普段、私は日本障害者雇用総合研究所(日障研)という会社に所属しており、企業の障害者雇用に関する課題解決や職場定着に向けた支援をしているため、人事担当者から日々様々なご相談をいただきます。
法律や助成金に関することから、職場でのトラブルや求人など、企業は多くの課題に直面していると改めて感じてしまいます。
「法律改正(法定雇用率の引き上げ)」「ダイバーシティ経営の一環」「社会問題の解消」などの考えから、取り組みに力を入れている企業が増えてきていると思いますが、現在の障害者雇用の対象となる精神障がい者や発達障がい者の方たちを積極的に職場で戦力として活用するためには、これまでの義務としての取り組みだけでは実現が困難な部分がたくさんあります。その理由をひとつ挙げるなら、実現には「専門性」が求められるからです。
現在、特に都心部では企業間で障がい者人材の採用競争が活発化してきたため、雇用の中心となっていた身体障がい者から精神障がい者・発達障がい者へターゲットが移行してきました。しかしながら、義務感だけで取り組んできたような障害者雇用に関する知識や経験の浅い企業にとって雇用定着を実現することは難しく、結果として定着率が低い状態という事実が存在します。
それでは、求められる「専門性」を補うためにはどの様にすればいいのか。その答えは『チーム』です。「自社だけ」よりも『チーム』で取り組むことで得られるメリットをご紹介します。特に、納付金(罰金)を支払っている状態でどこに相談に行けばいいのか分からない人事担当者必見です。
就労移行支援事業所と『チーム』で取り組む
新たに障がい者の採用を検討している企業からご相談があった場合、必ず提案のひとつとしてお話をすることがあります。それは、就労移行支援事業所という外部の専門家を活用し、『チーム』で取り組むことです。
案外、企業の人事担当者は就労移行支援事業所のことをあまりご存知ない印象があります。就労移行支援事業所とは国が認可した障がい者向けの福祉サービスを提供する事業所を指します。
役割は、「就職を目指す障がいのある方に必要な知識や技術、マナーを身に着けてもらうための訓練所」といった内容になります。
就労移行支援事業所の福祉サービスを受ける障がい者は利用者と呼ばれることが多く、主には平日(土曜日も開所している事業所もあります)の昼間に通所しながら、色々なことを学んでいます。就労移行支援事業所は障がい者への福祉サービスとなりますが、働きとしては就職先企業への支援もあります。
支援内容としては、
- 障害者雇用の相談対応(助成金などの制度の紹介)
- 求人募集にマッチした人材の紹介
- 業務切り出しや指示に関するアドバイス
- 職場の環境作りをお手伝い
- プライベート部分のサポート
- 定期的な面談を実施
- 採用から6ヶ月までの定着支援
などが挙げられます。このような就労移行支援事業所は全国に約3,500ヶ所(2017年現在)あり、年々増加傾向にあります。地域により事業所の数に差はありますが、専門的な立場から障害者雇用をサポートしてくれる頼りになる存在であり、企業におけるメリットは高いと感じます。
就労移行支援事業所ごとの特徴・強み
福祉サービスとしての就労移行支援事業所ですが、それぞれの事業所には特徴や強みを持った事業所運営をしているところもあります。
例えば、
- 専門性業務:「オフィス」系だけではなく「AIやRPA」「農作業」「デザイン」など
- 障がい特性に特化:「発達障がいや自閉症」「知的障がい」「難病」など
- 事業所数:「全国に事業所を設置」「限られた地域」
- その他:「セルフケア」による体調やメンタルコントロールを習得
といった独自性がありますので、自社が希望する障害者雇用に対して、理解・協力を得られる事業所を探してみてください。
また、就労移行支援事業所によっては「就労定着支援事業」という福祉サービス事業を取得しているところがあります。
これは、2019年4月から始まった新しい福祉サービスのひとつで、就職してから6ヶ月を経過するまでは通所していた就労移行支援事業所から、7ヶ月目~3年6ヶ月を経過するまでは就労定着支援事業所から職場定着のための支援を受けられるというものになりますので、この新しい事業も取得している事業所であれば、同じところからそのまま支援を受けられますから、職場も本人も安心することができます。
繰り返しになりますが、これから障害者雇用における企業の義務が軽減されることは非常に考えにくいと思います。すでに、法定雇用率は数年おきに引き上げられており、今まで採用として検討されにくかった人材である精神障がい者や発達障がい者の積極的な雇用が始まっています。
そのためミスマッチが発生した場合、
- 従業員からの理解低下につながる
- 雇用の更なるブレーキ(邪魔)となってしまう
- 障がいのある求職者からのエントリーに影響
といったリスクにつながってしまいます。これは、障害者雇用にとっては後退を意味します。
極力ミスを抑え、障害者雇用を企業内で根付かせるためには「専門性」を持った就労移行支援事業所を活用した『チーム』で取り掛かることです。
例えば、「次の4月から1年以内に精神障がい者手帳を取得している人材を必ず1名以上採用すること」という法律が施行された場合、これまで身体障がい者しか採用経験のないあなたはどうしますか。