障がいのある人たちと関わりの多い仕事をしている私は、障がい者アスリートの方たちと出会うことも少なくありません。
以前にミルマガジンでデフ(聴覚障がい者)ラグビーの選手である大塚貴之氏をご紹介しました。
そのときのインタビューでは聴覚に障がいのある大塚さんの「ラグビーとの出会い」や「名門帝京大学での努力」、「社会人としての経験」などを聞かせていただきました。
私から見た大塚さんは「自分で輝くことができる魅力のある人」という印象です。それは、障がいというハンディキャップを不断の努力で補い、『障がい者だから』という言い訳をしない姿勢を周囲に感じさせます。
今回は、大塚さんが所属している「特定非営利活動法人ワイルドナイツスポーツプロモーション(W.K.S.P)」でのお仕事の様子を取材させていただきましたのでご紹介したいと思います。
W.K.S.Pでは、拠点のある群馬県を中心にラグビーアカデミーを開催しています。
ラグビーアカデミーというのは、小学4~6年生と中学生を対象に週3回(水曜日は群馬県前橋市、木曜日は群馬県太田市、金曜日は埼玉県熊谷市)開催しているラグビー教室のことで、初心者から経験者までそれぞれがチームメイトではない子供たちがアカデミーに集まり週一回の練習を通じて「1、基本スキルの向上」「2、ラグビーに触れ合う機会をより多く」「3、当たり前のことを一生懸命に」を学んでいます。
取材の当日は群馬県太田市にて、夏休み前(8月はお休み)最後のラグビーアカデミー開催日でした。
毎週木曜日に開催される群馬県太田市の練習場は、ラグビーの社会人チーム「パナソニックワイルドナイツ」が使用する天然芝のグラウンドで行われますので、生徒たちは非常に恵まれた環境で楕円球を追いかけることができます。
こちらの会場では小学生の部(17:10~18:40)と中学生の部(18:50~20:20)に分かれており、練習開始時間前になると、参加している子どもたちが集まってきました。
大塚さんは子どもたちを指導するコーチ3名のうちのひとりです。それぞれコーチは自分が担当する練習プログラムに従って子どもたちに指示を出します。
大塚さんがこの仕事に就いた当初、子どもたちには体の動かし方やプレイの仕方などを細かく教えていたそうです。しかしそれでは子供たちが「自分で考える」という力を伸ばすことができないと思い、今では練習でパスのミスなどがあった時には「なぜミスしたのか」を自分たちで考えて答えを出すようにしていると聞きました。
聴覚に障がいを持っている大塚さんと子どもたちとのコミュニケーションを見ていて気付いたのは、大塚さんが伝えようとしていることを受け取り側である子どもたちが理解しようする姿勢です。
例えば、大塚さんの口の動きをしっかりと見て内容を理解しています。また、子どもたちから大塚さんに話しかける時は口を大きく開けてゆっくりと話をしています。
障がいという特徴を持つ相手とコミュニケーションを取る時にお互いが歩み寄って理解しようとする姿勢なのだと気付きました。また、子どもたちへの指導を通して大塚さん自身も多くのことを学び、身に着けているのだと感じました。
大塚さんはW.K.S.Pでのラグビーアカデミー以外にもたくさんの役割を担っています。実は大塚さんはデフラグビーの現役選手としての顔を持っており、仕事以外の時間はトレーニングやチームの練習に参加しています。
皆さんは聴覚障がい者ラグビーである「デフラグビー」という競技をご存知でしょうか。
一般的なラグビーであれば、今年2019年は日本で初めてラグビーワールドカップが開催されます。また障がい者スポーツでは、車いすラグビーの「ウェルチェアラグビー」が有名だったりします。デフラグビーのルールは一般のラグビーと同じです。但し日本ではデフラグビーの場合、15人制ではなく7人制ラグビーとして登録しています。
直近の成績は2018年に16年振りとなるデフラグビー7人制世界大会が開催され、参加国14チーム中で日本は多くの強豪国を抑えベスト4という成績を収めました。
大塚さんはデフラグビーの日本代表にも選ばれており、ベスト4となったこの世界大会にも出場し、活躍をされました。
元々ラグビーの人気の高いヨーロッパや南半球ではデフラグビーについても認知が高いのですが、アジアでは日本と香港にしかデフラグビーの代表チームがありません。そのため、大塚さんはアジアの他の国でもデフラグビーが浸透し、いつの日かアジアの国による「デフラグビーアジアカップ」が開催されることが夢だと言います。
当然、アジア以外でもデフラグビーの普及が進むのであれば協力は惜しみませんというのが大塚さんのお考えです。その一環として、つい先日までアフリカのガーナまでデフラグビーの普及活動に行っていました。このような取り組みにも積極的に参加されています。
他にも、大塚さんはラグビーだけではなくスポーツを通じて子供たちの成長と健康を広める活動のために全国どこへでも足を運んでいます。
大塚さんありがとうございました。
今回の取材で大塚さんに数ヶ月振りにお会いしたのですが、改めて素敵な人材だと感じました。お話しをしていると思わず障がい者だということを忘れてしまうぐらい、自分のハンディをものともしない姿勢にはいつも関心させられます。
大塚さんであればどんな壁が前に立ちはだかっても、最後には乗り越えていくんだろうと周囲にいる人たちは感じてしまうような存在です。見習いたいと思います。
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