【Q&A】これから障がい者の採用にあたって気をつけるポイントが知りたい

【Q】
いつもお世話になっております。

当社は従業員数が100人に満たない規模の会社です。しかし障がい者の雇用義務がありますので、これから障がい者の採用活動に取り組む予定です。障がい者雇用の実績は高齢の身体障がい者が1名のみとなり、その方もあと1年ほどで定年退職を迎えます。
今後、障がい者の採用を進めるにあたり、そのようなことを想定しておけば良いでしょうか。
また、極力雇用のミスマッチを避けたいと考えています。その場合、どのような点に気をつけて取り組めばミスマッチを防ぐことができるか教えていただきたいと思います。
よろしくお願いします。

《保険代理店、従業員数96名、人事部長》

【A】

今回の法律改正では、令和6年4月と令和8年7月のそれぞれ法定雇用率が引き上げられ、障がい者の雇用義務のある企業は現行の2.3%から最大2.7%の法定雇用率を目指すことになります。
それに伴い、障がい者の雇用対象企業の範囲も常用雇用労働者37.5名以上企業まで拡大されるため、それぞれの企業が障がい者の雇用に取り組むとなると、今以上に採用競争が高くなり売り手市場が進みます。自社の求人にエントリーしてもらった貴重な人材について、職場定着に繋げたいと考える人事担当者は少なくないと思います。

今回の相談者の会社を例に、雇用のミスマッチを防ぐための障がい者採用で気をつけるポイントについてお話ししたいと思います。

「職場実習」により不安の解消と職場との相性を確認


「職場実習」とは採用前に障がい者の特性理解、切り出した仕事や一緒に勤務する従業員との相性を確認するインターンのような役割となります。

障がい者の特性は身体障がい者、知的障がい者、精神障がい者といった3種類の大カテゴリーに分けられます。次に身体であれば肢体不自由、視覚障がい、聴覚障がいなど、精神であれば統合失調症、てんかん、発達障がいなど、部位の機能障がいや症状といった中カテゴリーに分けられます。
最後に中カテゴリーが主原因となり個々の障がい者が日常生活における状態から感じる困りごとや不便さといった特徴(例えば、視覚過敏の発達障がい者Aさんは事務所の蛍光灯が眩しく感じて仕事に集中できない。てんかんのあるBさんは疲労が蓄積されると発作を起こしてしまう。など)を小カテゴリーと区別します。この小カテゴリーについては、人によって顔や性格に違いがあるのと同様に、個々の障がい者の特徴にも違いがあります。

企業には障がい者個々の特徴に合わせて、仕事をスムーズに進めてもらうための合理的配慮を提供する義務があります。障がい者が求める合理的配慮を具体化させるには「職場実習」が大切なプロセスとなります。

また、「職場実習」を通じて切り出した仕事が障がい者に取り組んでもらえるのか、準備したマニュアルの精度に間違いはないかなど、採用前のさまざまな確認と準備にも有効であり、雇用のミスマッチを軽減させてくれます。

初めての精神障がい者・発達障がい者の採用は「短時間勤務制度」を活用


今回の相談者の会社では身体障がい者1名の雇用実績となります。今後新たに障がい者の採用を進める際には精神障がい者・発達障がい者の雇用も想定しておくことが必要です。
現在、厚生労働省は制度を設けて積極的な精神障がい者の採用を進めています。その甲斐もあって、令和4年度の精神障がい者の実雇用数は過去最高を更新し約11万人となり、今後も右肩上がりで増加していくことが予想されます。

障がい者の中には今すぐ働きたいけれども、いきなりフルタイムではなく短時間から心身を慣らしていきたいと感じている人がたくさんいます。裏を返せば、売り手市場ではありますが短時間勤務での求人であればエントリーする求職者の数は多くなります。

精神障がい者に限定された制度になりますが、短時間勤務(週20〜30時間)で雇用の場合、本来であれば0.5カウントのところ1カウントとして算定できる「短時間勤務制度」があります。
初めて精神障がい者・発達障がい者を採用する企業にとって、職場定着させた雇用を実現できるか不安に感じることがあります。働く精神障がい者の側にとっても、体調を崩さず勤務し、且つ仕事で成果を上げることができるかと不安に感じています。
そういった両者にとって、短時間から雇用をスタートする点ではメリットがあり、企業は短時間での雇用であっても1カウントとして算定できる点は大きいと思います。
また、この制度はもともと5年間で終了すると言われていましたが、新たに終了の期限を設けずに継続して活用できるよう制度変更されました。

「障害者トライアル雇用助成金」制度で雇用の負担を軽減


障がい者を採用する際に活用できる助成金制度に、試用期間の間でも助成金を受給できる「障害者トライアル雇用助成金があります。
「障害者トライアル雇用助成金」とは、障がい者を原則3か月間の試行雇用することで、本人と仕事との適性や能力を見極め、職場定着へと進めていくことを目的とした制度になり、障がい者雇用への不安を軽減させることができます。この制度では雇用する対象者によって助成金を受給することができます。
(詳細は下記厚労省のリーフレット参照)

【参考】厚生労働省「障害者トライアル雇用助成金のご案内」リーフレット
URL:https://www.mhlw.go.jp/content/000562055.pdf

この助成金では、トライアル雇用する障がい者1人あたり月額で最大4万円(最長3ヶ月で計12万円)、精神障がい者であれば1人あたり月額で最大8万円(最大8万円×3ヶ月、その後4万円×3ヶ月で計36万円)を試用期間に合わせて活用しながら受け取ることができます。
また、前項の短時間労働であっても受給金額は下がりますが対象となりますので、これから障がい者の求人を進める企業であれば活用を薦めます

今回ご紹介しましたポイントについては、最寄りのハローワークの障がい者採用担当窓口にてご相談すれば、より詳しく説明を聞くことができます。
また、地域によっては障がい者の新規採用を対象にした独自の助成制度もありますので、この機会に情報を確認していただきたいと思います。

ABOUTこの記事をかいた人

[障害者雇用コンサルタント]
雇用義務のある企業向けに障害者雇用サポートを提供し、障害者の雇用定着に必要な環境整備・人事向け採用コーディネート・助成金相談、また障害者人材を活かした事業に関するアドバイスを実施。障害者雇用メリットの最大化を提案。その他、船井総研とコラボした勉強会・見学会の開催や助成金講座の講師やコラム執筆など、障害者雇用の普及に精力的に取り組んでいる。

▼アドバイス実施先(一部抜粋)
・opzt株式会社・川崎重工業株式会社・株式会社神戸製鋼所・沢井製薬株式会社・株式会社セイデン・日本開発株式会社・日本電産株式会社・株式会社ティーエルエス・パナソニック株式会社・大阪富士工業株式会社・株式会社船井総合研究所・株式会社リビングプラットフォーム