障がい者がはたらく環境で気をつける4つのポイント【前編】

もしあなたや家族がはたらいている会社が「自分の将来設計が立てられない」「自分の可能性を信じてもらえない」「悩みや相談を聞いてもらえない」としたらどのように感じますか。
はたらく障がい者の中には、「昇給や昇進」「自立や結婚」「求める合理的配慮」から遠い環境に身を置いている人も少なくありません。

企業が障がい者雇用に取り組むのは法令遵守である法定雇用率の達成を目的としているところが多くを占めていると言えます。裏を返せば、法律により障がい者雇用が義務化されていることが後押しとなり、年を重ねるごとに企業ではたらく障がい者の数は増し、企業で活躍する障がい者の様々な事例が紹介される記事を目にするのも珍しいことではなくなってきました。

そのような状況に合わせて、職場で障がい者と関わる人たちからは「明確な評価基準がない」「職場に求める配慮の範囲」「雇用条件を検討する事例がない」など、『障がい者雇用の難しさ』を改めて感じさせられるエピソードを耳にする数も増えたように感じます。

これは、法定雇用率の達成」に重きを置いた障がい者雇用の現状が生んだ課題であり、障がいという個々によって違う特徴に対する配慮や活かした人材活用について考えてこなかったことが理由だと考えます。形骸化した障がい者雇用。
障がい者雇用に取り組む企業の中に、こういったことをいち早く察知して障がいのある人材でも与えられた役割で成果を上げ、自分が望む生活を実現できる組織作りを目指すところが少しずつ出てきています。

それでは障がい者がはたらく環境で気をつける3つのポイントについてお話ししたいと思います。

①従業員との合意形成


お分かりいただく通り、これからの障がい者の雇用定着には従業員からの理解と協力が不可欠です。
うつ病や統合失調症といった精神障がい者やADHDなどの発達障がいのような障がい特性が理由となって仕事の場面で感じられる特徴(仕事を覚えるスピードやできる範囲等)の理解に加え、一緒に働くことで得られる効果や一般的な思い込みと比較した時との違いについて、一緒にはたらく側にも理解してもらうことで安心を得られるのだと説明する義務が企業に求められます。
障がい者とはたらく場面では、「一度で覚えられない」「何度も同じミスをする」「スピードが遅い」と感じることがあります。それを感じた従業員に対して、会社が法定雇用率の達成のためと説明をしても合意を得る理由にはなりにくいでしょう。

社会的な役割として障がい者人材の活躍の場を作ること、それを通して多様性ある社会の構築を目指すための投資であることを表明する。それらの活動を通じて人としての成長につながることを会社としての明示が必要です。

②専門性が必要と認識


毎年厚労省から公表される「障害者職業紹介状況等」によれば、ハローワークを通じて企業に就職する数は精神障がい者の就職数が全体の47.7%と最も多いことから、企業にとって精神障がい者は「職場で戦力になる」という認識が浸透していることが分かります。

参考:厚生労働省「令和3年 障害者職業紹介状況等」
URL:https://www.mhlw.go.jp/content/11704000/000797428.pdf

一方で障がい者を採用する企業は、精神・発達障がい者が職場定着するための環境を求められるわけですが、機微なことが理由で体調に影響し、発達障がいであれば周囲に理解されにくいことが原因で不便を感じる当事者も多いため、障がい者雇用に難しさを感じる人事担当者・実務担当者の声をどのように拾うかが課題として挙げられます。
障がい者雇用の実務担当者の役割を担っているのは人事担当者が多く、当然ですが障がい者の求人・雇用以外の業務もたくさん抱えています。また、大企業にいたっては社内異動により数年で役割を交代する企業特性があります。

現在の障がい者雇用担当者には専門性が強く求められているのは、前段でもお話ししたところが理由となります。しかしながら、企業側が「障がい者担当者は専門性のある業務」といった認識とは異なる考えをしているために、専門人材の育成はもちろん知識や経験の蓄積が進まない現状を生み出しているように考えます。

厚生労働省がすすめる「企業在籍型ジョブコーチ」や「精神・発達障がい者しごとサポーター」に見られるように、精神・発達障がいのある従業員には社内で専門的な立場として支援する役割を設置することが現実的には望ましく思えます。なぜなら組織が障がい者雇用で直面する問題について、専門的な知識・経験のある人材を配置することで解決できる内容に見えるからです。

障がい者雇用はマニュアル書のようなテキストに従って対処できるものではなく、ときに当事者に寄り添って一緒に課題解決に向けたサポートを実施する役目になるため、適材な人材が配置されることが望ましいと感じます。そのためには一般的な異動の規定には準じない専門性のある職域としての立場を組織内で設けていただきたいと考えます。

本気で障がい者雇用に取り組むのであれば尚更です。

参考:厚生労働省「企業在籍型ジョブコーチとは?」
URL:https://www.nivr.jeed.go.jp/research/kyouzai/p8ocur00000090z8-att/kyouzai67.pdf

参考:厚生労働省「精神・発達障害者しごとサポーター」
URL:https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/shougaishakoyou/shigotosupporter/index.html

次回に続く

ABOUTこの記事をかいた人

[障害者雇用コンサルタント]
雇用義務のある企業向けに障害者雇用サポートを提供し、障害者の雇用定着に必要な環境整備・人事向け採用コーディネート・助成金相談、また障害者人材を活かした事業に関するアドバイスを実施。障害者雇用メリットの最大化を提案。その他、船井総研とコラボした勉強会・見学会の開催や助成金講座の講師やコラム執筆など、障害者雇用の普及に精力的に取り組んでいる。

▼アドバイス実施先(一部抜粋)
・opzt株式会社・川崎重工業株式会社・株式会社神戸製鋼所・沢井製薬株式会社・株式会社セイデン・日本開発株式会社・日本電産株式会社・株式会社ティーエルエス・パナソニック株式会社・大阪富士工業株式会社・株式会社船井総合研究所・株式会社リビングプラットフォーム