施設外就労から始める障がい者雇用

障がい者雇用におけるミスマッチを防ぐ方法として、就労支援事業所の施設外就労を利用することをお勧めします。ミスマッチのないように、採用の際に実習期間を設けたり、トライアル雇用制度を利用する企業は多いようです。それでもなかなか減らないとお嘆きの場合は、新卒採用のインターン制度に似たものである就労支援事業所の施設外就労を利用することをお勧めします。

施設外就労とは、就労支援系の福祉サービスを利用する人が、事業所(施設)の外(企業など)に出て仕事(生産活動)をすることをいいます。
これは障害者自立支援法(現・障害者総合支援法)ができたときに、それまでの任意団体による地域作業所の多くが、授産活動と称してあまりお金にならない単純な手作業などを半ばレクレーションのような形で作業所の中で行うのが多かったのに対し、「もっと外に目を向けて、その殻を飛び出してみろ」といったかどうかは知りませんが、施設職員と利用者数名がユニットを組み、出向いた先の企業内で、一部業務を請け負って行うというものです。
それには当時の作業所の平均工賃が月に1万円にも満たないということに世間の目が厳しくなってきたということも背景にあるようですが、それ以上に、作業所の利用者の積極的な社会参加を促すということが求められもしたのです。そして実施した場合、給付費に加算がつけられたのですが、当初の目論見が外れたからか、あまり普及しなかったこともあって、2021年度の報酬改定の際に、その加算は廃止されました。
その目論見というのは、施設外就労を利用する企業へ事業所の利用者の就職が増えることでした。就労支援事業所との連携によって、優秀な人材の発掘が期待できるという発想だったのでしょうが、そうはうまくいかなかったのです。

失敗の原因は、その仕組みを考案した側の意図が就労支援系の福祉サービスの現場で理解されなかったことと、実施する際の人員配置や車両の手配など、加算の割に負担が大きすぎたということがあるでしょうか。
室内での軽作業を前提にした事業所ではハードルが高すぎました。
このハードルには、工賃を上げる、就職を目指す、といった事業所職員の意識の持ちようも含まれますが、これが最も難関だったのかもしれません。


しかしこのハードルを飛び越えて実施した場合の、事業所にもたらすメリットは決して小さくないと思います。現在の工賃実績に基づく報酬算定のもとでは、目標工賃を達成することは事業所を維持していくうえでの経営目標でもあるからです。
お金にならない仕事を減らし、単価の高い良質な仕事を安定的に確保できることになるかもしれません。また、その仕事は労働集約型で、出向いた先の企業から原材料の提供を受け、設備と道具を借りて行いますから、工賃への還元率と利益率を高めることになります。そしてなにより、その経験が、利用者にも職員にも貴重なものとなるでしょう。職員は、より責任の伴うミッションを通じて自らのスキルアップの機会にできることでしょうし、利用者は、企業から実績が認められて就職への道が開けるかもしれません。
企業のメリットとしては、人材不足の解消と人件費の削減につながる可能性があること。そして、障がい者の直接雇用に伴う労務管理の負担を回避できること。また、将来の障がい者雇用への人材発掘に有効であることがあげられます。

雇用のミスマッチは、求職者の障がい特性に、企業の社風や環境、職場の人間関係と仕事の内容があわないことで生じます。多くの場合、障がい特性とは努力して変えられるものではないですから、企業の側があわせる努力をしなければなりません。その努力をした結果、社員らがやさしくなったとか、風通しの良い組織になったとか、働きやすい会社に変わったという声が多く聞かれるようになったのです。
しかしその努力も、大手ほど余裕のない中小企業では負担でしかない場合もあるかもしれません。でも法定雇用率は達成したい。ミスマッチはできるだけ避けたい。それには少し遠回りかもしれませんが、就労支援事業所の施設外就労を利用することから始めるのがいいかもしれません。


