~後半~障がい学生を採用するメリットと、採用時に確認したいポイント

前回は、【~前半~障がい学生を採用するメリットと、採用時に確認したいポイント】として、障がい者雇用に苦手意識のある企業が、障がい学生の採用をきっかけに障がい者雇用に対する苦手さを克服していただくために、障がい学生を採用するメリットをひとつご紹介しました。

今回はメリットを、あとふたつご紹介します。是非、最後までお付き合いください。

【メリット②】

配慮や支援を必要としない大多数の人達の中で、ご本人だけが支援を受けながら社会生活を送ってきた経験がある。つまり、これから始まる企業内の障がい者雇用と同じ状況を、すでに大学で経験してきている。

⇒ これは、かなりの強みだと思います。また、特別支援学校の高等部を卒業している方、一般枠での就労を経験し、障がい者雇用に至った方達と、明確に異なる点です。
つまり、「自分だけが、特別扱いをされることは嫌だ」、「自分だけ支援を受けることは申し訳ないので、極限まで我慢してしまいがち…」といった思いを乗り越えてきている方が多く、その点では、安心して迎え入れられることが多いと考えられます。

【人事採用担当者は、ここを確認!】

何か困ったことがあったときに、学内の障がい学生担当者を介在し調整してきたか、もしくは、ご本人が直接、授業担当者と調整してきたかなど、大学時代に、誰とどれくらいの頻度で調整してきたかを確認しておくと良いと思います。

⇒ もしかすると、大学での経験があるがゆえに、「このやり方が普通なのだ」と誤解をしてしまっている可能性もあります。
ご本人のやりやすい方法と、社内で求めたいやり方を、頻度と併せて、一旦擦り合わせをしておくと良いと思います。
また、障がい特性や病態により、特に支援が必要な時期(たとえば、体調が悪くなる時期)がある場合がありますので、あらかじめ質問しておくと、お互いに採用後の心づもりができて良いと思います。

【メリット③】


ご本人が、支援をする側の生の声(はっきりとしたフィードバック)を聞いたことがある。

⇒ 障がい学生と、その他の学生との交流などを積極的に行う大学が増えてきています。その学生が在学していることきっかけに、障がいのある人もない人も共に生活することを体験的に学んでいきます(実際に私が大学で仕事をしていたときの主な業務が、障がい学生を手助けしてくれる「学生サポーター」の調整であることが多かったです)。

障がい学生は、大学に入学するまでは、これまで所属先や担当者から支援をしてもらうことが多かったけれど、「学生たちからサポートしてもらう」という経験は初めてであることがほとんどです。
学生からのサポートは、障がい学生たちに大きな学びを与えてくれます。
「何をしたらいいか分からないからもう少しはっきり教えて」
「このやり方はやりにくいので、もっといいやり方を一緒に考えたい」など、今までは言われたことのないようなフィードバックを学生からバンバン受けるようになります。
障がい学生にとって、この経験がとても大切なのだろうな…と思っています。

高等学校までの教育では、授業担当者からのフィードバックがこれほどはっきりしていることはありません。教員であれば、ある程度必要なことを見極め、支援をすることは当たり前という感覚があるからです。

障がい者雇用でうまくいかず問題になることのひとつとして、「周囲の疲弊」があげられます。
支援のノウハウがない方達が障がい者の方達に対して、配慮が「遠慮」になってしまったり、「こんなことを言ったら障がい者差別にあたるのではないか?」とどこか腰が引けていたりすることもよくあります。
また、障がい者の方達も、伝えることやはっきりとしたフィードバックを受けることに慣れておらず、傷ついてしまうことも多いため、お互いの溝が埋まらないこともあります。

学生サポーターにサポートをしてもらってきた障がい学生は、学生同士のやりとりを通して、自ら支援をその場で求めることはもちろんのこと、はっきりとしたフィードバックを受け取ることに慣れており、その都度調整してきていることが多く、採用する側にとって、安心材料のひとつになるのではないでしょうか。

【人事採用担当者は、ここを確認!】


障がい学生には、学生サポーターの支援を受けてきたかどうか聞いてみると、色々なエピソードが聞けるかもしれません。
実際にサポートを受けるときに、よく言われること(ここが難しいと言われる点)、どのようなフィードバックを受け、どのように調整してきたかなどを聞いてみるのもいいかもしれません。

今回は、前半に引き続き、障がい学生を障がい者枠で採用するメリットと、採用時に確認したいポイントをお伝えさせていただきました。

敢えて採用するメリットばかりをお伝えしましたが、障がい学生の障がい者枠での採用に、課題が何もないわけではないと思います。
ここでひとつあげるとすると、大学側に、障がい者雇用に詳しい人材がほとんどおらず、障がい学生には、外部の支援機関とつながりがあまりないと、卒業はできたものの、その後の支援にうまくつながらないこともあるということです。

また、障がい学生は、卒業後すぐに障がい者雇用の門をたたく場合ばかりではありません。
一般枠での就労を経験してから、転職時に障がい者雇用を考える場合もありますし、卒業後、就労移行支援事業所で、働くスキルを身に着けてから、障がい者雇用を目指す場合もあります。

この記事を読んで、障がい学生の採用に興味をもっていただき、前向きになってくださった企業様がいらっしゃいましたら、大学の就職課だけでなく、障がい学生支援センター(呼び方は大学によって異なります)とも、つながっていただけると、各大学での障がい学生について、色々なお話が聞けるのではないでしょうか。

今後、大学側も、障がい者雇用に向けてのノウハウを蓄積していく必要があると思います。双方が、現状を理解しあえるような機会を今後も設けていけることを切に願っています。

ABOUTこの記事をかいた人

▼プロフィール:
1985年生まれ。公認心理師、臨床心理士。
国立大学大学院修了後、県発達障害者支援センターにて発達障害児者支援に従事。その後、大学に着任し、障害学生支援、学生相談に従事。現在は、小中学校でのスクールカウンセリング、療育機関での発達検査や発達相談、大学での講義などを行うなど、様々な現場で支援に携わっている。


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