人事担当者さんと障害者雇用を企業内で構築していく中で、従来からあるやり方に疑問を感じることがあります。障がい者の雇用を《点》ではなく《線》として捉えることで企業内にしっかりと根を張った存在にすることが出来ます。
① 間接業務からの脱却
従来から障がい者に担当してもらう業務は間接業務、例えば “郵便物の仕分け”“コピーやシュレッダー作業”“簡単なファイリング業務”などが多く挙げられると思います。理由は、簡単・誰でもできる・ミスしても影響が少ないなどのメリットからこれらの作業が考えられたのではないでしょうか。
確かに、ある特定の障がいには適した業務となりますが、「概ね、障がい者には間接業務が合っている」としてしまうことで、実は限界点を設けてしまっています。
現在、多くの企業では業務の効率化を考えて作業工程を短縮し、極力ムダを省こうとしています。障がい者に適した作業と考えられる「間接業務」もこれに当てはまります。ここで矛盾が生じるわけですが、減らそうと努力している作業を一方では障がい者の雇用のために切り出そうとしていることになります。これでは、障害者雇用のための業務切り出しは困難であり、今後の採用に大きく影響してしまいます。
この問題の解決には、障がい者にも生産性のある本業となる業務に従事させることが必要です。結論を言うと、そうすることで障がいを持つ人材が社内で居場所を作ることが出来ます。社内での居場所というのは、周囲の従業員からの信頼と協力の獲得ということです。決して邪魔モノとしてではなく、生産性のある業務でしっかりと成果を残すことで、結果社内での障がいを持つ人材の必要性が増すことになります。特に中小企業であれば、より無駄を省いた業務を目指しているはずですから、雇用する障がい者に生産性のある業務に就いてもらうことで得られるメリットは大きいはずです。
障がい者を雇用するために無理矢理作る業務(間接業務)では限界があり、いずれは担当者の首を絞めることになります。社内でも必要性の高くない業務ですので、それらを担う障がい者に対しても必要性を感じられない、もしくは邪魔モノの様に感じてしまうのではないでしょうか。
② 個々に適した役割
障がい者とのコミュニケーションや配慮についてこのような相談を受けます。「○○の障がいを持つ人とはどのように接すればいいのですか?」
答えは、「分かりません。」です。“聴覚”や“発達”といった特性だけで決まったコミュニケーションなどはなく、性格と同じ個々の特徴に適した配慮が必要となってきます。すべての聴覚障がい者に手話は通じませんし、発達障がいには“注意欠陥”の人も“過集中”の人もいます。
同様に従来からある障がいを持つ従業員は、一律責任と権限のある業務に就かせないという考え方から個々の能力に応じて変えていく必要があります。精神・発達の障がい者の方は、業務上で判断を求められたり臨機応変な対応が困難という特徴が見られます。それらを一括りとして捉えることよりも個々の特徴や能力で与える役割を判断すれば、本人の向上心に繋がります。障がいの有無に関わらず、従業員の向上心を否定する企業は存在しないはずです。
③ 柔軟な就労形態
障がい者が働く場所は企業内というのが理想ではあります。しかし、この考えが原因で本来目指すべき障害者雇用の形から遠ざかってしまうとすればどうでしょうか。考え方を見直すことで、求職者のエントリー数が増えることになります。
障がい者の採用競争が激しい現状、柔軟な就労形態が求められています。ひとつは、フレックスタイムによる就業です。都心にある企業の場合、朝の通勤ラッシュは障がい者にとって想像以上に大きな負担のかかる場面です。この場合、出勤時間を変えるだけで負担がかなり軽減されることになります。精神に障がいを持つ人であれば、季節や天候によって体調に大きく影響があります。そのような時、有給などを活用せずに本人の体調に合わせた就業時間が組めると精神的負担が軽くなります。
また、テレワークといった在宅による就業も下記に挙げるような点をサポートする上で大きなメリットとなります。
《企業都合》
- 社内で障がい者の配属先がない
- 都心では採用競争が激しい
- 障がい者の受入れ環境が未整備
《障がい者都合》
- 障がいにより通勤が困難
- 多くの人と関わるのが苦手
以前に比べ遠隔地での勤務をサポートするツールも発達し、在宅勤務をしている従業員が抱えやすい“離れた勤務地による疎外感”や“サボっていると疑われる不安感”の解消できるようになっています。広くとらえれば、障がい者に限らず「子育て」や「親の介護」をしている従業員にも活用することが可能です。時代の変化に合わせることがビジネスを成功させるポイントだと言われます。決してこれは本業のことだけを指しているのではありません。障がいを持つ人材の採用にも必要な点です。
障がい者の雇用をきっかけに変化に対応できる企業文化を根付かせるのも良いのではないでしょうか。