早くも桜が満開です。その桜の足元では、一雨ごとに次々と草花が顔を出しています。
毎年のことですが、自然はすごいなあと感動させられます。
季節がまた巡ってくるということに慰められるようです。自分も元に戻ったような感じを受けるからでしょうか。都市に暮らす現代人の私たちも、その自然の中で生きる本能を持っているはずですが、実感を得ることは少ないですね。
しかしだからこそ、たまに自然に接するとエネルギーをもらうように感じるのかもしれません。本来の自分を取り戻すことができるのでしょうか。テクノロジーに囲まれた都市に暮らしていると、便利で快適な生活を送っているようでも、いつの間にか心と体のバランスを崩してしまいやすいのかもしれません。
そんな私たちに、都市にいて自然(植物)の力を借り、植物を日々の暮らしに取り入れて、心身機能の改善や社会参加などに活用する方法が園芸療法です。
その園芸療法を私が知ったのは、今から二十数年前、個人で始めた庭師業がようやく軌道に乗り始めた頃だったと思います。シングルファーザーでしたので、精神的にも肉体的にも全く余裕がなかった頃ですね。そんな私でも、お客様の庭へ出て、青空のもと、芝刈り機を押していると、汗が噴き出してき、草の匂いを嗅ぎながら、ただひたすらに芝刈り機を押していると、いつの間にか日頃の思い煩いはどこかへ行ってしまい、まあ何とかなるさと思える本来の自分がいて、自信と希望とが漲ってくる感じがしたのでした。
そしてふと、その頃からよく言われるようになっていたニートの人たちや、障がい者(といってもその頃の私は障がい者の具体的なイメージなど持ち合わせていなかったのですが)の人たちなどにこの仕事はいいんじゃないか?と思ったのでした。
そしてそういう人たちと一緒に庭仕事をするというひらめきを形にするべく、あれこれ考えているときに知り合ったガーデナーの方から「そういうことをしている人がいる」と紹介されたのが、町田にある精神障がい者の作業所「畑の家」の田丸さんでした。
そして週に二日ほどボランティアをさせてもらうことになったのです。
そしてあるとき田丸さんから、あなたの仕事へここの人を連れて行ってくれないかと頼まれました。
そして毎回一人ずつ、三人の方に私の仕事の助手として働いてもらったのです。
結果は大失敗でした。
私には精神障がいについての知識もなく、ただ私のペースで仕事を進めるだけでしたから、皆オーバーワークで音を上げてしまったのです。今ではなんて無茶をしたんだろうと思いますが、彼らはよく数日だけでもついてきてくれました。本当に大変だったろうと思います。
それでも彼らの一生懸命やろうとする姿や、働く様子を見て、これは私にちゃんと知識やノウハウがあれば、できる!と思ったのです。それが始まりでした。
NPO法人 園芸療法研修会の澤田さんはこう言います。
「植物は人の心を癒したり、穏やかにしたり、和ませる力があります。さらに植物を育てる園芸作業は人のこころや感情に自信や自尊心、達成感、満足感、期待や喜びを与えます。
毎日の水やりなど、植物を世話し、成長を助ける関係性の中で、役割を見出し、充実感、自分の存在感を感じることでしょう」
主に高齢者向けの介護施設などで用いられる園芸療法ですが、園芸作業は脳を活性化し、基礎代謝、新陳代謝を上げ、食欲の増進、快眠導入、生活リズムを整え、生活不活発病の防止に役立つと言うのです。普段お世話をされる側から、お世話をする側へ立場が変換することもよい刺激になるということです。
ただ、療法であるためには、相手を理解する力(アセスメント)、的確な目的設定をする力、療法を行うことで当事者にどのような変化が起こりうるか予測をする力が必要です。またどのような場面で当事者が安全で可能性を広げられるか、場面設定も求められます。
つまり、植物をいじっていればそれでいいかというとそうではなくて、人との関わりの中でこそ効果があるものだということですね。
ですからそこには専門的な知識を持った人間の介入が必要です。
どんな植物をどのくらいどのようにして育てると花が咲き実が収穫できるかといった知識に加え、どんな格好でどんな道具を使うのが今の対象者の状態に適しているかというようなことですね。園芸療法士はそんな専門家です。
障がい者の就労の現場にも園芸療法を活かしたいと考えています。
自信や自尊心、達成感、満足感というものは自分の肉体を使って成し遂げてこそ得られるものだと思いますし、期待と喜びは、共に働く人がいて誰かのために働くことでより大きく与えられます。園芸療法の考え方を職業リハビリテーションに取り入れると言えばわかりやすいでしょうか。そこで、企業と病院や学校など、建物施設の緑地の維持管理を障がい者の仕事にできればと思うのです。
植物を育てる作業の他にも、緑地を「きれいにする」作業は、散らかった感情や日ごろの思い煩いなどを半強制的にいったん取り除くことができます。お寺のお坊さんが毎日庭をほうきで掃除するのはそういう効果があるからでしょう。落ち葉掃除や雑草取りなどの作業は適度に体を動かし、爽快感や清潔感を促して、心身を「清める」効果がありますね。
また、きれいになったところを見て、喜ぶ人がいて、感謝されたりすることで、自己有用感が高まり、自分を尊重することができるようになるかもしれません。そういう作業を一人ではなくて仲間と共にすることで、会話が増えたり、共感したりする場面が増えます。助け合う場面が増え、協調性が養われます。それは仕事だから得られるのであって、レクレーションではそこまでは難しいのです。
SDGsの理念「持続可能な」「誰一人取り残さない」社会を築くために、企業には多くの期待が寄せられています。
障がい者雇用による緑地の維持管理体制を築くことは、それへの回答の一つにならないでしょうか。それは人と環境に真剣に取り組む証しとなり、企業のブランドと価値を高めることにもなると思います。それを庭園管理技術者とジョブコーチや生活相談員といった人たちが協力して、障がい者と共に働くことを楽しめたら理想的だし、それらの素質を兼ね備えた園芸療法士は担当者としてふさわしいかもしれません。
この国に園芸療法が広まることを願っています。