【Q&A】障がい者を採用してもすぐに退職してしまう

【Q】
いつもミルマガジンを拝見しています。
障がい者の採用後の離職についてご相談です。
数年前から障がい者雇用をスタートし、定期的に障がい者求人・採用活動を行い、ようやく法定雇用率を達成できる程度まで実績を残せるようになりました。
しかし、採用した人の何名か(3人に1人の割合)は採用後すぐに退職してしまいます。採用した障がい者が職場に定着するためのポイントなどがあれば教えてください。
よろしくお願いします。
《建築業、従業員数約400名、人事担当者》

【A】

ご相談ありがとうございます。
新型コロナウイルスによりこの1~2年は障がい者の求人にも多少の影響が出ましたが、企業の「障がい者雇用」に関する取り組みの姿勢は想定するほど低くなっていません。ワクチン接種が浸透し、経済活動の回復が始まれば障がい者の新規採用も以前のような状態に戻ると感じています。

今回ご相談いただきました会社はこのような時期であっても継続して障がい者の雇用に力を注いでいる企業のひとつだと感じます。せっかく採用した「障がい者の離職」という課題を抱える企業は多く、組織にとってはダメージの大きな出来事であり、なるべく回避したい問題です。

ここからは独立行政法人 高齢・障がい・求職者雇用支援機構が2017年に公表している「障がい者の就業状況等に関する調査研究」から参考資料を抜粋しながら進めていきたいと思います。
下記の図表は「障がい別にみた職場定着率の推移と構成割合」になります。障がい特性ごとに雇用してからの定着率を1年間で見ています。

雇用後1年が経過した時点で定着率が高い順は、「発達障がい(71.5%)」「知的障がい(68.0%)」「身体障がい(60.8%)」「精神障がい(49.3%)」となります。
精神障がいが最も定着率が低く、半数以上が1年以内に退職をしています。この結果から考えられることは、精神障がいという特性のために理解が得られにくい特徴から、勤務を通して当事者と周囲の間でズレが生じたり、ストレスからくる体調不良により勤務が困難になるケースが職場で見られたのではないでしょうか。
では、採用した障がい者が短期間で退職してしまう事態は避けられないのでしょうか。

①,離職理由から考える

企業にとって採用後早期の人材退職は非常に残念な結果ではありますが、障がい者側にとっても求職活動の末にようやく就職した会社を短期間で辞めるという判断を出したのにはそれなりの理由があります。
同じく「障がい者の就業状況等に関する調査研究」から障がい者が離職した理由を抜粋しました。

この中で「障がい・病気のため」「職場以外の要因」の離職理由については、一般的に考えて企業側による努力だけで解決させるには困難なケースのため、例えば支援福祉サービスや医療機関に掛かっている当事者であれば、それら専門機関と普段から連携を計りながら職場定着に向けた働き掛けが重要になってきます。
一方で上記以外の離職理由を見てみると、採用前の対策や現代社会に適した待遇面の変化といったように、企業側の対策によって離職率を軽減させることができます

②,離職を回避する対策

離職理由についてもう少し詳しく見てみましょう。
例えば離職理由の分類「基本的労働週間に課題あり」の具体的な状況の例の場合、「遅刻、欠勤、早退が多い、職場のルールが守れない、清潔な身なりを保てない、電話連絡等の不徹底」とあります。
これらから感じるのは、採用した障がい者の方は就職する準備が整っていない人材を採用してしまっている事例が多いということです。仮に面接による当事者の状況や実習による就労準備の度合いなどが確認できておれば、このような離職は回避できたのではないかと感じます。
他の理由でも、「将来への不安」は障がい者に限らず、働いていれば感じる無形の不安です。一昔以上前の時代と違い、現代は従業員満足度(ES)も企業経営のひとつとして捉える組織が増えてきています。
障がい者の場合、就職することがゴールと考える会社が少なくない中で、「キャリアアップ」「将来設計」を目指すことができる待遇を設ける企業もあり、やりがいある仕事との出会いや豊かな人生が実現できることで退職者が出ない組織づくりにつながります。

③,『就労定着支援事業』をご存知ですか

2018年の法律改正により新たな障がい者就労支援福祉サービスのひとつとして『就労定着支援事業』が始まりました。17年連続して障がい者の実雇用数が前年を上回る一方で離職率の高さが課題となっていました。
これまでであれば、例えば就労移行支援事業所から就職したAさんには、その事業所が定着支援を実施していましたが、就労移行支援ではより一層就職を大きな目的としながら、定着については新たな福祉サービスとして今まで以上の手厚い支援による定着率の向上が必要だという観点から、採用後の障がい者に対しては別途『就労定着支援事業』の許可を持つ専門機関からサポートすることになっています。

具体的には、最低月一回の本人との面談により課題や問題の確認を取り、企業の人事担当者と情報を共有。必要に応じて他の専門機関との連携を図るなど、本人と企業の両面をサポートすることで職場定着を支えます
採用後にサポートを受けられる期間については、就労訓練を受講していた就労支援機関(就労移行支援や就労継続支援など)から最大6ヶ月間と、『就労定着支援事業』から最大3年の計3年6ヶ月間と決められています。

今回ご紹介した対策を検討してみることで、自社に不足していた離職率軽減を図る対処法が見つかると思います。

ABOUTこの記事をかいた人

[障害者雇用コンサルタント]
雇用義務のある企業向けに障害者雇用サポートを提供し、障害者の雇用定着に必要な環境整備・人事向け採用コーディネート・助成金相談、また障害者人材を活かした事業に関するアドバイスを実施。障害者雇用メリットの最大化を提案。その他、船井総研とコラボした勉強会・見学会の開催や助成金講座の講師やコラム執筆など、障害者雇用の普及に精力的に取り組んでいる。

▼アドバイス実施先(一部抜粋)
・opzt株式会社・川崎重工業株式会社・株式会社神戸製鋼所・沢井製薬株式会社・株式会社セイデン・日本開発株式会社・日本電産株式会社・株式会社ティーエルエス・パナソニック株式会社・大阪富士工業株式会社・株式会社船井総合研究所・株式会社リビングプラットフォーム