固定観念のある企業担当者にターゲット外の障がい者に会ってもらう難しさ

固定観念とは、心理学の用語だそうです。

人が何かの考え・観念を持つとき、その考えが明らかに過ちであるか、おかしい場合で、他の人が説明や説得を行っても、あるいは状況が変わって、おかしさが明らかになっても、当人がその考えを訂正することのないような観念を固定観念と指す、とWikipediaでは説明されていました。

固定観念…。
つまりは、一度正しいと思い込んだら簡単には変えられないことで、ある意味で強固な考え。

そんな固定観念は、障害者雇用を進めていく上でネックになる場合があります。今回は、そんな話を書いてみたいと思います。

「障がい」というイメージ

人は、障がいのある人へのイメージを様々な視点で捉えています。

そこには、偏見や差別的な視点もあれば、肯定的で理解ある視点を持っていることもあります。
そもそも、イメージや価値観は生まれ育った環境や周囲の人、人脈などによって形成されていくもので、ライフストーリーが違えば形成されていくことも様々です。
そのため、就労支援側が企業担当者に障がいのある人についての説明をする場合、対話で障がい理解を深めていくことが難しい場合があります。

これは、障がい福祉業界のあるあると言うと少し大げさかもしれませんが、支援センターや福祉施設(日中支援・活動の場)、グループホーム(共同生活の場)などを地域に建設したり既存の建物で開設する場合、少なからず反対や批判的な意見に出会うことがあります。

私の勤める社会福祉法人北摂杉の子会においても、福祉施設の移転や新規開設の際に地域住民の皆さんから様々なご意見をいただくことも少なくはなく、スムーズに開設できないことも珍しくはありません。

数年前、当法人が福祉施設の移転を考えていた際、地域住民の方々に説明会を開催しました。そこではたくさんのご意見をいただき、批判的な意見や厳しいご意見があったのも事実です。
ただ、ご意見された方と個別に話、ご理解いただけるように何度もご説明する中でわかったこともありました。それは、批判的な意見や厳しい意見をされた方々は、障がいのある人のことをよく知らず、不安感や恐怖心、新しいものへの抵抗感などが先行していて、今まで生まれ育った環境の中で障がいのある人との接点はほとんどないようでした。

固定観念は、簡単に変えられない強い考え方です。
そんな考え方を持つ人に、体当たりで違う価値観をぶつけても建設的な対話とはならず、不安感や抵抗感はより一層増してしまうかもしれません。

これは、障害者雇用においても同じです。

よくある話では、障害者雇用の求人を出しているが、障がいのある人のイメージが固定化されていて、障がい種別、障がい特性、想定の業務内容等の許容範囲が狭いことがあります。
また、企業の担当者の中には、障がい者求人を出しているにも関わらず、手のかからない障がい者を望んでいる様子が話から垣間見えることもあり、障がいに対しての偏見や差別的見解、独特な障がい特性に対する拒否感など、固定観念も千差万別です。

言葉だけでなく、実際に感じてもらう

就労支援側からすると、固定観念は間違った見方であると思ってはいますが、それを簡単に取り壊していくことは難しいです。
ただ、固定観念は以下のポイントを押さえながら対話していけば、少しずつ理解してもらえると思っています。

  • 相手の障がいに対するイメージをまずはじっくり聞き取る
  • 相手がイメージできないことは、話を深めない
  • 相手のイメージの延長線上にありそうな話題、事例を用いて話を広げる
  • イメージと違う障がいのある人に会ってもらう際は、相手のイメージとのズレができるだけ少ないタイプの人とまずは顔合わせをしてもらう
  • 顔合わせに加えて、職場実習で働きぶりを見てもらい、イメージとのギャップを少しずつ体感してもらう

ここでのポイントは、「体感」です。

顔合わせや職場実習で「イメージとは違った」「思っていた以上に働けそう」とポジティブに体感してもらえれば、障がいへの理解は一気に進むまずです。
そのためにも最初が肝心なので、焦らず少しずつアプローチをしていくとよいと思います。

私個人的には、差別や偏見といった価値観は、たぶんなくならないのではないかと思っています。(決して諦めているわけではありませんが…)
それは、今の時代、多様性を認める風潮にあるものの、排除を推し進める意見もいまだに根強くありますし、多様な意見が尊重される世の中だからこそ、偏見や差別的見解といった多様な意見がなくならないのも事実です。

ただ、私たち障がい福祉の仕事をしている立場からすれば、差別や偏見をなくすことよりもそれらを少しでも少なくすることが大切で、多様性を受け入れる意見がマジョリティーになれば社会も少しずつ変化し、固定観念も柔軟な考えに変化していくような気がします。

固定観念のある人に真っ向から勝負する、論破するなどといった方法では、お互いが歩み寄れないように思います。
固定観念のある人のことも理解できるよう努めつつ、少しずつ時間をかける中で対話を進めれば、理解ある人はきっと増えるように思います。

ABOUTこの記事をかいた人

▼プロフィール:
京都生まれ京都育ち。児童福祉の専門学校を卒業後、長野市にある社会福祉法人森と木で障害のある人の就労支援(企業就労の支援、飲食店での支援と運営管理等)に限らず、生活面(グループホーム、ガイドヘルプ等)の支援、学齢期のお子さんの支援などに従事。2013年に帰阪し、自閉症・発達障害の方を対象に企業就労に向けたトレーニングをする2つの事業所ジョブジョイントおおさか(就労移行支援事業・自立訓練事業を大阪市と高槻市で実施運営)にて勤務。2014年より所長(現職)。また、発達障害のある大学生に向けた就活支援プログラム(働くチカラPROJECT)の運営にも力を入れており、2016年より大阪にある大学2校のコンサルタントも務めている。

▼主な資格:
社会福祉士、保育士、訪問型職場適応援助者(ジョブコーチ)

▼主な略歴:
長野市地域自立支援協議会 就労支援部会 部会長(2011〜2013)淀川区地域自立支援協議会 就労支援部会 副部会長(2015〜)高槻市地域自立支援協議会 進路・就労ワーキング 委員(2016〜)日本職業リハビリテーション学会 近畿ブロック代表理事(2017〜)NPO法人ジョブコーチネットワーク、NPO法人自閉症eサービスが主催する研修・セミナー等での講師・トレーナー・コンサルタント等(2013〜)