行政機関・自治体が組み合わさった障がい者就労支援の仕組み・後編

前回に続き、「行政機関・自治体が組み合わさった障がい者就労支援の仕組み」の後編として【メリット】【課題】についてお話したいと思います。

【メリット】

  • 一般企業への就職率と定着率を高める

障がい者の中には社会経験の少ない人材がたくさんいます。就労系支援機関での訓練に加えて、雇用による勤務経験は障がい者本人にとって大きな自信と経験になります。また、採用する側の一般企業の人事担当者としても実践経験を積んだ障がい者であれば、雇用のイメージもつきやすく定着にもつながるという点では安心して採用することができます。
障がい者雇用における課題である「法定雇用率の未達成企業が半数以上」「未達成企業のうち雇用数ゼロが約60%」についても、地域で罰金を支払っている企業に対して雇用を働きかけたり、未達成企業を減らすはたらきとして挙げられます。更に下記に挙げた助成金などの助成制度と掛け合わせることにより、雇用に前向きな企業も増えてくると思います。

  • 人材不足の解消

この制度では、一般企業への就職を目指す人材にとって、国や地方公共団体で働くことがキャリアアップのひとつとなります。そのため、求人募集には多くの人材がエントリーすることになりますし、上記でお話したように連携先である地域の各支援機関や特別支援学校から受け入れる実習生の中から業務マッチングした人材を採用することも可能になりますので、人手が足りないという問題から解消されます。

  • 助成制度

この仕組みにより障がい者を雇用を浸透させるためには法律を改正し、企業が助成金を受給できるなどのメリットを感じるような制度にすることも必要だと考えます。
例えば、対象の要件としては、
「法定雇用率が未達成(罰金を支払っている)な企業」
「障がい者雇用義務のない企業」
「国や地方公共団体が最初の就職先(初めての転職)」
「高齢の障がい者」
など、雇用が進みにくい状況下での採用が良いと考えます。
助成金の支給には定着の確認ができる雇用後6ヶ月や1年が経過してから。人事担当者が申請しやすい方法が望ましいですね。

【課題】

  • 国・地方公共団体と一般企業とのギャップ

日常生活でお世話になる地域の役所などの行政機関に行ったときに、書類の申請・受取りなどの一連のやり取りでアナログ感が強いと感じるのは私だけでしょうか。私が目にするのは一部分ですし高齢者の方々にとってはアナログな部分も必要ではあるというのは承知の上で、それにしても書類一枚受け取るのにこれだけの時間が掛かるのはなぜなんだろうと考えてしまいます。少しずつITの導入は進んできているとは思いますが、タブレットでの申請や窓口の一本化など、時代に遅れていると感じてしまいます。
一方で企業は、テレワーク勤務が浸透しつつあるためペーパーレス化が進んでいます。また、コミュニケーションについても部署やグループ単位でチャットを使用したリアルタイムでの情報共有など、今回の新型コロナウイルスにより仕事のスタイルも大きく様変わりしようとしています。
そのため、国・地方公共団体に就職された障がい者の経験と一般企業で必要な経験に大きな差があり、企業にとって魅力に感じない可能性も考えられます。

  • 障がい者担当部署を設置

おそらく、国・地方公共団体の各事業所や職場には専門知識や経験を持つ担当者や部署の設置は少ないのではないでしょうか。現在、働く障がい者の特性は広がり、同じ障がいであっても個々の特徴には違いがあり、義務ではありませんがより良い成果を生むために周囲はこれまで以上に障がいや特徴への理解を深めることが求められます。
一般の企業でも同様に、障がい者に関連した情報や対応が集約された部署の設置があればと考えます。担当部署というのは、採用された障がい者を集めて仕事をしてもらうための部署ではなく、「障がい者が勤務している各部署の管理者や担当者が頼るための部署」というイメージです。例えば、新任の担当者のための研修や部署で発生した課題解決のアドバイス、外部専門機関との窓口などが主な業務です。人事とは別の担当部署が設置されることで情報が集約され、異動などで担当者が変わっても情報が引き継がれ、必要な資格取得や担当者育成もおこないます。
こういった専門部署の設置があることで、トラブルの発生時の対応や専門機関とのコミュニケーションもスムーズに運ぶことができます。

  • 転職の橋渡し

雇用期間満了となる5年を迎えるまでのタイミングで転職活動を実施する障がい者の中には外部の支援機関などからの支援を受けていない人もいます。また、その方が自力で転職活動ができにくい障がい者の場合でも、スムーズに次の就職先にエントリーし、転職できる状態や環境が望ましいと考えます。
しかしながら、現状では雇用期間である年度末までは在籍してほしいというルールが足かせとなってしまい、転職活動の邪魔となります。あくまでも、「有期契約は一般企業へのステップ」という立場を前提として、転職時期は自由化した上で、上記で設置してもらいたい担当部署が転職についての支援を実施してもらえることが望ましい状態だと思います。可能であれば、転職時の橋渡しとして転職先の人事担当者とのやり取りや実習の段取りなどを対応してもらえると非常に助かります。

  • 支援制度の見直し

適した支援により安定した生活を送ることは、仕事にも大きな影響を与えます。できることなら空白のない支援の実現が望ましいと考えます。
現行の制度ですと、就労移行支援事業所から就職をした場合、通所していた事業所からの支援6ヶ月とその後の定着支援事業所からの支援3年を満たした後は地域にある障がい者就業・生活支援センターなどが引き継ぎ、本人への支援を実施します。しかし、全国の障がい者就業・生活支援センターは限られた資源で運営されているため、同センターへの負担が増した結果、適切な支援が提供できないということになれば本末転倒です。

今回のテーマではありませんが、福祉支援は受ける本人が希望する間は提供される制度であってほしいと思います。就職は雇用が目的ではなく職場に定着することが重要ではありますが、定着した後も心身の状態や環境の変化により安定した生活を送れないことは特異なことではありません。
国は障がい者の社会参加・企業での雇用をより一層目指すのであればこれまで以上に予算を付け、支援側が疲弊せず、障がい者本人も希望する支援や生活を送られる世の中を実現してほしいと思います。

ABOUTこの記事をかいた人

上前 忠司 (日本障害者雇用総合研究所代表)

[障害者雇用コンサルタント]
雇用義務のある企業向けに障害者雇用サポートを提供し、障害者の雇用定着に必要な環境整備・人事向け採用コーディネート・助成金相談、また障害者人材を活かした事業に関するアドバイスを実施。障害者雇用メリットの最大化を提案。その他、船井総研とコラボした勉強会・見学会の開催や助成金講座の講師やコラム執筆など、障害者雇用の普及に精力的に取り組んでいる。

▼アドバイス実施先(一部抜粋)
・opzt株式会社・川崎重工業株式会社・株式会社神戸製鋼所・沢井製薬株式会社・株式会社セイデン・日本開発株式会社・日本電産株式会社・株式会社ティーエルエス・パナソニック株式会社・大阪富士工業株式会社・株式会社船井総合研究所・株式会社リビングプラットフォーム