「障害者雇用相談援助助成金」8つの項目から見る障害者雇用体制づくりのポイント【前編】

少し前に「障害者雇用相談援助助成金」制度に関する記事を書きました。この助成金では、本格的な障がい者雇用に踏み込めず法定雇用率が未達成の企業を大きな対象として、今後の障がい者の採用と雇用定着に求められる組織による障がい者人材の活躍の場を作ることが目的であると考えます。
これは、法定雇用率の達成だけが障がい者雇用のゴールではなく、働く障がい者が仕事を通じて「キャリアアップ」「生活水準の向上」「自己肯定感を高める」の実現が自己の成長につながるノーマライゼーション社会の構築援助でもあります。

この制度を活用した障がい者雇用体制を作るにあたり、基準として8つの項目が挙げられています。この項目は障がい者の採用から雇用・定着を継続した取り組みとして組織に浸透させるためのプロセスとなっています。それぞれの項目について、具体的な方法や理由が分かることで、これから障がい者の雇用に取り掛かる企業はもちろん、すでに雇用に取り組みながら課題に直面している経営者・人事担当者にとって解決のヒントになればと思います。

企業が取り組む障害者雇用管理について(8項目)

①経営陣の理解促進

2024年4月の障害者雇用関連の法律改正を目前に控えた現在、障がい者の雇用義務のある企業数は10万社を超え、働く障がい者の実数は約65万人となりました。一方で障がい者人口は約1,160万人(内訳「身体障がい者:436万人」「知的障がい者:109.4万人」「精神障がい者:614.8万人」)となり、日本人口のおよそ10%に達した数字と比較すると低い水準であることが分かります。今後も法定雇用率の引き上げは実施されると考えると職場で障がい者と働く機会も増えていきます。

組織の規模にもよりますが、これまででしたら決まった部署で障がい者に勤務してもらえれば法定雇用率を満たすことも可能でしたが、法律改正により雇用義務が強化される今後は採用される障がい者の数も増えてくるため、今まで受け入れてこなかった部署でも障がい者が勤務する場面が多くなってきます。また、多様性人材の活躍や公器としての役割だけではなく、生産年齢人口の減少により慢性的な人手不足の問題に目を向けた場合でも、障がい者人材の活用は解消させる手立てのひとつにもなり得るため、経営層からの理解のもと、経営改善のひとつとして障がい者人材の活用を掲げることが推進力へとつながっていくからです。

②障がい者雇用推進体制の構築


障がい者雇用を力強く推し進めていく際に重要なポイントが中心となって活躍する担当者の存在です。多くは人事担当者がその役割になると思いますので、人事労務に関する業務と並行して障がい者の採用活動に関わっています。担当者が高い熱量の場合、メリットとして職場への受け入れ交渉や仕事の切り出し、外部にある専門機関とのパイプ役といった社内外に向けた活動を通して企業に多くの実績を残してくれます。
反面、担当者に頼り切ってしまった結果、障がい者雇用に関連した知識・ノウハウや専門機関との関係性が属人化しやすくなります。担当者の異動や退職により企業内の障がい者雇用に大きな影響を与えてしまう体制では継続した取り組みとは言えません。

継続性の高い障がい者雇用のポイントは、当初から体制構築を視野に「個」の担当者を中心に周囲を固めるチームを編成していく考え方がこれからの障がい者雇用に求められるスタイルとなります。

③企業内での障がい者雇用の理解促進

障がい者雇用で本人の活躍や業務の成果へとつなげるためには、一緒に働く上司や同僚からの理解とそれに基づく協力・配慮が提供される環境づくりが不可欠です。現在、新規の採用実績の中で半数を占める精神障がい者や発達障がい者の場合ではより一層その環境が求められます。
これは、障がい者の側に立った考え方だけではなく、関わる場面が多くなる上司や同僚にとっても、「なぜ障がい者と働かないといけないのか」といった理由を伝えることはもちろん、「なぜ◯◯な配慮を求めるのか」「どのようなことに注意を払えば良いのか」を知っておくことで両者が健全な関係性のもと、それぞれが職場で成果を上げ、お互いを認め合える環境が障がい者も活躍できる組織となります。

これらのことを進めていく方法として「社内研修」「ワークショップ」「雇用企業の見学」など、働く障がい者に関する知識を身につけるための取り組みが挙げられます。
また、採用活動が進むにつれ「企業内実習」といったインターンシップを導入し、想定する障がい者に任せたい仕事を実際に障がいのある方に体験してもらうことで、受け入れ側の従業員が障がい者についての理解を深める方法も有効的です。

④当該企業内における職務の創出・選定


障がい者の採用にあたり、多くの企業で直面する課題が「業務の切り出し」です。採用した障がい者にどのような仕事を任せ、成果を上げて貰えばいいのか。
会社の中には様々な部署・役割が存在し、業務内容も様々です。任されている業務に誇りを持っている従業員の場合、例え障がい者の雇用のための業務切り出しであると伝えても理解・協力をもらえない場面も少なくないと思います。しかし、障がい者の採用数が増える今後は社内にある各部門からの業務切り出しによる協力は外せません

「①」による経営方針として発信された障がい者の採用活動がここで必要になります。この周知された方針のもと、各部署への協力要請と併せて業務切り出しのポイントを伝えることでハードルが下がります。

業務切り出しのポイントとしては3つ。

  • 「労務管理上、超過勤務が見られる部署や業務を切り出す」
  • 「派遣も含めたアウトソースしている業務から検討する」
  • 「時間・労働力の問題から後回しとなっている業務を切り出す」

これらをポイントに部署への働きかけを行うことで仕事の確保が進みやすくなります。部署から業務を切り出したことで、本来の役割への専念・新たな職域への拡大など、今後の企業戦略への道筋が見えてきます

また、すでに障がい者雇用に取り組まれている企業による先進事例の中には多くのヒントが隠されています。そういった企業では、職場見学の相談にも快く対応してもらえるところが多く、見学を通じて得た情報には直接的に実践できるノウハウだけではなく、

障がい者雇用による効果・新たな組織文化などにも触れる貴重な機会にもなります。

次回へ続く。

ABOUTこの記事をかいた人

[障害者雇用コンサルタント]
雇用義務のある企業向けに障害者雇用サポートを提供し、障害者の雇用定着に必要な環境整備・人事向け採用コーディネート・助成金相談、また障害者人材を活かした事業に関するアドバイスを実施。障害者雇用メリットの最大化を提案。その他、船井総研とコラボした勉強会・見学会の開催や助成金講座の講師やコラム執筆など、障害者雇用の普及に精力的に取り組んでいる。

▼アドバイス実施先(一部抜粋)
・opzt株式会社・川崎重工業株式会社・株式会社神戸製鋼所・沢井製薬株式会社・株式会社セイデン・日本開発株式会社・日本電産株式会社・株式会社ティーエルエス・パナソニック株式会社・大阪富士工業株式会社・株式会社船井総合研究所・株式会社リビングプラットフォーム