障がい者の雇用を通じて得られるものが多いということ日頃から感じています。
決して綺麗ごとで言っているのではなく、これからの時代に必要なことだと心の底から思っているからです。それは、「思いこみ」であったり「当たり前でない」であったり「個々の違い」というものを常に気付かせてくれます。ですので、これから障害者雇用に取り組む企業があれば、企業としての成長(それは従業員の成長)になることだと思っています。(障害者雇用はデメリットよりもメリット)
最近は「ダイバーシティ」「多様性」といったワードが耳目に触れることが多くなりました。障がい者の自立や就職に携わっている立場としては、嬉しく思う反面、実社会にどの程度浸透しているのか疑問に感じることもあります。
改めて『ダイバーシティ経営』という言葉を調べてみようと経済産業省のHPを見てみるとこのようなことばを目にしました。
ダイバーシティ経営は、社員の多様性を高めること自体が目的ではありません。また、福利厚生やCSR(企業の社会的責任)の観点のみを直接的な目的とするものではありません。
経営戦略を実現するうえで不可欠な多様な人材を確保し、そうした多様な人材が意欲的に仕事に取り組める職場風土や働き方の仕組みを整備することを通じて、適材適所を実現し、その能力を最大限発揮させることにより「経営上の成果」につなげることを目的としています。
ダイバーシティ経営とは、「多様な人材(注1)を活かし、その能力(注2)が最大限発揮できる機会を提供することで、イノベーションを生み出し、価値創造につなげている経営(注3)」のことです。
(注1)「多様な人材」とは、性別、年齢、人種や国籍、障がいの有無、性的指向、宗教・信条、価値観などの多様性だけでなく、キャリアや経験、働き方などの多様性も含みます。
(注2)「能力」には、多様な人材それぞれの持つ潜在的な能力や特性なども含みます。
(注3)「イノベーションを生み出し、価値創造につなげている経営」とは、組織内の個々の人材がその特性をいかし、いきいきと働くことの出来る環境を整えることによって、「自由な発想」が生まれ、生産性を向上し、自社の競争力強化につながる、といった一連の流れを生み出しうる経営のことです。
読んでみるとシンプルに「カッコいい」経営だと感じます。
義務感だけではなく意識の高い人事担当者やダイバーシティ担当者にお会いする機会がある一方で『ダイバーシティ経営』を組織に浸透させる難しさというのも強く感じることがあります。自分の働いている会社が『ダイバーシティ経営』を目指すことを聞いた従業員は「良いことだ」と思いつつ、自分の部署に「障がい者」が配属されることについては「反対だ」となることが少なくありません。所謂「総論賛成極論反対」ということです。
もし、本格的に『ダイバーシティ経営』を目指したいということであれば、障害者雇用をきっかけとして始めることで多様な人材活用への広がりが期待できます。それは、障害者雇用が『ダイバーシティ経営』を社内に根付かせる上で指針としている考えと重なる点が多いからです。
本格的に『ダイバーシティ経営』を目指すために
- 「様々な特性を認識」
障がい者は一言で表現されることが多いのですが、「身体障がい者」「知的障がい者」「精神障がい者」を支援や配慮の視点から見た場合、実はそれぞれの障がいというのは違った特性だということが分かります。特に「精神障がい者」の受け入れには障がいの特性や本人の持つ特徴を周囲が理解し接していくことが求められるため、従来の考えだけだと理解の邪魔となってしまいます。障がい者の受け入れは「自分と違う個性という存在を認識する」ということから始まります。
他の国は日本と違い、周囲の国と地続きなために言葉の違いや文化の違いに対して一定の理解があります。それは、それぞれの人が持つ個性に対しても同じで他人を認める文化が日本よりも進んでいる点を見ると多様性についての理解が大きく遅れていると感じます。
- 「多様な雇用形態」
障がい者というのは、強すぎる個性のある人材という言い方ができます。
その強すぎる個性が影響して、日常生活や社会生活を送ることが著しく困難な状態だと感じてしまいます。そのため、例えば「就業時間9:00~17:00」「週5日勤務」「通勤」のような従来からの働き方が障がい者本人にとってはストレスであったり体調に大きな影響となることが十分考えられます。
現在、テレワークや短時間労働による障がい者の雇用を実施している企業が増えてきつつあります。テレワークであれば助成金を活用することができたり、短時間労働の場合は週20時間未満だと法定雇用率への算定から除外されてしまいますが、長い目で見た時に徐々に労働時間を増やしていくことで障がい者の社会参加に協力していく姿勢というのはまさしく『ダイバーシティ経営』ではないでしょうか。(特に短時間勤務による求人は少ないため人材は集まります)
