障害者雇用は「雇用率ありき」じゃない~共生社会の理念で考えたい~

中央省庁による障害者雇用の水増し問題は、8/28の再調査結果の公表から見て分かるとおり、最悪な結果となっています。
感情的にコメントすべきではないですが、カウント方法のずさんさ、ましてや手帳のない人を勝手にカウントするなど、制度の理解不足とは言い切れないとてもひどい内容です。

障害者雇用促進法は、もともとは戦後の傷痍軍人の支援から始まり、1960年の身体障害者雇用促進法がその後、障害者雇用促進法へと名称が変わり、知的障がい者の雇用義務化、今年からは精神障がい者の雇用義務化と、時代の流れとともに改正されていきました。
対象とする障がい者の雇用は、1976年の法改正で努力義務から法的義務に改められ、未達成の会社は国庫に納付金を収める障害者雇用納付金制度が設けられました。

つまりは、障害者雇用を社会全体で取り組むことと決め、義務化による雇用促進を目指して、「割当雇用制度(雇用率制度)」を設けたのです。

さて、そもそも憲法では、「すべての国民は勤労の権利を有し、義務を負う」、と書かれています。
教育の義務、納税の義務を合わせると、国民の三大義務です。
ここに障がいの有無は関係ありません。

法律による定め

障がいのある人の生活や権利を守る「障がい者基本法」、「障がい者権利条約」、「障がい者差別解消法」でも、以下の大切なことが明記されています。

障がい者基本法
第一条 この法律は、全ての国民が、障がいの有無にかかわらず、等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重されるものであるとの理念にのつとり、(省略)

障がい者権利条約
第一条 この条約は、全ての障がい者によるあらゆる人権及び基本的自由の完全かつ平等な享有を促進し、保護し、及び確保すること並びに障がい者の固有の尊厳の尊重を促進することを目的とする。

また、その前文においては、「全ての人権と基本的自由が普遍的であり、不可分であり、相互に依存し、相互に関連している」と明記されています。

障がい者差別解消法
第一条 全ての国民が、障がいの有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に資することを目的とする。

これらの3つの条約、法律では、障がいの有無に関係なくかけがえのない個人として尊重されるのこと、相互に関連、共生社会なども明記されているように、障がいは個人ではなく社会にあるといった視点を読み取ることができます。

国家としての理念

厚生労働省のHPにも障害者雇用に関する以下の理念が書かれています。

障がいのある人が障がいのない人と同様、その能力と適性に応じた雇用の場に就き、地域で自立した生活を送ることができるような社会の実現を目指し、障がいのある人の雇用対策を総合的に推進しています。

今までの問題とこれからの行動

私たちは、これらの目的や理念、大切にすべきことを、どう考えていけばいいのでしょうか。
私たちは、今、理想とする社会の実現を目指すことができているのでしょうか。

雇用率は割当雇用制度です。
ですから、障害者雇用の促進を目指すために一定の数値目標を義務付けたものです。

ただ、これは「量を増やすだけ」の方策です。
障がいのある人が社会の多くの場面で雇用される機会を保証するため、雇用促進をねらったものでしかありません。

障がいのある人は、国民としての当たり前の権利、人権から考えると、雇用の機会が多くあることはもちろん大切なことですが、一方で雇用の「質」も忘れてはならない大切な視点です。

ただ単に、会社で働けたらそれでいいというわけではなく、イキイキと働く、やりがいを感じて働く、働くことで本人の生活が豊かになるなど、働くことを通して得られる「生活の質(QOL)の向上」が最も大切な視点だと思います。

雇用率は、今年から2.2%(民間企業)に引き上げをされました。
企業は雇用率アップを意識してか、今年の春は私たちのような就労支援機関に雇入れの相談がいつも以上に多かったようにも思います。
もしかすると、雇用率のアップは、障害者雇用をポジティブに促進しているわけではなく、企業にプレッシャーを与えているだけなのかもしれません。

障がいのある人は、日本に7.4%(約937万人)いるとされ、その内18~64歳の在宅障がい者は約362万人。
企業で働いている障がい者は約49万人と言われ、障がい者の7.5人に1人が企業で働いているということになります。
この数字が適切なのか、まだまだ増えていくことが望ましいのか、私には正直分かりません。

ただ、障がいのある人が「会社の中で働きたい」と思うことはごくごく自然なことであり、職業選択の自由やチャレンジする権利と機会は、障がいの有無に関係なく保障される社会であってほしいと感じています。

企業に対して法定雇用率を数値目標として義務付けするだけでなく、障がいのある人の「働きたい」という想いに自社でどれだけ応えられるか、仕事内容と職場環境をどれくらい障がいのある人に合わせることが検討できるか…。

雇用率ありきではなく、障がいのある人の想いも考えた「やさしさのある職場づくり」を国民みんなで考えていきたいものです。

今回の中央省庁の水増し問題をきっかけに、障害者雇用に関することが社会全体でポジティブに議論されていくことを切に願っています。

ABOUTこの記事をかいた人

▼プロフィール:
京都生まれ京都育ち。児童福祉の専門学校を卒業後、長野市にある社会福祉法人森と木で障害のある人の就労支援(企業就労の支援、飲食店での支援と運営管理等)に限らず、生活面(グループホーム、ガイドヘルプ等)の支援、学齢期のお子さんの支援などに従事。2013年に帰阪し、自閉症・発達障害の方を対象に企業就労に向けたトレーニングをする2つの事業所ジョブジョイントおおさか(就労移行支援事業・自立訓練事業を大阪市と高槻市で実施運営)にて勤務。2014年より所長(現職)。また、発達障害のある大学生に向けた就活支援プログラム(働くチカラPROJECT)の運営にも力を入れており、2016年より大阪にある大学2校のコンサルタントも務めている。

▼主な資格:
社会福祉士、保育士、訪問型職場適応援助者(ジョブコーチ)

▼主な略歴:
長野市地域自立支援協議会 就労支援部会 部会長(2011〜2013)淀川区地域自立支援協議会 就労支援部会 副部会長(2015〜)高槻市地域自立支援協議会 進路・就労ワーキング 委員(2016〜)日本職業リハビリテーション学会 近畿ブロック代表理事(2017〜)NPO法人ジョブコーチネットワーク、NPO法人自閉症eサービスが主催する研修・セミナー等での講師・トレーナー・コンサルタント等(2013〜)