■ はじめに:変化する障がい者雇用の現場と高まる専門性のニーズ
近年、法定雇用率の段階的な引き上げに伴い、企業が障がい者を雇用する数は確実に増加の一途を辿っています。日本の労働市場におけるDE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)の推進という観点からも、障がい者雇用は企業の社会的責任(CSR)の枠を超え、重要な経営課題のひとつとして位置づけられるようになりました。
その雇用動向のなかで特に顕著なのが、精神障がい者および発達障がい者の雇用の伸び率の高さです。かつて、企業の障がい者雇用といえば身体障がい者の雇用が中心であった時代が長く続きました。当時は、スロープの設置や車椅子用トイレの整備といった「物理的なバリアフリー」を中心とした職場環境の整備が主眼に置かれていました。しかし現在では、障がいの特性が大きく多様化しており、事業主側には物理的な配慮のみならず、障がい者本人が求める心理的・業務的な理解や配慮にきめ細やかに応える、より高度でソフト面での職場環境の整備が必要不可欠になってきています。
このように働く障がい者の特性が多様化したことで、人事担当者や現場のマネージャーだけでは対応しきれないケースが増加しています。そこで、専門的な知識や経験を持つ「相談員」や「支援員」の配置を積極的に検討する企業が増えてきているという話を、様々な現場で耳にするようになりました。これまでであれば、こうした専門的な相談員や支援員の配置は、障がい者雇用に特化した「特例子会社」が中心となって行われてきました。しかしこれからは、障がい者の雇用数そのものが多い一般の大企業においても、本社や各事業所の現場に直接、相談員・支援員の配置が進んでいくものと考えられます。
■ 現場を支える専門人材とそのバックボーン

企業で活躍が期待される相談員・支援員と聞いて、まず頭に思い浮かぶのは、就労継続支援A型・B型事業所や、就労移行支援事業所といった「就労系支援機関」で実際に障がい者の就労サポートに携わってきた勤務経験のある支援スタッフの方々です。彼らは日々の業務を通じて、障がい特性への理解や、課題発生時の対応、モチベーションの管理など、現場で培われた実践的なノウハウを持っています。
また、彼らが保有している、あるいは企業内で専門性を発揮するために求められる資格としては、非常に多岐にわたるものが考えられます。
具体的には以下のようなものが挙げられます。
【企業の障がい者雇用に特化した公的・社内資格】
- 障がい者職業生活相談員:障がい者を一定数以上雇用する事業所で選任が義務づけられているもので、厚生労働大臣が定める要件や認定講習の修了によって得られる、企業内支援のベースとなる資格です。
- 職場適応援助者(ジョブコーチ):障がい者が職場に定着できるよう、職場内での直接的な支援や、事業主・家族との調整を行う専門的な支援スキルを有します。
【福祉・医療系の国家資格】
- 精神保健福祉士(PSW):精神障がいのある人の生活や就労に関する相談支援に圧倒的な強みを持つ国家資格であり、メンタル不調の予防やケアに直結します。
- 作業療法士(OT):身体の動かし方に対するアプローチだけでなく、高次脳機能障がいや発達障がいの特性を踏まえた上で、作業手順の工夫、仕事の切り出し、PC操作などの微細動作の適応に直結する専門性を発揮します。
- 理学療法士(PT):身体障がいのある社員のスムーズな移動動線の確保、オフィスの物理的バリアフリー化の監修、さらには体調管理や疲労蓄積を防ぐための姿勢・動作指導において専門性を発揮します。
- 言語聴覚士(ST):発達障がいや高次脳機能障がいに伴うコミュニケーションのすれ違い、聞き取りや発話の困難さに対して、実務的な改善策(指示の出し方の工夫など)を提示できる貴重な存在です。
- 社会福祉士:障がい者全般の生活相談や、複雑な福祉制度全般の知識を証明する国家資格であり、生活基盤の安定から就労を支えます。
- 公認心理師:心理的なアプローチやメンタルケア、職場適応に向けた専門的なカウンセリングにおいて大いに活きる資格です。
【労務・キャリア支援の資格】
- キャリアコンサルタント:働く人の職業生活設計や就労相談、面談による助言・指導を行う国家資格であり、障がい者の長期的なキャリア形成を支援します。
- 社会保険労務士(社労士):障がい者雇用納付金制度や各種助成金、人事労務の法規に精通しているため、単なる現場支援にとどまらず、企業の支援部門・管理部門において非常に重宝されます。
■ 専門職配置の必然性と、現場が抱える「理想と現実のギャップ」

障がい特性の多様化により、職場で担う業務を期待値通りに遂行してもらうための配慮も、個々人によって大きく多様化してきています。
それに伴い、人事担当者だけではなく、障がい者を直接受け入れる配属先の職場においても、必要に応じて専門的な知識が求められる場面が今後ますます増えてくることが予想されます。
もちろん、一緒に勤務する同僚や上司が、それら専門的な知識を障がい者と一緒に働きながら自然と身につけられることが理想的ではあります。しかし、既存の社員も自身の通常業務を抱えており、そこまでの専門性を求めるのは現実的ではありません。
そういった現場の状況を考慮すると、あらかじめ専門的な知識や経験の備わった相談員・支援員を、障がいのある従業員が働く職場に直接配置するという考えは、企業組織として非常に理にかなっています。
しかし一方で、支援機関での勤務経験のある優秀な支援スタッフを相談員・支援員として企業に配置したものの、「どうもうまく機能していない」と頭を抱える企業が少なくないという現実も聞いています。
次回へ続きます。





