取材レポート:株式会社ファンケルスマイル

これまでミルマガジンでは、障がい者雇用に取り組む企業、障がい者の自立を後押しする支援事業所、企業で特性を活かし活躍する障がい者を取材しご紹介してきました。

当サイトは「障がい者雇用を応援する」ための情報を発信しています。特に企業における障がい者雇用事例には感心させられることが多くあり、それぞれの企業で取り組む障がい者雇用には独自性が見られるのは、100社あれば100通りの障がい者雇用事例が存在することになることを表しています。
私自身も取材を通してたくさんの経験と学びがありました。読者の皆様にとって雇用の現場で参考になる事例をこれからもご紹介していきたいと思います。

今回は、化粧品や健康食品の製造・販売でご存知の方も多いと思います。神奈川県横浜市に本社を置く株式会社ファンケルの特例子会社である『株式会社ファンケルスマイル』を取材しました。当日は同社代表取締役 簑島修氏から障がい者雇用を始めたきっかけや独自の取り組みについてお話をお聞きしました。

設立のきっかけ

《話・簑島氏》

当社は1999年に設立し今年で23年を迎えます。親会社であるファンケルの創業者である池森氏の強い思いから当社が生まれました。
当初設立前のある時、経営者が集まる勉強会にて障がい者施設の見学会を実施することになり、池森は重度心身障がい者の方たちが通所する施設「社会福祉法人 訪問の家」を見学することになりました。
重度心身障がい者は生まれつき身体に重度の障がいがあるために自分自身の意思で自由に動いたり話したりすることが困難な方々です。施設でその方々の様子を見た池森は心にズシンと響くものがあり、すぐにその場を通り過ぎることができませんでした。「障がいのある方やそのご家族には「社会的自立」という大きな願いを持っている」こと。さらには「知的障がいがあっても、社会に出て働く力を持っている方はたくさんいるが、働く場所が無くて困っている」という現状があることを知りました。

我々ファンケルグループの創業理念は『正義感を持って世の中の「不」を解消しよう』です。世の中の方々が感じている「不」を我々が提供するサービスで解消していただき、安心や満足に変えていただくことを目指しています。
障がいのある方の置かれた環境を知り、この「不」を解消することも我々の責務であると考え、株式会社ファンケルスマイルが設立されました。

障がい者雇用のご紹介

ファンケルグループには、当社の本社がある横浜市栄区の飯島ビルの他、全国7つの拠点があり、それぞれ商品を製造している工場や物流倉庫、本社・研究所で日々活躍してもらっています。
各拠点での仕事内容は多岐にわたっています。一例として、

  • アッセンブリ(組み立て・梱包)/化粧品包装業務
  • DM関連業務(印刷・封入・発送)
  • 社内メール便の受配
  • 会議室管理業務(備品の貸し出し、会議室のセッティング)
  • 施設内の消毒巡回(コロナ対策の一環)
  • 研究補助業務(容器・分析機器の洗浄、食塩水の分注など)
  • 廃棄物の回収、清掃業務               など

もちろん、一般的な事務関係の仕事も対応しています。
特に最近ではSDGsに関連した取り組みのひとつとして、化粧品容器のリサイクル業務の一端を担っています。全国から回収された使用済み化粧品容器の洗浄業務です。今後作業量の増加も想定して増員も視野に入れています。


業務を細かく見ていくと100以上の仕事を手分けしてあたっています。一般的に業務の切り出しが大変だと耳にすることがありますが、企業風土としてファンケルグループ内には何か仕事が発生すると「ファンケルスマイルに聞いてみよう」となる文化ができているぐらい当社の存在がグループ全体の中で当たり前になっています。
これも創業者である池森氏の考えが浸透しているからだと思います。

さらには、新たな試みとして「スマイルスイーツファクトリー」という製菓事業をスタートさせました。当社が設立してから23年が過ぎ、スマイルのベテラン社員の中にも50歳を超える者が出てきました。加齢により従来担当してもらっていた業務にも多少の影響が出てくるのは仕方ありません。定年を迎える年齢までの目標を考えたときに新たな活躍の場を用意したいと思い、たどり着いたのが製菓事業であるスマイルスイーツファクトリーでした。

ファンケルで販売をしている発芽米を粉にして小麦粉の代わりとして使用しており、グルテンフリーの観点から体に優しい焼き菓子を作りたいということでプレーンとナッツの2種類のクッキーを製造・販売しています。担当する社員はこれまでの座り仕事と違い立ち仕事も多いため体がキツいと感じる点もあったと思いますが、お菓子作りの仕事は楽しみながら取り組んでいるようです。

事業としては中長期的な視点から軌道に乗せていくことを目指して、今はファンケルグループ内の販売会などで認知を広めていくようにしています。一般のお客様向けには、銀座にあるファンケル銀座スクエアやファンケル本社でも購入していただけます。



設立時の苦労話

設立当初は苦労の連続でした。
設立当時、地域の就労移行支援事業所を通じて10名の障がい者を採用しました。
特例子会社ができたものの、社内で支援する従業員は障がい者のことが全く分からない人材ばかり。採用した障がいの社員も、ある程度は訓練を受けているだろうと期待を持っていましたが、実際には朝礼の時間になっても全員が集まってこない。シールを貼る作業をお願いしても綺麗に貼ることができない。パニックを起こす社員や会社を飛び出してしまい急いで捕まえに行ったりなど、職場が落ち着かない状態が絶えず発生しました。

