『令和5年障害者雇用状況の集計結果』が厚生労働省より公表されました。ご存知の通り、障がい者雇用に関わる方々にとっては直近の「障がい者雇用の現状」を知る重要な資料となります。
昨年はコロナ禍でも障がい者の雇用実数は過去最高を記録し、数字の上ではコロナの影響を感じさせない状況でした。今回公表されました『令和5年障害者雇用状況の集計結果』では、年の前半にコロナ禍から抜けた状態となり、肌感覚としては企業による障がい者の求人活動が更に活性化しているような印象を受けました。
それでは、『令和5年障害者雇用状況の集計結果』から気になるポイントを3つピックアップしたいと思います。
①企業の障がい者雇用実数は20年連続で過去最高を更新
令和5年の企業における障がい者の実雇用数は、前年よりも28,220.0人多い642,178.0人となり、65万人まであと少しとなりました。内訳は下記の通りです。
- 身体障がい者360,157.0人(前年357,767.5人) : 前年比0.7%増、雇用全体の56.1%
- 知的障がい者151,722.5人(前年146,426.0人) : 前年比3.6%増、雇用全体の23.6%
- 精神障がい者130,298.0人(前年109,764.5人) : 前年比18.7%増、雇用全体の20.3%
一見すると例年までの雇用実数と比べても「雇用全体では身体障がい者の割合が最も高い」は変化がないように感じられます。しかし、10年前にあたる平成25年と比較してみました。当時の企業における障がい者の雇用実数が408,947.5人となっており令和5年よりも20万人以上低い数値でした。内訳の数値が下記となります。※前年は平成24年
- 身体障がい者303,798.5人(前年291,013.5人) : 前年比4.4%増、雇用全体の74.3%
- 知的障がい者 82,930.5人(前年 74,743.0人) : 前年比11.0%増、雇用全体の20.3%
- 精神障がい者 22,218.5人(前年 16,607.0人) : 前年比33.8%増、雇用全体の 5.4%
雇用数が最も多いのは身体障がい者だという点は変わりありませんが、雇用全体における割合を見てみると身体障がい者は平成25年では74.3%だった割合が令和5年では56.1%と半分に近い値にまで下がっています。一方で精神障がい者に目を向けると平成25年では全体の5.4%だった割合が令和5年では20.3%を占めるまで雇用実数が増加しました。
障がい者求人を行なっている人事担当者であればこの数値の変化に納得されると思います。この数年、障がい者の採用活動では求人にエントリーする障がい者の特性は精神障がい者の人材が多くなってきました。一方で身体障がい者の求職者からのエントリーは少なく、企業の希望通りに採用が進まないこと(特に都心部での採用)が強いと感じていると思います。これにはもちろん理由があります。
内閣府から公表される「障がい者白書」によると、直近の国内の障がい者人口では、
- 身体障がい者の人口:436万人
- 知的障がい者の人口:109万4千人(知的障がい時を含む)
- 精神障がい者の人口:614万8千人
となります。数年前まで身体障がい者と精神障がい者の人口はともに400万人台でしたが、現在では精神障がい者の人口が最も多い障がい特性となりました。このため、求職活動中の障がい者のうち精神障がい者が多くなった背景のひとつだと考えられます。
企業における雇用数の伸び率が最も高い障がい特性も精神障がい者となり、これに関しては企業内での特性理解や活躍の場が広がってきていることが大きな要因だと感じます。
URL:https://www8.cao.go.jp/shougai/whitepaper/r05hakusho/gaiyou/pdf/r05gaiyou.pdf
②実雇用率が法定雇用率を上回り、法定雇用率達成企業割合も過去最高を更新
次に企業規模別の障がい者雇用推移を見てみます。
実雇用率とは障がい者雇用義務(令和5年は108,202社)のある企業全体で算定基礎となる労働者数をもとに障がい者の実雇用数から雇用率を算出した割合になります。
令和5年の算定基礎となる労働者数27,523,661.0人から障がい者雇用実数642,178人で算出された実雇用率は2.33%で、前年の2.25%から0.08ポイント上昇。民間企業の達成義務である法定雇用率2.3%を超え、過去最高の値となりました。
次に企業規模ごとの内訳を見てみましょう。
- 43.5~100人未満(55,929社) : 1.95%(前年1.84%)
- 100~300人未満(36,926社) : 2.15%(前年2.08%)
- 300~500人未満( 7,025社) : 2.18%(前年2.11%)
- 500~1,000人未満(4,825社) : 2.36%(前年2.26%)
- 1,000人以上 (3,497社) : 2.55%(前年2.48%)
特徴としましては、すべての企業規模で前年よりも実雇用率が増え、その中でも「500〜1,000人未満」「1,000人以上」の企業規模で法定雇用率2.3%を超える実績となりました。
近年、障がい者雇用を多様性社会の実現、DE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)の活動にも寄与するとの考え方が進んだことも企業規模の大きなところからクリアしたことの表れだと考えます。
