最近、障害者雇用に関するセミナーを実施する機会が増えており、先日も多くの企業担当者の方たちにご参加いただきました。テーマによっては参加者の方々にグループワークとして、こちらから出す課題に対して解決するための取り組みや企画などを考えて発表していただきます。
参加者の方々にとっては、難しい課題となるのですが、皆さんチームごとに分かれて熱心に意見を交わしながら、対処法を挙げていただきます。
新たに障害者雇用を自社で構築する際に必要な作業をセミナーで体験していただき、テーマに沿った各チームの発表は、今後の採用にとって非常に参考となります。
その発表の中で気になる内容がありました。
新しく障がい者を雇用する際、配属先への情報連携を実施します。内容は“障がい者”とだけ伝える。
皆さん、どのように感じましたでしょうか。私は普段から、新たに障がい者を採用した際、配属される職場の従業員には必ず情報連携をしてくださいとお願いをしています。このコラムでもお話をしたことがあります。
理由は障がい者本人と配属先従業員のそれぞれについてお話しします。
先ずは、①障がい者本人にとって有効な点。
障がい者の離職理由のひとつに、「採用された会社の職場に自分の障がいに関する特徴や配慮が伝わっていなかった」というのをよく聞きます。
想像してみてください。『障がいのある自分が、初出社してみると一緒に働く従業員には自分のことが全く伝わっていなかったようで、障がい者の自分を見たまわりの方たちが戸惑っている姿を見た時』どのように感じるでしょうか。または、『同じく自分の障がいのことが伝わっていなかった職場では、健常者と同様に仕事を任されたために出来ないことがあっても誰もサポートしてもらえなかった時』はどうでしょう。
このような事例は実際にあるお話しで、障がい者本人にとってこれほど辛いと感じる経験はありません。だって、自分の存在を職場で認知されていないのと同じようなものですから。
それでは、採用活動のタイミングから配属までどのような点に注意すれば良いかをご説明します。
(1) 求人活動時に「障がい者採用」ということを明確にし、職場では障がいのことをオープンな形で勤務してもらうことを説明する
(2) 障がいに関する特徴と必要な配慮を教えてもらう
(3) 上記(2)で教えてもらった内容を事前情報として伝えることに本人から了解をいただく
(4) 配属先の管理者と従業員に対して(2)で教えてもらった特徴と配慮を理解してもらうための伝達としてミニ勉強会を実施する(その際、従業員から疑問が残らないようにしておく)
上記(4)の勉強会については後ほど改めてご説明します。
では、次に②配属先従業員にとって有効な点。
新たに雇用される障がい者の事前情報がないままに、出社初日を迎えた場合、一緒に働く従業員の方たちにとっては健常者の新人以上の負担が掛かり、更に無知による苦痛を受ける、何ら良いことのない状態がスタートすることになります。
これでは、障害者雇用が従業員にとって協力しようという姿勢につながらないのはご理解いただけるのではないでしょうか。
身内や近しい存在として障がい者を認識していない人にとって障がい者は、未知なる人種で疑問だらけです。
人によっては、障がい者のことを「怖い存在」だと思う人もいます。危害を加えられるからということではなく、どのように接すればいいのかなど、障がい者のことを知らない人にしてみれば不安を抱えてしまうでしょう。
また、障がい者を任された従業員側にしてみれば、丸投げされたと感じてしまい、雇用を定着させるための協力は得られにくい状況となってしまいます。
では、①障がい者本人と②配属先従業員にとって有効な情報連携をご説明します。
上記①障がい者本人の(4)に挙げています勉強会の実施が非常に有効となります。繰り返しになりますが、オープンで障害者雇用された本人にとっては職場で働いていく上で周囲からの理解や配慮は必須です。一方で一緒に働く従業員にとって障がい者の情報共有はコミュニケーションやフォローをするために絶対必要となります。
この勉強会の対象は、配属される部署の管理者や従業員を対象とした小さな規模で構いません。
内容は、障がい者本人から採用前に申し出のあった「障がいによる自身の特徴」や「それに伴う職場で必要な配慮」の説明です。当然、この時点では分かる範囲・想定できる配慮についてとなります。それだけでもご本人にとってはとても助かります。それと、従業員が抱える疑問については可能な限り解決させてください。疑問が残ったまま仕事がスタートした場合、業務の忙しさに紛れて放置されてしまうと後々大きな影響にならないとも言えませんので、早い段階で火消しをお願いします。
事前情報もなしに障がい者を配属するということは、障がい者本人だけではなく、一緒に働く従業員に対しても大変失礼な行為です。従業員の方たちは与えられた役割を真摯な気持ちで取組み、その代価として給料をいただいています。会社側がしっかりとその気持ちに答えるためにも、障がいを持つ人材を新たに配属する時には必要な対処をお願いします。