障がい者雇用は「人助け」や「キレイごと」で済まされないから難しい

普段、私は企業の人事担当者からいただく障がい者雇用に関するご相談(求人、定着、助成金など)にたくさん出会います。2018年度からは法律改正にあたる「精神障がい者の雇用義務化」「法定雇用率の引き上げ」の影響から、その数が増々大きくなっています。

これらのことから、現在障がい者雇用は企業の関心ごととして大きく捉えられています。その証拠に厚生労働省から発表された「平成29年 障がい者の雇用状況集計結果」では障がい者の雇用義務のある企業約90,000社における法定雇用率の達成割合は半数の50.0%となり、近年で最も達成割合の高い数値となっています。障がい者雇用を企業の成長につなげることで、大きなメリットとして捉えている一般企業も見られるようになってきました。

しかしながら、企業で雇用される障がい者の数が増加し続けている一方で、「精神障がい者・発達障がい者の雇用が進まない」「求人募集を出してもエントリーがない」「雇用した障がい者が職場に定着しない」などの問題発生も多くなっています。

障がい者雇用は「人助け」だと表現されることがありますが、「人助け」精神で進めて上手く結果につながるケースというのは非常に少ないと感じます。

障がい者雇用を進めていくと、いろいろな体験に遭遇することになります。長く取り組んでいると、決して「キレイごと」で済まされないことを実感します。

障がい者雇用を真剣に取り組んでいくことで見えてくる「人助け」や「キレイごと」では上手くいかないとはどのようなことでしょうか。

理由①「障がい者はみんな天使(善人)だという考え」

皆さんの心の中で「障がい者」へのイメージというのはどのようなものでしょうか。某テレビ局で毎年放送される黄色いカラーの24時間番組を観ていると「みんなに勇気と感動を与えてくれる天使のような存在」「障がい者は苦労をしているから善人が多い」といったところでしょうか。特に、身近に障がい者がいない人たちは、とりわけこのようなイメージを抱いたりするのかもしれません。すべてを否定するわけではありませんが、障がいを持っている人たちも“同じ人”です。善人もいれば悪人もいます。

「障がいを持っているから助けないといけない」という考え方でいくと、“ねじ曲がった正論”を押し通すような印象を受けてしまい、それが障がい者雇用を邪魔しているように感じてしまいます。

「障がいがあるから仕事ができなくても給料がもらえる」ではなく「障がいがあるけどできる仕事をして給料をもらう」であり、「障がい者はそこにいるだけで周囲が幸せになる」ではなく「障がい者でも人の役に立って周囲から感謝される」となってもらいたいと思います。そのために会社が何をするかを考えてみてください。

『感動ポルノ』という社会の押し付けから見える障がい者差別を考える

2017.11.07

理由②「弱い立場の人を周囲が助けようの精神」

近年、企業は会社の本業となる業績だけではなく、様々な取り組みについても評価の対象とされてきました。例えばダイバーシティや環境保全活動など、売り上げに直結しない取り組みに関しても成果を求められるというのは、それが数値化するのが困難なものであった場合、担当者にとってみると非常に厄介な役を押し付けられたと感じてしまうのではないでしょうか。

仮に障がい者雇用だった場合、多くは人事担当者が役割を担います。制度となる法定雇用率は国が企業に対して義務付けた法律ですが、それを満たすことと本業の売り上げが向上するといった企業としてのメリットはありません。しかし、義務付けされた企業は、その法律を守り維持するために日々努力を続けています。(現在は常用雇用労働者45.5人以上の企業が対象)

日々、障がい者の求人や雇用定着に取り組んでいる企業経営者のうち、どの程度の方が自社の状況を把握しているのでしょうか。企業規模の大きな会社の経営者が直接指揮を執って障がい者雇用に取り組めと言っているわけではありません。しかし、大号令のごとく「弱い立場である障がい者の雇用を守るぞ」と声高に叫んだあと、情報収集や助成金の受給についてなど、人事担当者に任せっきりになっていませんか。障がい者雇用が進んできた現在において、人事担当者ひとりが額に汗して頑張って雇用が上手くいくほど簡単ではありません。今後は精神障がい者や発達障がい者など、知識や経験が少ないと特性理解が困難な人材を戦力として積極的に採用していかないとたちまち納付金(罰金)を支払う状態になってしまいます。

普段から「困っている人を助ける」という考え方の人であっても、会社が障がい者雇用に真剣でなければ、その人が企業に取って望むことを行動に移すことは簡単ではありません。会社の「障がい者」に対する姿勢は、従業員の行動に大きく影響すると思います。

会社は人事担当者だけではなく、周囲の従業員からの理解も得られるように会社全体で取り組むフォロー体制を敷くための仕組みを考えてください。会社全体で取り組む姿勢を社内に示すことで従業員に安心感が生まれます。安心感を持つことで職場で周囲に気を配ることができるのようになると思います。

「やるぞー」の掛け声だけで上手くいくのであれば、私のような仕事なんてとっくの昔に廃業しています。

理由③「現実を理解する」

昔に比べるとだいぶとマシにはなりましたが、障がいを持つ方たちの受ける教育レベルは、健常者が受ける水準よりも低いことがあります。また、アルバイトなどで養う社会経験についても、触れる機会が圧倒的に少ないため、他者との関わり方やコミュニケーションが上手くできない障がい者も少なくありません。当然、企業で採用されるまでの教育機関(支援学校や就労系支援事業所など)で経験や訓練を受けてきてもらいたいというのが本音だと思います。しかしながら、企業が望むレベルの教育や経験をしていないのが現実です。一律ではありませんが、障がい者の場合、物事の習得に時間が掛かりますので、限られた期間で身に着けるのにも限界があるでしょう。

理想だけで障がい者雇用を進めるよりも、現実を理解し受け入れた上で枠組み作りを行ってください。そのために不足しているものがあるのであれば、外部リソースを使うことも検討する必要があるでしょう。

近い将来になりますが、企業が望むような「配属後、何もしなくても仕事をこなしてくれる」障がい者雇用の実現は困難となります。仕事の手順を教えるだけではなく、一般常識や社会のルールなんかも会社で教えていかないといけなくなってくるでしょう。

それが現実です。

ABOUTこの記事をかいた人

上前 忠司 (日本障害者雇用総合研究所代表)

[障害者雇用コンサルタント]
雇用義務のある企業向けに障害者雇用サポートを提供し、障害者の雇用定着に必要な環境整備・人事向け採用コーディネート・助成金相談、また障害者人材を活かした事業に関するアドバイスを実施。障害者雇用メリットの最大化を提案。その他、船井総研とコラボした勉強会・見学会の開催や助成金講座の講師やコラム執筆など、障害者雇用の普及に精力的に取り組んでいる。

▼アドバイス実施先(一部抜粋)
・opzt株式会社・川崎重工業株式会社・株式会社神戸製鋼所・沢井製薬株式会社・株式会社セイデン・日本開発株式会社・日本電産株式会社・株式会社ティーエルエス・パナソニック株式会社・大阪富士工業株式会社・株式会社船井総合研究所・株式会社リビングプラットフォーム