ある事柄を端的にまとめ説明するというのは非常に困難なことが多いと思います。
例えば、『障がい者』を端的な表現であらわすとしたらどうでしょう。言葉では一括りにされますが、『障がい者』といっても「身体障がい者」「知的障がい者」「精神障がい者」と3つの特性があり、それぞれの特徴は大きく異なるために『障がい者』のことを知らない方に分かりやすく説明するのは、この仕事を10年以上携わっていても難しいと感じます。
また、ある題材について意見を出し合う場面でも、人によって様々な感じ方や考え方が存在します。そのため、自分にない意見が出されることも多く、ときには大きく考えさせられます。
障がい者をテーマに交わされた議論
2018年4月7日の「報道特集」で放送された映像のワンシーンがネットで取り上げられ、それについていろいろな方々が書き込まれた意見がありましたのでコラムでご紹介したいと思います。
先ずはこちらの動画と意見をご覧ください。
https://togetter.com/li/1216640
少々インパクトのある映像とそれに対する意見だったのではないでしょうか。
それでは、これらの意見から【否定派】と【肯定派】に分け、それぞれについて考えてみたいと思います。
【否定派】
障がいのある母親が発言した考えに対して否定的となる声がこれだけ多いのかと正直驚きました。
否定派の意見を少し列挙してみましょう。
- お世話係として子どもを産むのは間違い。
- 子どもは奴隷ではない。
- 配偶者に世話をしてもらうのなら理解するが、親なら子どもを縛り付けるようなことはするな。
- 障がい者に限らず子供を自分の所有物のように考えてしまうのは危険ですよね。自分の親に、自分は親のために存在しているという趣旨の発言された子供の気持ちを思うと本当に切ないです。
- 自分が弱い立場の人間だからって何を言っても許されるとは限らない。
- 「子どもを産んで守ってもらうべき」は違うと思う。障がいの有無に関わらず、子を守るのが親だと思う。
- 子どもに同情します。
これらの意見から感じるのは、「親は子どもを守る存在」であるべきという、一般常識をベースにした考えからくるところが多いという印象です。それに通じる点として、子どもは「お世話係ではない」「奴隷ではない」「所有物ではない」といった点は、親による虐待に対する批判のような意見にも感じられました。これは障がいの有無に限らず、親が子どもに依存するという考え方は、見方によっては「虐待」という認識で捉えられることが分かります。
また、動画での息子さんの発言に対する意見も見られました。
- 32歳で「産まれてきて良かったと思えるようになりたい」って言ってる時点で察してあげて欲しい。
- 32歳で幸せだと思えないってことはもう無理だね。
実際に映像で息子さんは「生まれてきて良かったと思えるようになりたい」と発言しているので、現状は幸せな生活を送っていないと取られても仕方がないと思います。そのため、否定派の意見が拍車を掛けて多くなっているのでしょう。
【肯定派】
次に肯定的な意見を挙げます。
- 本当に嫌なら出ていく選択肢もある。
- 障がい者の親を簡単に非難している意見が多く、どうすれば彼らの負担を無くせるのかという建設的な意見がないことにこの親子の業の深さを表している
- この映像で言いたいことは「守ってもらうのは『子どもによる世話』ではなく、『国や行政による福祉』」であり人権ではないでしょうか。子どもを産む権利が守られるべき。
非常に少数であり、母親の発言を擁護するような意見が見られませんでしたので、全般的に『障がい者こそ子どもを産んで守ってもらわないといけないと思う』ということばは、かなりネガティブな受け取り方をされる発言だったのでしょう。
その中で【肯定派】の最後に挙げた意見が他にはない視点での考え方だと思いました。
実は、今回ご紹介した映像というのは、「報道特集」で特集として組まれた「旧優生保護法 ~北海道で何が~」という内容で放送された番組の一部分が切り取られたものでした。
また、この親子の普段の実生活や環境がどのようなものなのかは映像だけでは分かりません。そのため、母親や息子さんの発言にはどのような思いや感情が含まれているのかも分かりません。しかし、ひとつ考えられるのは、「旧優生保護法」に関する番組内容を構成する映像であるなら、『障がい者こそ子どもを産んで守ってもらわないといけないと思う』ということばには、『障がい者であっても子どもを産み、育てる権利を守られるべきである』ということを訴えていたのかもしれません。
正解がないテーマであるため、それぞれの方が考え答えを出してほしいと思います。
1948年に施行。「不良な子孫の出生を防止」するという目的で、遺伝性疾患・精神障がい者・知的障がい者などと診断されたことを理由に不妊手術や中絶を認めた。統計では、全国で手術を受けた約8万4千人のうち、約1万6500人は本人の同意なく不妊手術をされました。1996年に「母体保護法」に改正され、優生手術の規定は廃止。