まず障がい者にやれそうな仕事、やってもらいたい仕事を切り出します。作業指示は職員を通して利用者へ伝えるように、一般の従業員とは分けた作業スペースを確保した方がいいでしょう。駐車場を確保したりトイレをどうするかといったことは依頼する事業所が決まってからでいいかもしれません。単価の設定も交渉になります。
事業所選びは、独立行政法人・福祉医療機構の情報サイト「WAM NET」からできなくもありませんが、基礎知識がないと難しいでしょうから、自治体の窓口、障がい者施設への仕事を仲介する担当部署へ問い合わせるのがいいでしょう。又は各地にあるセルプセンター(社会就労センター)がそれを担っている場合があります。また数は少ないですが、在宅就業支援団体(セルプセンターもその一つです)を通すと、特例調整金が受け取れる場合もありますので、積極的に活用するといいと思います。

このように就労支援事業所の施設外就労は、発注企業と、事業所と、その事業所を利用する働きたい障がい者の「三方良し」ということがいえます。ただ、どんなに良い制度でも本質を外れてしまっては成果は生まれませんし、長続きもしません
まず企業には、できるだけ高い工賃を支払うようにしてもらいたいものです。それは将来的な人材の確保という観点からも、事業所との信頼関係の構築と利用者の働きたい意欲の維持にも欠かせません。事業所は、目標工賃の達成、すなわち利用者にやりがいのある作業を提供するという目的を忘れてはいけませんし、個々の利用者の夢や目標の実現のためにも、有効的に支援計画に組み入れていく必要があるでしょう。

例えば、プロの業者に頼むほどではないが、やり手がいなくて困るという、建物内外の清掃、や除草といった作業を障がい者の仕事に切り出そうとする場合、仕事内容とのマッチングに不安があるとすれば、まず就労支援事業所へ発注することから始めるといいでしょう。障がい者に対する漠然とした不安や過小評価が改善されるかもしれません。


そして不安が解消され、メリットを体感したら、さらに仕事の量と範囲を広げてみましょう。事業所ごとに得意な作業などがありますから、複数の事業所に依頼してみるのもいいかもしれません。そうして雇用した場合の体制づくりなど具体的なイメージをつくっていきます。
この施設外就労を「みなし雇用」として法定雇用率に算定できるようにするアイデアは、長年検討されていますが、実現に至っていません。
これができるようになると、企業は法定雇用率の呪縛から、就労支援事業所は閉鎖やサービス種類の変更から、働きたい障がい者はもっと自分にあった形の働き方を選択できるようになるなど、社会全体にとっても有益だと思うのですが、これについてはまた別の機会に触れたいと思います。

ABOUTこの記事をかいた人

[ 障害者雇用コンサルタント ]
[ 緑地管理&園芸療法コーディネーター ]
▼プロフィール:
1965年生まれ、秋田県出身。
神奈川県の高校を卒業後、造園会社に3年間勤務したのち渡米し、カリフォルニア州サクラメントで2年間ガーデナーとして働く。帰国後、様々な仕事を経験したのち、個人宅を中心に毎月1回定期的に訪問するスタイルのガーデンクリーンナップサービスを開業。事業が軌道に乗った頃、園芸療法を知る。所属する教会の牧師が運営するNPO法人のもとで障害福祉サービス事業所を開設。3年後に株式会社ナチュラルライフサポートを設立し、「ガーデニングで障害者支援」をコンセプトに就労継続支援B型事業所レインツリーを開設。以降12年間で事業所を4か所、延べ300名以上の支援に携わる。
事業を通して障害者雇用の現状を知り、障害者本人への支援から、雇用する企業の支援に軸足を移すことを決意し、株式会社ウェルガーデンを設立。障害者従業員による緑地の維持管理体制の構築と、園芸療法の導入を主とするコンサルティング事業を開始。障害者がいきいきと働く緑豊かな企業が増えることを目指して活動中。


WebSite:https://wellgarden.work