- 「個性の活用」
ダイバーシティが叫ばれる一方で、(特に大きな)企業の新卒採用は横並びとなる条件をもとに採用しているように見えてしまいます。
当然、人事担当者は「個々の出身校」「学生時代に取り組んだこと」「性格や特徴」などを見ているのですが、採用してからそれらの人材に求めるのは「〇〇が全然できない」けど「☆☆は誰にも負けない」という個性ではなく、平均点以上の「電話応対」「PC操作」「社内でのコミュニケーション」などをそつなくできるかどうか。人の多い組織では、「個性の強い人材」よりも「平均点人材」が重宝されるのはマネジメントしやすいからだと感じます。
そこからどのようなイノベーションが生まれるのでしょうか。
義務ではなく障がいのある人材の活用ができている組織というのは、個性に対して職場環境が整備されており、障がい者が自分の持つ強みを活かして成果を生み出すことができている企業だと感じます。
得られる効果とは
- 「古き良き時代を見直す」
日常的に行われていることというのは大きな問題が発生するなどの理由がないと見直されることはほとんどありません。しかし、その中には「昔からのやり方」「先輩から指示されて」というだけで、疑問も持たずに業務のひとつとして進められている仕事があるのではないでしょうか。
障がい者が組織に加わることで、本人の特性に適したマニュアルの準備や工程の見直しの発生が考えられます。それに合わせて、該当業務に関連する範囲の仕事まで見直しを図る機会が生まれます。見直しを否定的に捉える従業員が多いと思いますが、専門的な知識や経験が必要となる業務でないのであれば、障がいの有無に関わらずどのような人材が配置されても、支障なく業務を進めることができるというのが本来目指すべき仕事ではないでしょうか。
障がい者が担当してもできる業務であったり、すべての仕事がマニュアル化されているような職場環境であれば、社会経験のない新卒でも外国人でもすぐに成果を出せるって素晴らしい職場だと思います。
- 「魅力ある企業」
企業に対する評価というのもこれまでと比べ変化してきました。売上げや利益を追求してきた時代から社会的課題への取り組みや就職後の待遇など、企業を見る視点が大きく変わってきました。
個性を活かした人材の採用や働き方の多様性を導入している魅力的な企業であれば働いている人材も自社に対して誇りを持てるのではないでしょうか。顧客の立場であれば、このような企業から商品を買いたいと思うでしょう。
従業員が誇りに感じ、顧客から選ばれる企業であれば、自社の求人に困ることもなくなると思います。法定雇用率が未達成で納付金(罰金)を支払っている企業と違い、法律や法定雇用率にも左右されることない採用活動ができると考えます。
- 「障がい者から全従業員へ」
『ダイバーシティ経営』の取り組みに関係なく、すでに企業には様々な立場で働く従業員が存在します。「女性」「高齢者」「子育て」「介護・看護」など。障がいはないけれども、会社で働く立場として見た時にハンディを抱えた人材です。
これまでであれば、例えば「女性」の場合、結婚をして妊娠や出産を迎えるタイミングで退職や雇用待遇の変更(パート、契約社員)といったことが見られましたが、今の時代であれば、まだまだ大企業が中心となりますが休職を経て職場に復帰できるようになってきました。また、男性従業員についても育児休暇取得の権利が与えられるようになりました。
障害者雇用の場合、上記にもありました様にテレワークや短時間勤務の導入により幅広い人材の活用が実現できます。これらの就業体系の導入は先ほど挙げた「女性」「高齢者」「子育て」「介護・看護」といった立場にある人材活用にも当てはめることが可能です。
更に言えば、ハンディのない従業員すべてを対象にすることでこれまで当たり前だった「通勤」を減らすことで、様々なコストを軽減させることができ、時間を有効に活用する事もできます。(テレワークの導入に関する助成金は障害者雇用に限りませんので一度ご確認ください)
そろそろ古い働き方からの抜け出し、新しい働き方へシフトチェンジすることを本気で考えてみてはどうでしょうか。
参考までに経済産業省のHPにある「ダイバーシティ経営診断ツールについて」という資料が下記URLより取得できます。
https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/diversity/downloadfiles/concept.pdf