コロナ禍で障がい者の雇用を進めるために考える3つのポイント

新型コロナウイルスの感染により、これまでの当り前だった日常生活は変化を求められました。
例えば、

  • 外出や入店時のマスク着用
  • これまで以上の衛生管理の徹底(消毒液の携行、パーテーションの設置 等)
  • 複数名での外食率の減少、自炊・デリバリー需要の増加
  • テレワーク導入やオンライン会議など、仕事上のリモート化の浸透

新型コロナウイルスによる日常の変化を浸透してから1年が過ぎましたが、これほど短い期間に様々な場面で変化を求められたことは人類史上経験してこなかったのではないかと思います。
この変化は現在進行形なところもあり、これから先がどのようになるのかという明確な答えを持つ人はほとんどいないのではないでしょうか。

障がい者の雇用についても、これからの雇用がどういった方向に進んでいくのだろうという話題について企業の人事担当者や支援機関の方との話す機会も少なくありません。分かっていることは、「法定雇用率は今後も上昇」「企業に求められる多様性ある社会の実現」です。これまでの法律を遵守するための義務感に加え、社会的な責任としての実効性も求められます。
そこで、現在のコロナ禍で見られる雇用や支援の状況から3つのポイントについてお話したいと思います。

はたらき方の変化


はたらき方の変化として最も特徴的なのは「テレワークでの障がい者雇用」です。
これまでであれば、テレワークの導入に対して懐疑的な感情が邪魔をしてそれほど積極的ではない世の中でしたが、新型コロナウイルスの感染予防対策である人流を抑える手立てのひとつとして国や厚生労働省がテレワークの導入を声高に呼びかけるようになりました。
一時期に比べるとテレワークの普及率は30%程度となっていますが、はたらき方のひとつとしての地位は確立されたといって良いと思います。私の身近にもテレワークによる勤務を前提にした障がい者求人・採用を実践検討している企業が増えてきたと実感しています。それは、テレワークの実施によって得た経験から障がい者雇用にも拡大できると判断した部分が大きいと思います。

「テレワークによる障がい者雇用のメリットとデメリット」

【メリット】

  • 地域拡大により選考対象者が増
  • 重度身体障がい者(例:車イス使用者)の採用が可能
  • 自宅勤務のため体調への負荷軽減

【デメリット】

  • リモートによる労務・体調管理体制の確立
  • 遠隔地とのコミュニケーション

自治体によってはテレワークの導入に関連した助成金もありますので、この機会に実施を検討してみるのも良いのではないでしょうか。

参考: テレワーク定着促進助成金(東京都、中小企業)
https://www.shigotozaidan.or.jp/koyo-kankyo/joseikin/2-teichaku.html

採用工程の変化


現在、障がい者の求人を進める際に、ハローワークや人材会社など複数の募集ルートがあり、人事担当者も頭を悩ますことがあるのではないでしょうか。それぞれの募集ルートには強みがあり、自社が求める「人材」「処遇・形態」「仕事内容」などによって活用先は変わってきます。
私の場合、地域にある障がい者を対象にした就労支援福祉サービス(就労継続支援A型、B型、就労移行支援事業所)に通所している人材から採用を進めるようにしています。

一番の理由は、障がい者の方たちが「一般企業への就職に向けた訓練を積んでいる」からです。
また、就労支援福祉サービスによる支援を受けていますから、採用活動から雇用後のサポートまで熱心に対応していただけますので、企業としても離職などのリスクを少しでも軽減できるため活用メリットが高いと思います。

その採用活動で企業に実践していただきたいのが『企業実習』です。
『企業実習』は企業の「障がい者理解促進」と障がい者の「社会経験」の場として設けられていることに加え、採用時の「雇用のミスマッチ」を防ぐ効果もあるため、定着実績の高い企業ではすでに導入されている採用工程のひとつなのですが、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、その実施件数が減少傾向にあります。『企業実習』を活用していた企業も就労支援機関の利用者も双方が理解を進める場が減ったことで雇用に向かう速度が鈍化してしまっています。

現在、一部ではありますが、「オンラインによる実習」を取り入れる企業や就労支援機関が出てきました。オンラインでも取り組める業務の切り出しとマニュアルなどの仕様書が準備できれば、テレワークを実施してる企業でも十分導入することが可能です。
今後は、採用工程もオンライン化がスタンダードになってくることが予想されます。

仕事の変化

これまで障がい者の仕事として企業内で切り出されていたのは、メイン業務を補助するような仕事、例えば「配布資料をホッチキス止めする」「複合機に用紙をセットする」「郵便物を仕分けする」といった“付随的な業務”が考えられました。

しかし、新型コロナウイルスではたらき方や業務の進め方など、組織や職種によって大きな変化を求められることになりました。テレワーク実施企業はより一層の効率化を目指し、ペーパーレス・押印の廃止なども進んでいます。(当社も一部の取引先では請求書発行をデータ送信に切り替えています)
熱心に障がい者雇用に取り組んでいる人事担当者はこういった課題に早くから気付き、今後の採用に合わせて仕事をどのように準備していくかについての情報を集めています。

障がい特性によっては、テレワークやオンラインでの勤務にマッチしにくい人材もいるため、自社にとってどのような人材が必要なのかという点を踏まえて、これまで以上に業務特性や職種に合わせた障がい者の採用活動が求められてきます。

他にもアウトソースしている業務の内省化も障がい者雇用に該当する業務として考えられます。
また、新たな事業の展開の中に障がい者労働力を組み込んだ企画や就労支援機関が持つ強みを自社の業務として活用するようなコラボレーションモデルも今後は増えてきます。

ABOUTこの記事をかいた人

[障害者雇用コンサルタント]
雇用義務のある企業向けに障害者雇用サポートを提供し、障害者の雇用定着に必要な環境整備・人事向け採用コーディネート・助成金相談、また障害者人材を活かした事業に関するアドバイスを実施。障害者雇用メリットの最大化を提案。その他、船井総研とコラボした勉強会・見学会の開催や助成金講座の講師やコラム執筆など、障害者雇用の普及に精力的に取り組んでいる。

▼アドバイス実施先(一部抜粋)
・opzt株式会社・川崎重工業株式会社・株式会社神戸製鋼所・沢井製薬株式会社・株式会社セイデン・日本開発株式会社・日本電産株式会社・株式会社ティーエルエス・パナソニック株式会社・大阪富士工業株式会社・株式会社船井総合研究所・株式会社リビングプラットフォーム