【Q】
当社では障がい者の採用のため、定期的に求人募集を行っています。募集する職種や条件にもよりますが、例えばひとりの求人枠に対する求職者からのエントリー数は10件を超えることがほとんどです。
エントリー数が多い時には書類選考で判断することが多くなってしまい、面接で本人とお会いする機会を経て判断する方が良いのではといった意見が部内でも出ています。私自身も面接でお会いした方がいいと思う反面、限られた選考期間の中での判断を考えると悩ましいと感じています。
やはり、障がい者の採用では面接を通して本人とお会いして判断することが正しいことなのでしょうか。アドバイスなどをいただければ助かります。
よろしくお願いします。
《システム開発会社、従業員数約400名、人事部課長》
【A】
近年は企業で活躍する障がい者も多様な特性の方が増えてきたと感じます。
年間で新規採用される障がい者の中では精神障がい者が最も多くなってきていることからも、障がい者理解が企業にも浸透していることがひとつの要因であると推察されます。障がい者求人は法定雇用率の引き上げにより達成を目指す企業による募集に加え、少子高齢化等による労働力不足を補うための人員確保としての側面も障がい者雇用に見られる傾向です。そのようなことから、今後も障がい者求人募集の数は高い水準がキープされるだろうと感じています。
すでに障がい者の求人界隈では売り手市場が進んでおり、キャリアアップであったり今より生活水準の向上を目指す目的で転職しようと考えている障がい者も増えています。そのため、求職者にとって魅力的に映る求人には多くの人が集まってくるでしょう。
これまでの経験から、求人エントリーされる障がい者とは「なるべくお会いする」を実行するようにしています。採用担当者としては、面接では関係者の日程調整や準備などに時間が掛かりますので、なるべくなら面接対応する求職者の数を絞りたいと考えます。しかしながら、障がい者求人が増加傾向にある中であれば、見極めとなる面接に時間と費用を投入してでも自社にとって求める人材を獲得すべきではと考えます。
◆プロフィール書類では分からない情報を知る
人材採用では、エントリーされる方の情報が網羅されている履歴書類を元に選考をします。障がい者求人でも同様に履歴書類に記載されている情報からこの先の選考に進めるかどうかの判断を行います。
一般求人と障がい者求人の違いとして、障がいの特性や状態は履歴書類だけでは詳細に知ることが難しいという点です。経理やプログラミングといった業務・業種であれば、これまで経験された仕事内容を記載することで求める職歴をある方なのかを判断することもできます。
一方、障がい者の場合は、面接で実際にお会いしてみると、履歴書類で得た情報から当初に想像していたことと違っていたと感じることが少なくありません。
例えば、うつや統合失調症などのメンタル系疾患のある方が「疲れを感じた時にはひとりになる時間が欲しい」「強めの口調で指摘されると萎縮してしまう」といった記載をしたり、発達障がいのある方が「聴覚過敏により場面によっては集中力に影響を受ける」「報告や相談をする場合に事前準備の時間が欲しい」という自分の特性について説明する文章を記載していた場合、採用する企業の中には選考に残すかどうかを躊躇する担当者もいるのではと想像します。
人によっては正直に伝えようと文章にするあまり、相手にとってはその表現がマイナスに捉えられてしまうこともあります。
もし、履歴書類の記載内容で気になると感じるところやもう少し詳しく知りたいと思える人材がいたならば、実際にお会いすることをお勧めします。直接お会いすることで「想像していたよりも明るい方だった」「特性を補うセルフケアや周囲への配慮を聞くことができた」と感じることは、障がい者の採用面接の場面では決して珍しいことではありません。
もちろん、一定の判断基準を設けることも採用活動には必要ではありますが、「なんだろう?」と疑問を感じた時には、一旦お会いしてから判断するようになると、求める人材と出会う確率が高くなると思います。
◆障がいを含めた多様性を知る貴重な機会
今後、多様性が今よりも日常的な社会を迎えることになると思います。色々な人が集まりはたらく企業にも大小の社会があり、自分以外を認識し受容することが人を成長させ、会社を成長させると考えます。
私は20年近く障がい者に関わる仕事に就いていますが、今でもお会いする障がい者を通して「知らなかった」「初めてだ」と感じることが多々あります。
障がい者は知らない人からは一括りにされる存在だと感じます。しかしその中身は、人の顔貌・性格が違うのと同様に診断名・障がい者手帳に記載されている状態が同じでも、状態や求める配慮は千差万別です。もちろん共通するところもありますが、基本的には各自が違う理解・認識が必要であると思っていて間違いないと思います。
コロナ禍を経て、リモートによるコミュニケーションも違和感が小さくなってきたと感じます。面接も状況によってはリモートで実施することに抵抗感がなくなりました。直接会話することで得られる情報は貴重な知識と財産に変えることができると思います。