前回は、障害者雇用を始める上で注意する点を含めた「障がい者の雇用定着」までのステップ、6つのステージのうち①をお話ししました。今回は続きの②~④についてお話ししましょう。
② 従業員への研修
これまでのコラムでもお話しをしてきましたが、障がい者の雇用定着を実現するために重要となってくるのは、既存の従業員を大切にするということです。
採用した障がい者が実際に部署へと配属されてから、関わりが多くなるのは周囲にいる従業員の方たちとなります。一緒に働く従業員たちの協力なしには障がい者の職場定着は難しいというのはご理解していただけると思います。多くの企業では、障害者雇用の取り組みを進める際に、従業員に向けた理解促進のための研修や勉強会を実施していません。研修を実施しなくても障害者雇用に理解がある企業であれば構わないのですが、恐らくそういった企業は少ないと思います。
例えば、「障害者雇用に対する理解不足」な状態で取組みを始めた場合、
“障害者雇用に対する不安が先行”
“障がい者の雇用理由を知らないため進まない”
“障がい者に対する間違った思い込みが取組みを邪魔する”
といった点が壁となって人事担当者の前に立ちふさがります。
逆に「障害者雇用に対して理解充足」な状態で取組みを始めた場合、
“障がいについての理解が増し、従業員が正しい知識を持つ”
“理解から協力する姿勢が生まれる”
“全社で障害者雇用に対する土壌ができる”
ようになり、雇用をしっかりと根付かせることができます。
当然のことですが、障がい者のある方と一緒に働くことになれば、従業員の方たちも不安を抱くことになります。従って、そういった不安を払拭するための働きかけを忘れずに実施してもらいたいと思います。
事前に、障がいのある方たちと働くために必要な知識を得るということは、障がい者本人にとって働きやすい環境を生み出すだけではなく、周囲の従業員の方たちにとっても安全で働きやすい職場を形成することにつながっていきます。
③ 募集活動
障がい者の募集活動をするためには、求職者の市場や求人の実情を知ることから始めてみましょう。
内閣府から発表された最新のデータを元に国内の障がい者人口を見てみると、身体障がい者は約394万人、知的障がい者は約74万人、精神障がい者は約392万人となり、合計では約860万人となります。
実は、知的障がい者の数が一番少なく、身体障がい者と精神障がい者の数はほぼ同数ということが分かります。しかし、厚生労働省から毎年発表される「障がい者の雇用実績」を見てみると、企業に雇用されている障がい者約47万人のうち、身体障がい者が約32万人、精神障がい者が4万人となり、その差は28万人となります。
また、障がい者の各人口を年代別(「~17歳」「18~64歳」「65歳~」「不明」)に見てみると、雇用対象となる年代「18~64歳」の層では、身体障がい者が約113.5万人、知的障がい者が約4.9万人、精神障がい者が約219.5万人となります。この数字には既に働いている方(身体であれば約113.5万人のうち約32万人は雇用されていることになります)や60代前半の方たちも含まれていますので、実数は多少下回りますが、人口比率からすると精神障がい者の方たちを採用のターゲットとして考えていくことが必要になってくると言えます。
あと、採用基準についても見てみましょう。
過去の障がい者採用に見られた採用基準は、
といったものが多く見られました。
しかし現状は、
という内容に変わってきています。
受入れに関しても、これまでは「特定の部署・従業員と区別」が多かったのですが、「会社全体で受入れ可能な部署や業務を準備」するようになってきました。
おそらく、従来からの障がい者の採用基準では実績を伴わないということが理解されてきたと思います。このように、理想を追い求めすぎると時間と労力(またはコスト)が掛かる割に成果に結びついていない企業があるのではないでしょうか。
障害者雇用に見られる現実を直視し、改めて募集活動を実施してみてはいかがでしょうか。
④ 実習・面接・採用
募集活動を経て、具体的な採用候補者が出てきた際には、「実習」を試していただきたいと思います。「実習」にはたくさんのメリットがあるのですが、あまり企業には認知されていない取組みのひとつです。
「実習」を導入する場合、障がい者の就労訓練をしている福祉機関「就労移行支援事業所」に相談してみましょう。もし、近くに相談できる福祉機関がない場合は、各都道府県に設置されている「障がい者就業・生活支援センター」や「職業センター」などに連絡してみてください。
この「実習」によるメリットとしては、「ビジネススキルや実務訓練を積んだ障がい者の働く姿を実際に見ることで周囲の理解促進になる」「切出しをした仕事が障がい者の適正業務なのかの判断ができる」などがあります。
外部の専門機関となる「就労移行支援事業所」から「実習」を受け入れた場合、フォロー体制などもしっかりと相談できますので、雇用定着の足場を固める意味でも有効的です。
次は「面接」です。
障がい者の面接は複数回の実施が有効です。1回目の面接では、しっかりと自分を作り上げてきますから、第一印象としてはマルの評価を出すことがありますが、あと1回面接でお会いする機会を設けてみてください。
2回目以降も同じ印象であったり、面接官を変えてみても評価が良ければ採用を検討してみても大丈夫だと思います。
「面接」では、生活リズムの確認もしっかりと行ってください。通院状況や主治医との関係性、処方箋をしっかりと守っているかも重要となります。例えば、「調子がいいから自分の判断で服薬を止めている。」といった言葉を聞いたのであれば、採用は少し考えた方が良いでしょう。
また、「面接」では、雑談を通して過去のエピソードや失敗談などを聞いてみるのもいいでしょう。本人が気づかない(もしくは隠している?)特徴や障がいを知ることもあります。
「採用」に関しては、必要な候補者を掴むためにもしっかりとした雇用条件の提示を行ってください。
欲しい人材は他の企業からも欲しいと思われています。安心を与えるような雇用条件を提示することで、その方の心も掴みましょう。間違っても、雇用後に「提示された条件と違う。」といった不満を抱かせるのだけは避けましょう。
今回は以上となります。次回は残りの⑤と⑥についてお話しします。