ニューノーマルな時代にはリモートのよる障がい者雇用を進めたい理由(後編)

前回の続き。

企業側メリット

〇障がい特性が勤務に影響しにくい

人事担当者と話をした際に、最近では障がい者の雇用義務のある企業を中心に、ダイバーシティ(多様性)やSDGsへの関心も深まったことも影響し、職場の障がい者への理解が進んできていると感じています。

現在、障がい者関連の法律である障がい者差別解消法の改正案が通常国会に提出される可能性があります。その場合、これまで一般企業は障がい者への合理的配慮の提供が努力義務であったのが義務化となり強制力が強くなりますので、各企業では雇用する障がいのある従業員が求める職場環境の改善にこれまで以上に取り組む必要が出てきます

同じ障がい特性であっても、個々が求める配慮や理解には違いがあるため、当事者自身が日常生活をより良くするための独自の工夫やセルフケアを見つけて実践しています。そのような中にはどうしても勤め先で配慮ができないケースもあるため、「テレワーク勤務」の導入が進んでいる企業であれば、本来であれば様々な障がい者の特性ごとに求められる配慮についても、提供しやすい雇用を実現させることができます。

障がい者側メリット

〇心身への負担が軽減

はたらく障がい者にとっても「テレワーク勤務」によって得られるメリットがあります。
例えば、普段から車イスを利用している障がい者の場合、日常の移動も不便に感じる中、都心部での朝の通勤が必要な方にとっては身も心もすり減らしてしまう状態にあると言えます。(「車イスで満員の車両に乗る時に感じる周囲からの目」「ホームで乗車待ちをしている乗客の中を進んでいくときに起こる事故」など)移動時のリスクや職場のバリアフリーが理由となってはたらく機会を失っている障がい者は少なくありません

また、少し地方に目を向けてみると通勤圏内に求人募集している会社がないために就職ができない障がい者を「テレワーク勤務」としての採用のターゲットにすることで両者のニーズを叶えたマッチングができます。



〇就職率が上がる

「前編」でもお話をしましたが、企業の求人募集で「テレワーク勤務」という条件の記載が入った求人票を目にすることが多くなってきました。おそらく新型コロナウイルスの感染拡大防止対策により、「テレワーク勤務」の導入が進んだ企業が障がい者の雇用でも活用できると確信を持つことができたからだと考えます。
このことで、テレワークであれば通勤圏を外れている企業の求人募集にもエントリーできる範囲が広がりますので、自立に向けた生活基盤の構築が進む障がい者も増えてくると感じています。

「テレワーク勤務」で障がい者雇用を成功させるために実践してほしいポイントが2つあります。どちらも私自身が関わっている企業で実践されている事例を参考に、自社の雇用に繋げていただければと思います。

離れているからこそコミュニケーション


会社に出社して周囲の同僚や上司と交わす会話や仕事の相談、職場の雰囲気が業務の円滑化に関わっているということをテレワークではたらいてみて改めて実感された方も多かったのではないでしょうか。そういった観点から、「やはりテレワークよりも従来の出社型の勤務に重きを置いた方が良いのではないだろうか」という意見も少なくありません。

実際にテレワークにより障がい者雇用を実践しているある企業では従業員同士のコミュニケーションが不足しないような仕組みを日々の業務の中に導入しています。
例えば、

  • 毎朝、リモート朝礼を実施し、参加者が一言ずつ発言するようにしている。
  • 業務の指導や引継ぎは、担当している障がい者同士でおこなう。
  • 遠慮しないように、チャットで連絡を取り合う。

などを実践しています。

また、「テレワーク勤務」時に発生する相談や悩みにもしっかりと耳を傾けられるように、組織内であればリモート面談の実施や社外の専門家によるカウンセリング窓口を設置することで、遠隔地により感じる孤立感を解消させ、組織の一員であることを常時感じられる工夫を取り入れています。

地域の支援機関の役割りが安心感を生む


現在、私が障がい者の雇用で関わっている企業では、完全在宅による「テレワーク勤務」ではたらくことを希望する障がい者の採用をおこなっています。
このコロナ禍という状況も影響したと思いますが、数名の採用枠に数十名のエントリーがありました。私は書類選考・面接のところからアドバイザーとして参加したのですが、役割としてはエントリーされた障がい者の「支援体制」がどのような状況にあるかという点を見るようにしています。

これは、「テレワーク勤務」に限ったことではなく、出社型の採用の場合であっても「支援体制」を重要なポイントにしています。この「支援体制」というのは、分かりやすいところで言えば、就労移行支援事業所などの就労系支援福祉サービスの利用者であったり、就職後の定着支援サービスを受けられる予定のある方なのか、または医療機関やカウンセリングなどの相談・支援先の有無や良好な関係を築くことができているかなどを指しています。

企業での就職がスタートすると、障がいの有無に関係なく環境の変化や仕事に従事していれば心身の状態の浮き沈みというものを経験します。そのようなときに、状態のケアやリカバーするために支援体制が整っている人材というのは、本人も採用する企業にとっても安心材料となってきます。
両者が常時離れた環境に置かれる「テレワーク勤務」での採用であれば、「支援体制」の存在を重視するという姿勢は尚更です。

今後、都市部の企業による地方に在住する障がい者の雇用が必ず進んできます。そのようなときに、理解・協力をしていただける地域の就労系支援福祉サービスがあれば、人事担当者にとっては鬼に金棒です。
強いて上げる課題としては、企業と地方の就労系支援福祉サービスを結ぶリソースの存在がまだまだ不足しているという点です。こういったところも、国や自治体が積極的に法律の施行や助成金などの制度を提供していただけるとスピードが生まれると感じます。また、法定雇用率が未達成で納付金(罰金)を支払っている企業が活用できるような制度があればとも思います。

「テレワーク勤務」がすべてを解決させる「最良のはたらき方」であるという考え方よりも、今回のような状況下にあっても業務を遂行させるためのはたらき方として「選択肢の幅が増えた」という捉え方がスマートだと思います。
どちらかが良くてどちらかが悪いという一元論的な考え方では、双方の意見が邪魔をし合ってしまい柔軟さに掛けた対応になってしまいます。それよりも両者の利点を理解・活用して、環境変化への対応が求められても企業が収益を上げられるような組織を構築しておけば良いと思います。

ABOUTこの記事をかいた人

上前 忠司 (日本障害者雇用総合研究所代表)

[障害者雇用コンサルタント]
雇用義務のある企業向けに障害者雇用サポートを提供し、障害者の雇用定着に必要な環境整備・人事向け採用コーディネート・助成金相談、また障害者人材を活かした事業に関するアドバイスを実施。障害者雇用メリットの最大化を提案。その他、船井総研とコラボした勉強会・見学会の開催や助成金講座の講師やコラム執筆など、障害者雇用の普及に精力的に取り組んでいる。

▼アドバイス実施先(一部抜粋)
・opzt株式会社・川崎重工業株式会社・株式会社神戸製鋼所・沢井製薬株式会社・株式会社セイデン・日本開発株式会社・日本電産株式会社・株式会社ティーエルエス・パナソニック株式会社・大阪富士工業株式会社・株式会社船井総合研究所・株式会社リビングプラットフォーム