その当時はどのようにして仕事に就いてもらえば良いのか分からないことばかりで暗闇の中を手探りで進んでいるような状態が続きましたが、二人三脚のようにとにかく一緒に仕事をして、目で見て仕事の理解を促す工夫や個々の特性の理解にも努めました。
また、社外の専門機関に相談をし、ジョブコーチの方に職場に入ってもらうなど、障がいのある10名の従業員が軌道に乗るまで大変な日々の連続でした。

設立当初はファンケル本社からも当社の存在は今ひとつな状態にありました。そこで営業部門が携わる通販関連の補助業務を手始めにひとつずつ仕事をこなしていくようになりました。そのような中、アンケートに関連した業務に取り組んでいたところ、従来の営業部門が担当していた際に3割程度だった返答率が当社で担当するようになってから5割になることがわかりました。
それから徐々に当社の仕事の丁寧さが評価されるようになったことに伴って仕事量も増えていくことになりました。

現在、仕事を通してファンケルグループ社員と当社の社員が接する機会を積極的に設けるようにしています。例えばファンケル本社の新入社員や中途社員は必ず当社で研修を受けることになっています。障がいのある人たちを理解するには接する機会が一番重要だと考え、研修のほとんどの時間、作業着を着て一緒に仕事を行い、障がいのある社員と触れ合ってもらうようにしています。
実際に障がいのある社員に仕事の手順を教えてもらったり、作業の大変さの理解、社員とのコミュニケーションを通して、誰もが持っているであろう障がいのある方に対する「思い込み」を「理解」につなげてもらうようにと考えています。


他にも全国にある店舗の新人店長も当社で研修を受講してもらいますし、親会社の新しい部門が設置されたときや個別に当社を見学に来たいといった問い合わせにも対応、さらには親会社のイベント等でも当社社員が現場に出向き、ファンケルグループ社員と一緒に協働する環境をつくるようにしています。

独自の取り組みについて

ウルトラCのような派手さはありませんが、多種多様な仕事をファンケル本社から切り出してもらっていますので、個々の特性に合わせた仕事を用意することができます。それに加えて治具を使うなどの工夫を取り入れ、各自が仕事で成果を上げられるような考え方が浸透しています。

日常的な取り組みとして出社したときに記入する「生活指導記録表」を用いて、心身の健康状態を10段階で自己申告してもらいます。各支援者は「生活指導記録表」を確認して、気になる申告があったときには声を掛けるようにしています。日々の状態を確認することで、少しの変化にも早いうちに対応することで大事にならないようにすることを心がけています。

他には社員を対象にした勉強会の実施です。業務内容のみならず社会マナーの習得なども含め勉強会を開催し、定期的に学んでもらう場を設けています。
また、最近はコロナで実施できていませんが年に一回のペースで保護者会を開催。保護者やグループホームの世話人の方々を対象に、外部講師を呼んで社会福祉資源の説明をしたり、親亡き後の自立を考えグループホームに住む社員を持つ親御さんに登壇していただき、経験談をお話ししてもらったりと、将来のことまでしっかりと考えていただけるような内容にしています。
さらにこの保護者会の開催時にはファンケルの役員にも出席してもらい、ファンケルスマイルの存在価値を親会社から伝えていただく場にもしています。

また、社員旅行や余暇活動にも力を入れています。将来は海外旅行に行きたいと言う社員の発言から英会話教室を設けたり、運動であれば卓球やエアロビック教室の設置など、仕事以外の楽しみも経験して豊かな生活につなげてもらいたいと考えています。

「本人の働く意欲と体力が続く限り、より良い環境で末長く働いてほしい。」我々が目指す姿です。


今回の取材で簑島氏からお聞きするエピソードや事例に心が躍るような気持ちがありました。同社も御多分に洩れず設立当初は苦労の連続でした。そこから見つけた一筋の光に導かれるように進むことができたのは、創業者である池森氏が感じた障がい者にとっての「不」を解消したいという強い思いからだったように思います。

世の中には障がい者雇用に取り組むも、思うように進まず苦労を経験している企業がたくさん存在します。そのような企業が参考にできる貴重な経験と実績をファンケルスマイルに蓄積されていると感じました。
ご協力ありがとうございました。

【株式会社ファンケルスマイル】
神奈川県横浜市栄区飯島町109-1
https://www.fancl.co.jp/smile/index.html

【株式会社ファンケル】
神奈川県横浜市中区山下町89-1
https://www.fancl.jp/index.html

【スマイルスイーツファクトリー製造クッキーの購入先】
株式会社ファンケル 本社1階
神奈川県横浜市中区山下町89-1

ファンケル銀座スクエア 8階
東京都中央区銀座5-8-16

ABOUTこの記事をかいた人

[障害者雇用コンサルタント]
雇用義務のある企業向けに障害者雇用サポートを提供し、障害者の雇用定着に必要な環境整備・人事向け採用コーディネート・助成金相談、また障害者人材を活かした事業に関するアドバイスを実施。障害者雇用メリットの最大化を提案。その他、船井総研とコラボした勉強会・見学会の開催や助成金講座の講師やコラム執筆など、障害者雇用の普及に精力的に取り組んでいる。

▼アドバイス実施先(一部抜粋)
・opzt株式会社・川崎重工業株式会社・株式会社神戸製鋼所・沢井製薬株式会社・株式会社セイデン・日本開発株式会社・日本電産株式会社・株式会社ティーエルエス・パナソニック株式会社・大阪富士工業株式会社・株式会社船井総合研究所・株式会社リビングプラットフォーム