2021年1月に「令和2年 障害者雇用状況の集計結果」が厚生労働省から公表されたことは以前のミルマガジンでもご紹介をしました。よくご存じの人事担当者も少なくないと思います。
今回の集計結果によると、新型コロナウイルスの影響があったにもかかわらず企業における障がい者の雇用数は17年連続で増加しており、前年比で見たときには精神障がい者の雇用が最も高い伸び率となりました。近年は新たに採用できる身体障がい者の求職者数が限られている中で精神障がいや発達障がいへ企業の求人対象が拡大する動きが見られるのは、特性への理解も進んできたことも理由のひとつだと考えられます。
年々障がい者の雇用数が増加しているという結果は、多様性ある人たちへの理解の醸成につながっていくことだと感じますし、社会が抱える課題解決への参加にもなります。
その一方で気になる点としまして、「法定雇用率達成企業の割合」についてです。一般企業に求められている雇用の目安である障がい者法定雇用率2.2%をクリアできている企業が全体(現在、障がい者の雇用が義務とされている企業は全国で102,698社)の48.6%となっており、ここ10年で見たときにも雇用率を達成できた企業が最も多かった年で50%(平成29年)という数値になります。
企業が障がい者雇用に取り組む目的とは
企業が障がい者雇用に取り組む第一の目的は、国が定めた「法定雇用率を達成させるため」です。
批判を恐れずに言うと、法律によって障がい者の雇用が義務化されていることで今日のような雇用の成果が生まれ、障がい者の自立に目を向ける世の中になってきたのではないでしょうか。
とはいえ、結果として50%に満たない達成の割合というのは、達成企業と未達成企業の間に雇用数の開きが生まれているのも理由のひとつかもしれません。(達成企業は継続して雇用を増やし、未達成企業は雇用を始められていない)今後、雇用率が達成する割合を60%や70%と伸ばしていくために必要なことを考えていかなければ、障がい者雇用は特定の企業に偏った状態となり、障がい者理解が広く進んだ社会からはかけ離れた現実になり得ます。
改めて、令和2年の法定雇用率未達成の状況を見てみたいと思います。
【令和2年 企業規模別法定雇用率未達成状況】
「障がい者雇用義務企業数 全国102,698社中52,742社が未達成」
- 45.5~100人未満 27,320社(23,224社)・・・54.1%が未達成
- 100~300人未満 17,513社(19,274社)・・・47.6%が未達成
- 300~500人未満 3,956社(3,122社)・・・55.9%が未達成
- 500~1,000人未満 2,566社(2,252社)・・・53.3%が未達成
- 1,000人以上 1,387社(2,084社)・・・40.0%が未達成
計52,742社(49,956社)
※( )内は達成企業数
規模だけで判断するわけではありませんが、企業規模が1,000人以上を除いた企業群では、法定雇用率達成の割合が50%を前後した数値になる傾向が見られます。
例えば、法定雇用率が未達成の際に発生する納付金(罰金)について、2015年に対象企業の拡大として現在の従業員が100人を超える規模の企業へと変更されました。もしかすると、45.5~100人未満の企業群で障がい者雇用が半数にとどまっているのはこのことも原因のひとつになっているのかもしれません。
障がい者雇用のメリットを感じる
法律により義務化された障がい者の雇用について、目安となる法定雇用率が達成できていない状況にある場合、納付金によるペナルティを科すことで雇用を促すというのもひとつの方法だと思います。それだけではなく、未達成企業が「当社でも障がい者を雇用しよう」と感じられるような後押しをしてくれる仕組みが増えてほしいと感じています。
それは、助成金や制度によるものだったり、経営者が「障がい者雇用は自社にとってメリットになる」と感じられるのであれば、実務者である人事担当者も取り組みが進めやすくなると思います。
また、小さい規模の組織ほど、障がい者の雇用を始める際に感じる「負担は大きい」というイメージは雇用促進にとって邪魔なものになりますので、厚生労働省をはじめ管轄の行政機関にとっては重要な役割りを担ってもらいたいと思います。
繰り返しになりますが、更なる障がい者雇用の浸透を広めていくためには、法定雇用率未達成の企業に対してペナルティを与えるよりも「メリットになる」「障がい者を雇いたい」と感じられる経験や情報を得る機会を設け、段階を経ながら進められるようになる、自発的な雇用ができる環境にしていくが理想です。
社内的な取り組み
そのためには行政からの支援も不可欠です。例えば、
〇障がい者実習の受入れ・支援機関への業務委託による評価制度
- 法定雇用率未達成企業は、障がい者の採用ではなく、先ずは支援機関からの実習受け入れや業務委託などから始める。
- 「実習の受入れ時間」「業務委託量と委託費用」による評価基準を設定。
- 基準をクリアした企業には「次年度の税制優遇」「報奨金」を受給。
〇評価制度を経ての障がい者採用には助成金
- 上記にある制度により障がい者雇用への理解が進み求人から採用にいたった企業が対象。
- 助成金を支給することで障がい者雇用の負担を少しでも軽減させる。
というものです。
実際に導入するとなれば、「対象となる企業規模」「申請手順」「受入れ時間・委託料の設定」などを決めることになります。
雇用数を増やすだけではなく、支援機関や支援学校との接点も増え、それぞれの役割りの認識も増します。
「ダイバーシティ」「SDGs」といったワードを目にする機会も増えてきた昨今、社会的な取組みへの関心が増したおかげで、メディアや書籍等で障がい者に関連したテーマが多くなり、障がい者雇用の分野にも少しずつ光が当たり始めました。
紹介される雇用事例は素晴らしい取り組みや活動が多く、それらを目や耳にするたびに「こういった雇用をひとつでも多く実現させたい」という気持ちから、理想を高く持つように意識させられます。しかし、現実を見た場合、すべての企業で理想通りの雇用ができるのかというとそうではありません。
また、「法定雇用率未達成 = 悪」のような表現を目にすることもあるのですが、疑問を感じることがあります。
障がい者を多様性と例えるのであれば、「それぞれの企業ができる障がい者雇用」「それぞれの障がい者がはたらけるはたらき方」があって良いと思います。
変えていかなければいけないと感じるのは、障がい者にも選択肢ある世の中の実現です。「あなたは障がい者だから、〇〇しか選べない」と思える場面がまだまだ多くあります。