前回の続きから。
2. 障害者雇用について
(1) 法定雇用率とは
障害者雇用促進法により、国、地方公共団体、民間企業等は、常時雇用している労働者数に対して、一定以上の割合で障がい者を雇用することが義務付けられています。その割合のことを法定雇用率と呼んでいます。企業の法定雇用率は、今年4月から2.0%から2.2%(国、地方公共団体等は2.5%)に引き上げられ、精神障がい者も算定の対象となりました。簡単に言うと、常時雇用する社員が1000人いる会社は、22人の障がい者を雇用することが義務となっているのです。
常時雇用している労働者数が100人を超える企業が、法定雇用率を達成していないと、その事業主は、不足する障がい者1人につき月額50,000円の障害者雇用納付金を納付しなければなりません。これで集められた納付金は、雇用率を超えて障がい者を雇用している事業主に対して、各種助成金などで支給されることになっています。
企業等は、毎年6月1日時点の障害者雇用状況をハローワークに報告しなければなりません。法定雇用率が達成されてない企業で、障がい者雇入れ計画の適正実施勧告に従わず、障害者雇用の改善が見られない場合は、企業名が公表されることになっています。その他、障害者雇用を積極的に行わず、多額の障害者雇用納付金を支払っていたJALは、納付金相当の損害を与えたとして、株主に代表訴訟を起されたという事例もあります。社会がコンプライアンスに敏感となっている昨今は、法定雇用率を守ることが企業にとって重要なことであると捉えられているのです。
(2) なぜ障害者雇用が進められているのか?
2014年、日本は障がい者権利条約に批准しました。批准すると、条約の諸規定を自国の法令に取り入れるためにあらゆる措置をとらなければならず、国には年次報告の義務が課せられます。報告内容は「障がい者権利委員会」によりモニタリングされ、様々な勧告がなされます。つまり、権利条約に定められた項目がきちんと整えられているか、整えられていない場合はいつまでにそれができるのかの報告をし、出来ていない場合は、委員会からしっかりやるように言われることになります。権利条約の第27条には「労働及び雇用」について記されていて、障害者雇用はこの項目に従って整えられなければなりません。
もうひとつの大きな理由は、日本の社会保障費の増大や労働人口の減少ということが挙げられます。社会保障費を減らし、働きたい、働ける障がい者が労働の分野でも活躍することは、労働人口を増やす施策の1つとして考えられています。
これらから分かることは、障害者雇用は、政党や政策にかかわらず、必ず進められていくものです。
法定雇用率は、2021年より前に(2020年が濃厚)更に0.1%引き上げられることが発表されています。厚生労働省は、障害者雇用の現状を見ながら、3.0%まで段階的に引上げるとしています。他方、ヨーロッパを見るとドイツは5.0%、フランスは6%となっており、日本もこの数字に影響を受けると考えられます。
(3) ディーセントワーク・ラボが提供する障害者雇用コンサル
当法人の障害者雇用コンサルタントは、主にソーシャルワーカーであることが特徴です。企業の現状についてお話をおうかがいしながら、準備段階から業務計画、採用、定着までをトータルにサポートしています。まずは、障がい者と企業の双方からしっかり話を聞くところからスタートします。お互いの困りや課題があれば、そこから両者にとって必要なニーズを明らかにし、それを解決・サポートできるよう、外部の支援機関も含めて取り組んでいきます。
障害者雇用の課題としてよく挙げられるのは、「障がい者に対する周囲の理解がない」、「障がい者に適した業務がない」、「障がい者が長く安定して働けない」というものです。このような課題に対して、障害者雇用を自分ごととして捉えられるような研修の実施、社内食堂やcafé、ものづくりといった障がい者の特性を活かした新たな仕事づくり、定期的な面談の実施と外部機関との連携という形でそれぞれ対応しています。
(4) ポジティブな障害者雇用から得られるもの
障がいがある故に明らかになる「働きづらさ」は、実は他の人にとっても「潜在的な働きづらさ」となる場合が多く、そこを改善していくことですべての人が「働きやすい職場」になります。また、障がい者と共に働くということは、いろいろな挑戦と小さな失敗を繰り返すという試行錯誤のプロセスを経ながら徐々に達成していくものです。そこで培われるマネジメント力や対応力、柔軟性は、今後、海外の方も含めて様々な人と働いていくために必要不可欠な要素であり、障害者雇用を通してそのスキル、マインドを得ることができます。さらに、障がい者が一生懸命に働く姿を見て、周りが感化される(お釈迦様のいう「無言の説法」)場合もあります。
そして、何よりも、いろいろなタイプの人間が受け入れられ、ある程度の失敗を許容し、相互に補完し合いながら、チームで仕事を遂行できる職場は、「承認」「人とのつながり」「達成感」「安心感」があるため、組織としての生産性が高まることが最大の効果です。これらの感情は、人間の幸福感に直結しているため、豊かな働き方にもつながります。
3.これからディーセントワーク・ラボが目指すところ
障がい者は、どこからが障がい者なのでしょうか?手帳があるから、ないから?もちろん、それが大きい基準の1つにはなります。しかし、その手帳の基準も時代によって少しずつ変化してきています。ある一定のところを基準として、ある、ないとされるものではありますが、その境界線は明確ではありません。人には、できることがあるように、得意なことがあるように、できないことや苦手なことがあります。
「障がい」とは、できないところとできないところの差が大きく、凸凹が大きいということです。日本は図のように、チャートのバランスが取れた人を好みがちです。しかし、実は隠れ凸凹チャートの人も多くいるのではないでしょうか。凸凹をバランスよくできることに力を注ぐのか、凸凹を認めて強みを高め、それを活用することに力を注ぐのか。おそらく、その選択によって、数年後には全く違う結果が出ているだろうと思います。できること(強み)に着目することが、本人の自信と成長意欲を高めていくことになると多くの人はすでに知っているはずです。できること、できないこと、そのどちらに着目するかは、実はとても大切なことです。
私たちは、障がいのあるなしにかかわらず、すべての人がその人の強みを活かし、その強みが他者の弱みを補えるように、そして、その人の弱みをそれが強みである他者に補ってもらえるように、そういった「お互いさま」が当たり前になるような社会を創っていきたいと考えています。
これから、よろしくお願いします。