企業経営者や人事担当者にとって2024年度以降に法律改正される障がい者雇用に関連した内容のうち、法定雇用率の引き上げや除外率の引き下げに注目が集まっていると思います。
今回の法律改正では他にも障がい者の雇用に大きく関わる事業のひとつとして「就労選択支援」が施行されます。この「就労選択支援」は就職を目指す障がい者が活用する福祉サービスになりますが、今後障がい者の採用を進める企業にとっても適正な人材の獲得につながる重要な事業です。
就職を希望する障がい者の能力に加え状態・業務特性をもとに本人の強みや弱み、職場に求める配慮などから就労アセスメント(評価)を実施し、本人理解の上でその時に適切な進路(一般就労や就労気福祉サービスなど)に繋げる支援事業。
これまで就職や自立を目指す障がい者は個別に障害者就労系福祉サービスを訪問し、自分が通いたいと感じた事業所と利用者契約を結んで支援を受ける形がスタンダードでした。
この場合、自分の希望が優先され過ぎてしまうケースが出てしまった場合、中には一般就労には準備不足な当事者も一定数存在します。福祉サービスを提供する事業者側には利用者数を確保したい考えを優先させ、準備不足の障がい者を就労訓練として受け入れているところもあるため、本来必要な支援とのマッチングができずに、なかなか就職ができなかったり、企業に採用されても職場で思うような活躍ができず早期の離職につながってしまう事例が少なくありませんでした。これは本人の意向と福祉サービス事業所の判断だけで安易に進路を決めてしまう課題のひとつです。
「就労選択支援」により、本人の希望を尊重しつつも特性による強みや弱みの理解を促し、人によっては準備に時間が掛かるかもしれないが本人が望む将来を実現させるための事業になると考えます。これによって適正な選択が叶った当事者が本来望む就職の可能性が広がると感じます。
また、今回「就労選択支援」事業が新しく施行されたのは企業による障がい者雇用が進んだことに伴い、障害者就労系福祉サービスを利用する障がい者が増加している背景があります。
障がい者就労系福祉サービスとは、「障がい者就労移行支援事業」「障がい者就労継続支援A型事業」「障がい者就労系継続支援B型事業」「就労定着支援事業」のことを指しています。特に就労移行支援、継続支援A型事業、継続支援B型事業は「働く」に事業の目的を置いた福祉サービスになり、これら事業所から人材を採用する企業も年々増えています。
【参考①】障がい者就労系福祉サービスの事業所数と利用者数(令和4年)
「就労移行支援事業所」 |
事業所数:2,898ヶ所 |
利用者数:35,543人 |
---|---|---|
「就労継続支援A型事業所」 |
事業所数:4,368ヶ所 |
利用者数:82,990人 |
「就労継続支援B型事業所」 |
事業所数:16,003ヶ所 |
利用者数:322,414人 |
※厚生労働省・障がい福祉サービス等報酬改定検討チーム 公表資料より抜粋
【参考②】障がい者就労系福祉サービスから一般就労件数(令和元年度)
H26年 | R元年 | |
---|---|---|
「就労移行支援事業所」 |
件数:6,441件 |
件数:13,288件(206%) |
「就労継続支援A型事業所」 |
件数:1,742件 |
件数:4,185件(240%) |
「就労継続支援B型事業所」 |
件数:2,737件 |
件数:4,446件(162%) |
※厚生労働省・社会保障審議会障害者部会 公表資料より抜粋
繰り返しになりますが、2024年4月以降に施行される法定雇用率の引き上げや除外率の引き下げ、他にも障がい者雇用に見られる課題のひとつである障がい者雇用ゼロ企業への雇用促進の流れ、生産人口減少による労働者不足の解消など、社会的に障がい者人材の求人・採用が強化されていく時代に突入しました。
直近の障がい者雇用状況では、障がい者の雇用実数が60万人を超え、特に精神・発達障がい者の雇用の伸び率が非常に高くなっています。このことは障がい者を採用する組織にはこれまで以上に特性理解と合理的配慮が求められることが分かり、障がいに対する専門的な知識と経験が必要となってきますので、上記【参考②】のように就労系福祉サービスからの採用が増加傾向にあることも頷くことができます。特に、障がい者の雇用経験の浅い企業にとっては外部リソースのひとつである就労系福祉サービス事業所の活用は雇用のスタートアップと職場定着には大切な選択肢になり得ると考えます。
そのためには、企業側も障がい者の採用に直結する就労系福祉サービスの知識を深め、自社との協力体制が取れるサービス事業者を選択していくことが求められると思います。
障がい者と一括りにされがちではあるが、顔形・性格が人によって違うのと同様に障がい特性による本人のできる・できない、求める配慮は千差万別との理解が必要です。障がい者本人が求める進路、就きたい職種、将来に違いがあるのも当然のことです。
就職を目指す障がい者が利用する就労系福祉サービスは、専門的な立場として企業の障がい者雇用をサポートする役割も担っていますので今後の活躍に期待が膨らみます。個々の障がい者の適性を見極め、最適な進路との繋ぎ役となる「就労選択支援」が機能を発揮することは、採用側となる企業にとっても採りたい人材が増えることにもなり大きなメリットになるはずです。
最後に現時点で感じる「就労選択支援」の課題としては、全国で均一的に役割が機能できるのかという点です。都心部など就労系福祉サービス事業所数が多い地域では「就労選択支援」による選択肢も増えるかと思いますが、そういった地域ばかりではないの現実です。
就職先となる企業数や就労系福祉サービス事業所数が限定される地域ではアセスメント通りの選択をすることができない当事者も出てくる可能性があります。また、「就労選択支援」のアセスメントにより一般就労を目指すことになった障がい者の支援先としてハローワークや障害者就業・生活支援センター(なかぽつ)などが挙げられていますが、東京や大阪のような大都市圏ではなかぽつが本来求められている役割・機能が果たせていない(特に就労支援面)という問題を耳にしますので、障がい者やこの事業に関わる関係機関にとって必要とされる制度になってほしいと感じます。