前回の続き
③適性に見合った業務マッチングと評価
続いて「③」について。
前項「②」にも関連するところになります。性格や顔形に違いがあるのと同様に障がい者個々の特性にも違いがあるということを前提に進めてください。
- 適性に見合った業務とのマッチングには「担当業務」と「手順」に分けて考える
適性に見合った「担当業務」とのマッチングのためには、本人の障がい特性との相性とその強みを活かすことができる仕事を考えます。
仮にひとりでコツコツと取り組む仕事で且つPCの入力が得意な方であれば、書類のPDF化業務を想定して進めてみる。また、そういった業務との出会いは簡単に見つけられないこともあります。想定していた業務にトライ&エラーを繰り返しながら本人も気づいていない特性に気づく時もあります。
「手順」についてはわかりやすいところで説明するとマニュアルを使い、担当業務の手順を身につけていく方法です。
この場合、当事者にとって適性なマニュアルとなっているのかが重要になってきます。一般的には文字で綴られた内容だと思いますが、特性によってはイラストや写真を挿入したマニュアルの方がインプットしやすい方もいらっしゃいます。(視覚優位)
または、業務全体の把握をした上で自分の役割を理解してから仕事に取り組みたい特性の方や自分の担当した仕事が最終的にどのような成果となっているのかを知ることで業務に一層集中して取り組むタイプの方もいたり、その方々の特徴を理解していくことが求められます。
これをひとりの実務担当者だけで担っていくには限界があることを理解する必要があります。
担当する業務が決まった次には評価があります。
これまで障がい者の仕事に対して明確な評価制度を導入しているところは少なかったため、改めてはたらく障がい者のためのクライテリア(評価基準)が必要だと感じる組織が増えてきました。
はたらく障がい者のクライテリアを設ける際に、できるできないの判断が「障がい特性」によるものなのか「人材としての資質」によるものなのかの線引きが難しいという話を耳にします。
それぞれの組織に従来から設けられているクライテリアをベースとします。この部分でも個々の障がい者の特性に関する共通認識が重要なポイントになります。
例えば聴覚障がい者と一緒に目標を設定する際には本人の持つスキルも把握しながら、「毎月の資料作成とレポート【人材の資質】」と「情報共有はチームチャットのテキストにてリアルタイムで実施【特性に対する配慮】」のように区別したことも両者で共有させることで認識のズレが解消されます。
結果として目標に対する達成率(数値)と到達しなかった理由の解析(特性か資質か)を繰り返しながら成長を促して行きます。
組織によっては、障がい者が多数所属する部署に他部署から業務を切り出してきて業務マッチングさせているところもあります。その場合、体調管理や業務マネジメント組み立てやすいというメリットがある一方で組織への障がい者人材といった多様性理解を深く浸透させる点では進みが鈍化することが考えられます。
④外部の専門機関からのサポートも雇用定着に不可欠な要素
最後に「④」です。
数年前に比べ障がい者雇用に関連した専門機関の存在が企業にも周知されてきたと感じます。障がい者の求人や採用で活用されているリソースはハローワークを筆頭に障がい者人材に特化した紹介会社が多かったのですが、最近では障がい者就労移行支援事業所のような就労系障がい福祉サービス事業所(福祉事業所)から障がい者を採用する企業が増えてきました。
私自身も福祉事業所の活用にはメリットが大きいと感じています。
例えば、
- 障がい者の専門的な知識があるスタッフを配置
- 求人に関連した実習、採用後の定着フォローにも対応
- 仕事の切り出し、コミュニケーション方法などのアドバイス
- ほとんどが無料で対応
といった点はもちろんですが、事業所ごとに特徴や強みを持っています。
先般からお伝えしているように、現在の障がい者雇用には専門性が欠かせません。自社で賄えない範囲にも及ぶことがありますので、そういった時には福祉事業所の役割が大変重要になってきます。
雇用する障がい者の特性範囲が広がるに従って、職場が求められる配慮や支援にも広がりが出てきます。場面によっては外部にある福祉事業所の支援員の力を借りることになります。一人や二人の障がい者であれば人事担当者が窓口となって個々の対応にも時間を割けるのですが、複数名になってくると人事担当者だけでは対応が厳しくなってきます。また、複数の福祉事業所から採用をするようになれば、それだけ支援員の数も増えてきます。
窓口業務は人事担当者が対応するとして、個々の障がい者への対応については職場の管理者や担当者と連携を取りながら進めていきます。
《福祉事業所》 ⇆ 《人事担当者》 ⇆ 《職場の管理者・担当者》
このように、従来から考えられていた障がい者雇用は、これまで以上に専門性・組織力が求められるようになってきました。多様な人材活用は多様な障がい特性のある人材の活用となります。法定雇用率の達成を目的のひとつとして求められていた人事担当者の役割を企業として再考するターニングポイントに差し掛かっていると感じます。