今後、これらの視点に加えて「雇用の質」をどのように実現させていくのかを問われることになります。障がい者にとって「はたらくことがゴール」ではなく「はたらくことで目指したい将来を実現させる」ことを考えた雇用の在り方に目を向け、整えていくことが企業の役割に加えられます。
続いて法定雇用率達成企業の割合について見てみます。法定雇用率達成企業の割合とは法定雇用率2.3%を達成している企業の割合を示しており、企業規模ごとに公表されていることから組織の大きさによって障がい者の雇用に対する意識の濃淡を確認することができます。企業全体では対象となる企業数108,202社中、法定雇用率を達成している企業数は54,239社あり、達成割合は50.1%となりました。
内訳は下記の通りです。
- 43.5~100人未満 (55,929社中26,372社が達成) : 47.2%(前年45.8%)
- 100~300人未満 (36,926社中19,684社が達成) : 53.3%(前年51.7%)
- 300~500人未満 (7,025社中3,295社が達成) : 46.9%(前年43.9%)
- 500~1,000人未満(4,825社中2,527社が達成) : 52.4%(前年47.2%)
- 1,000人以上. (3,497社中2,361社が達成) : 67.5%(前年62.1%)
今回の達成割合である50.1%は、厚生労働省が「障がい者雇用状況の集計結果」の公表を開始して以降、2017年に50%に到達してから二度目となります。加えて、0.1ポイント分で過去最高の達成割合を記録しました。わずかな数字ではありますが、障がい者の雇用義務のある約10万社の半数以上が法定雇用率を達成したことになります。
この数値は企業の担当者による採用と定着活動をはじめ、受け入れ先部署、当事者、支援者など多くの方々の努力と理解がつながったことで達成されたのだと感じます。
前年では法定雇用率を達成している割合が半数を超えているのは企業規模が「100~300人未満」「1,000人以上」の群でしたが、令和5年では「500~1,000人未満」の群も加わったことが底上げの要因となりました。令和6年度より法定雇用率が引き上げられ2.5%となります。
そのため、令和6年の法定雇用率達成の割合は、過去の数値から見て半数の50%を割ってしまうと考えられます。しかしながら、同じく令和6年度に新設される「障害者雇用相談援助助成金」事業は法定雇用率の達成割合が低い中小企業を中心に障がい者の雇用を推進させる役割となりますので、早い時期に達成割合が50%を超えるのではないかと期待しています。
ここでお伝えしたいことが、「1,000人以上」の企業規模による障がい者雇用が大きく進むことで全体の数値を押し上げている点です。企業規模を詳細に見ていくと前年に比べて雇用数・法定雇用率の達成割合も増えてはいますが、小さい企業規模では達成割合の半数を前年に引き続き下回っています。障がい者にとってもどちらかというと大きな規模の企業ではたらきたいと考える人も少なくないため、偏りが見られます。
しかし組織単位で見たならば、中小規模の企業一社ごとに障がいのある方たちがはたらくことで多様性社会の浸透につながるのではないかと考えると、規模に関係なく障がい者がはたらきたいと感じる雇用を目指したいと思います。
③「身体障害者の部位別雇用状況」と「就労継続支援A型事業所における障害者雇用状況」
前年度から新たに「身体障がい者の部位別雇用状況」と「就労継続支援A型事業所における障害者雇用状況」が障がい者雇用状況の集計結果で公表されています。
ロクイチ報告内で企業が雇用する身体障がい者の種類別(視覚障がい、聴覚障がいなど)の報告があったものを集計した結果となります。令和5年に雇用されている身体障がい者360,157.0人のうち部位別雇用状況の報告があった248,011人を対象に種類別の雇用状況が下記のように公表されました。
- 視覚障がい者 : 13,959人
- 聴覚又は平衡機能障がい者 : 32,131人
- 音声・言語・そしゃく機能障がい者 : 3,050人
- 肢体不自由者 : 117,349人
- 内部障がい者 : 81,522人
最も多かったのは肢体不自由者、次いで内部障がい者と続き、順位については前年度と変わりありません。今後、障がい者のはたらき方が現在よりも選択肢が増え、職種や役割も多岐になっていくことでこれらの数値にも一定の変化が見られるかもしれませんが、身体障がい者の雇用数が現在の推移から大きく変動することが考えにくいため、変数となり得るのは「地方在住」「重度障がい者」というキーワードになるのではないでしょうか。
もうひとつの「就労継続支援A型事業所における障害者雇用状況」では、就労継続支援A型事業所にて雇用されている障がい者の実績を公表しています。
就労継続支援A型事業とは、障がい者を対象にした福祉サービスである一方で事業所に通所する障がい者と雇用契約を結ぶため、福祉と就労の両面を兼ねた事業となります。今回の報告では全国1,370ヶ所のA型事業所で雇用される障がい者の数は30,213.5人となり、前年の同公表数23,126人より7,087.5人増加したことになります。(※2020年時点で国内のA型事業所数は約2,600ヶ所)A型事業所だけで1年間に7,000人を超える障がい者を雇用したことは驚きの数字です。
ここで考えていただきたいのは、A型事業所は障がい者の就労支援福祉サービス事業を事業の目的としています。一般企業における雇用との違いがあることをご理解いただきたいと思います。
障がい者雇用促進法では「全ての事業主は社会連帯の理念に基づき、適当な雇用の場を与える共同の責務がある」と定めています。