場合、大学在学中、自ら配慮や支援を申請してきたので、分からないということはほとんどないと思います。ご本人にとっても、提供する側の方たち(たとえば、授業担当者)にとっても、その配慮や支援に「実績」があります。
これは、配慮や支援を提供していく企業側として、とても重要な点なのですが、支援の専門家が提供してきたものではない(大学の授業担当者のほとんどは、障がい者支援の専門家ではありません)ため、配慮・支援内容が、社内で提供することが困難な「机上の空論」になりにくく、配慮・支援内容の要求水準が高くなりすぎるという可能性は低いです。

【人事採用担当者は、ここを確認!】


私が言わずもがな…(書かずもがな…?)ですが、大学などの高等教育機関で教育を受けることと、働くことは大きく異なり、必要な配慮や支援の内容が「全く同じ」ということはありえません
また、大学では障がい者支援について専門知識の担当者が学内でサポートをしたり、学生ボランティアが支援したりしていることが多いですが、企業内にはそういった方(例えば、企業在籍型ジョブコーチなど)がいることは大変稀なことだと思います。

この2点については、採用時に、以下のような質問をして確認すると良いと思います。

  • 「働く」上で、どのような配慮や支援が必要と考えているか。
  • 常にサポートをしてくれる人が社内にいるわけではないが、大丈夫か。またそれを補う支援先はあるか。など

さて、いかがでしたでしょうか?長くなってきたので、続きは後半に書いていきますね。引き続き、読んでいただけると幸いです。

ABOUTこの記事をかいた人

▼プロフィール:
1985年生まれ。公認心理師、臨床心理士。
国立大学大学院修了後、県発達障害者支援センターにて発達障害児者支援に従事。その後、大学に着任し、障害学生支援、学生相談に従事。現在は、小中学校でのスクールカウンセリング、療育機関での発達検査や発達相談、大学での講義などを行うなど、様々な現場で支援に携わっている。


Twitter:https://twitter.com/itocao2023