【Q】
2024年4月からの法定雇用率の引き上げを前に相談があります。
当社は障がい者の雇用義務に該当する規模の会社です。現在、数名の障がい者を雇用していますが、元は健常者だった方が障害者手帳を取得された際に会社へ申請をされた方がほとんどのため、これから新たに障がい者の求人活動を開始する予定です。
しかし、10年ほど前に一度障がい者の採用をした際の苦い経験が元で障がい者の雇用に対する理解が得にくい状態にあります。当時、採用活動を経て雇用した障がい者が任せたい仕事がうまくできず、一緒に働く同僚との人間関係も築くことができなかったために職場で孤立してしまい、結果的には早期退職をしてしまいました。
配属された当初は受け入れ部署も努力していたにも関わらず退職してしまったことがショックでその時の経験から社内では障がい者の新たな雇用に対して後ろ向きな姿勢が見られます。
当社のような会社が障がい者雇用で失敗をしないためのポイントについて教えてください。
よろしくお願いします。
《販売会社、従業員数約300名、人事課長》
【A】
自社の障がい者雇用が進まないと頭を抱えている人事担当者は少なくありません。理由には「障がい者に任せられる仕事が分からない」「社内の理解が得られない」や、今回のケースのように「過去のトラブル」が取り組みの足枷になってしまっている会社が多いと思います。
2024年と2026年の法定雇用率の引き上げを前にして、問題を解決させ障がい者雇用を前進させるためには原因の解明と対処法を認識させることが重要です。また、このケースを参考に障がい者の採用活動でのポイントを身につけていただきたいと思います。
障がい者の採用活動ではいくつかのプロセスを経て雇用へと結びつけていきます。今回は上記ケースの原因を推測しながら、その問題を解消するための対処法について理由とともにご紹介します。
「任せたい業務とのミスマッチ」
採用した障がい者に任せたい仕事について職場が期待していた通りの成果に結び付かずミスマッチが発生したということでした。
気になる点として、採用判断時に任せたい業務とのマッチングをどの程度行なっていたのかという点があります。本人の「できます」と職場が「求めるスキル」との間がイコールであれば良しですが、差異が発生する可能性も考えておく必要があります。この「できます」と「求めるスキル」についてのしっかりとした確認が不足していたのかもしれません。
「一緒に働く同僚との人間関係の構築ができなかった」
この情報だけで判断するのは難しいのですが、離職につながった理由として考えられるのは、
- 面接時に本人の人となりや自己理解の度合い、配慮事項等の確認を実施したのか
- 本人同意のもとでそれらの情報を職場に共有していたのか
- 採用前の段階で本人が求める配慮について提供方法の検討を実施していたのか
- 配属して後、本人への対応を職場に任せっきりにしていなかったのか
- 採用後の勤務状態の確認や周囲からヒアリングを実施していたのか
等が考えられます。
障がい者の採用では、「求める配慮事項(合理的配慮)」「特性による症状」「体調管理」などの確認、本人や支援機関によるサポートを受けている場合は支援担当者との確認の上で障がいに関する情報の提供や職場への共有、配慮の提供確認・職場の安全管理を目的とした定期的な1on1と同僚からの聞き取りなど、一般採用と違った対応を求められる場面があります。
障がい者の中には表現や伝達が苦手な方もいるため、特に障がい者雇用の取り組みを始めた当初は採用側として気を配るところが多く出てきます。
では、どのような対応が考えられるのでしょうか。
「任せたい業務とのミスマッチ」
→採用前実習(インターンシップ)の導入はミスマッチ率を大きく低減
採用前実習では、事前に仕事を体験してもらうことで本人の能力とのマッチングや職場との相性を見極めることができるため、採用してからの「違った」を大きく減らす効果があります。
また、受け入れる職場としても、どのような障がいがあるのか、受け入れに必要となる準備の確認もできるため企業にとって大きなメリットを与えてくれます。
特例子会社や障がい者雇用を積極的に進めている企業の多くは、障がい者の採用時には必ずと言っていいほど採用前実習を実施しています。
「一緒に働く同僚との人間関係の構築ができなかった」
→面接こそ聞きにくいことも確認ができる採用の機会
面接はエントリーした方を知る限られた機会のひとつとなりますから人事担当者としては大切にしたいところです。しかし大切にしたい気持ちが強いために、本来聞いておきたいこと、伝えておきたいことが実施できていない面接も多いのではと感じます。また、障がい者との面接ではどのようなことを聞けばいいのか分からないといった声もよく耳にします。
面接の場面というのは企業側と求職者側によるお見合いによく似ています。お互いが相手に対して興味を抱き、いろいろなことを聞いて少しでも相手を知りたいと思っています。相手によく思われたい、いい印象を持ってもらいたい気持ちが強くなると、突っ込んだことを聞くことができにくくなるのは人間の心理です。
障がい者の面接では、「障がいのこと」「自分の特徴」「支援状況や通院・服薬の有無」「健康状態」「求める配慮」など、多くの情報をもとに採用判断をすることが重要です。
これは、仮に雇用に至った場合、仕事を任せることができる状態にあるのか、自分たちの組織は求める配慮を提供することができるのか、セルフケアや周囲への相談ができる人材なのかといったことは長く健康に努めてもらうためには重要なファクターだと考えます。このようなことを確認する場面が障がい者との面接の目的です。
また、面接では事前に確認することや伝えることを準備しておくことをお勧めします。面接官によって確認事項に相違が発生しませんし、確認漏れや伝え漏れの防止にもなります。
上記のようなポイントは採用プロセスの一部分となります。こう言ったプロセスを繰り返し実施することで障がい者雇用に求められるナレッジやノウハウの蓄積となり、結果として障がい者を戦力とした多様性理解の組織へとつながっていきます。