はじめまして、菊地です。
過去には金融機関にて「汎用系」と呼ばれるシステム開発から、インターネットを通じた「オープン開発」に至るまで、プログラマ~システムエンジニアとしてさまざまな開発の現場にたずさわってきました。
現職では、就労継続支援A型をご利用いただいている方々に対して、就職のサポートを行っています。ミルマガジンの場所をお借りして、元エンジニアの視点から、障がい者雇用を考えたいと思います。
みんなが働きやすいチームって?
現代のチーム開発においては「誰も取り残さない」という視点はますます重要になっています。特に多様なバックグラウンドや特性を持つメンバーが集まるチームでは、全員が働きやすい環境を作ることがプロジェクト成功の鍵となります。
本記事では、アジャイル開発の価値観を活用して、障がい者を含むすべてのメンバーが働きやすいチームを作る方法を考察していきたいと思います。
プログラマとしての経験を基に、チーム開発の課題を共有し、具体的なアイデアやツールも紹介します。また、実際の成功例や失敗例も取り上げ、学びを深めます。
プログラマとしての経験から考える課題
上手くいっていないシステム開発の現場でよく見られるのが、以下のような状況です。
– チーム内で情報が共有されず、特定の人に負担が集中する
– メンバーごとのスキルや特性を活かしきれない
– 会議やレビューでのコミュニケーションが非効率的になる
皆さんも、働く中で、同じような課題に直面したことがあるのではないでしょうか?
これらの課題は、特性や能力の違いがあるメンバーがいる場合、さらに顕著になります。たとえば、聴覚や視覚に制約があるメンバーにとって、情報が一方的に共有される状況は障壁でしかありません。
発達障がいを持つ方の中には、情報を一度に大量に処理することが苦手な人もいます。そのため、タスクの進捗状況や優先順位が明確でない場合、混乱やストレスが生じます。
<例>
– リーダーがタスクの全体像を共有せず「これを急いで」と細切れ指示を出す
– 次のタスクに取り掛かるタイミングや進捗管理が難しくなる
– 結果的に他のメンバーより時間がかかる
– 負担が積み重なり、期限内に作業が終わらないことで自信を失ってしまう
さて、これらの問題をどのように解決すべきなのでしょうか?
アジャイル開発の価値観がもたらす解決策
「アジャイル開発」とは、ソフトウェア開発の手法の一つで、「迅速な対応」や「柔軟性」を重視する方法論です。英語の「Agile(アジャイル)」には「俊敏な」「素早く動く」といった意味があり、変化に迅速に対応しながらプロジェクトを進めることを目指します。
この「アジャイル開発」の基本理念には、障がい者を含む多様なメンバーを活かすヒントが詰まっています。
【個人と対話の重視】
アジャイルでは、個々のメンバーが主体性を持ち、対話を通じてプロジェクトを進めることを重視します。これにより、障がい者を含む全員が自分のペースで意見を出しやすい環境が作られます。
【変化への対応】
プロジェクト中の予期せぬ変更やメンバーの体調変化にも柔軟に対応できるのがアジャイルの強みです。スプリントごとにタスクを見直す仕組みは、障がい者の特性に応じた業務調整にも有効です。
【持続可能なペース】
アジャイルは、メンバーが過剰な負担を感じずに働ける「持続可能なペース」を大切にします。この原則は、体調管理が重要なメンバーにとっても適しています。
では次に、具体的な事例を挙げてみましょう。
アジャイル導入の可能性と失敗例
【成功!】コミュニケーションの改善で全員が活躍
■ スプリントレビュー
アジャイルの「スプリントレビュー」とは、スプリント(一定期間の作業単位)が終了した後に行う「振り返りの場」です。
レビューでは、開発チームがスプリント中に作成した成果物を関係者に公開し、フィードバックを受けるように進めます。
このレビューでは、進捗状況や課題を視覚化し、チーム全体で共有します。
視覚化された情報により、障がい者メンバーも参加しやすくなり、細かな課題への指摘がプロジェクト全体の品質向上に寄与する可能性があります。
■ レトロスペクティブ
レトロスペクティブは、解決策を一緒に考える場を作ります。先ほどのスプリントレビューとは違い、開発チームの内部で振り返ります。
その際に、匿名の意見収集ツールを導入することで、発言が苦手なメンバーでも安心してフィードバックを寄せることができ、チーム全体で改善のアイデアを共有しやすくなります。
これらの取り組みによって、プロジェクトが予定通り進むだけでなく、チーム全体の一体感が強まり、次のプロジェクトへのモチベーションが高まることが期待されます。
【失敗】ツール選定のミスで混乱が発生
先ほどの事例のように上手くいけば問題ありませんが、過去のシステム開発では、たくさんの失敗例も生まれています。
たとえば、アジャイル導入に際して TrelloやJira(※1) といったサービスを導入したものの、メンバーがツールに慣れていない場合、下記のような混乱が生まれます。
■ タスクの更新が遅れ、情報のズレが生まれる
メンバーがツールを理解をしていない場合、たとえばチケットの概念を知らない場合には、操作を難しく感じる → 使いたくなくなる → ズレが生まれる。こんなケースも少なくありません。
メンバーがタスクのステータス(未着手、進行中、完了)を適切に更新しないと、進捗確認時に、そのメンバーのタスクが「進行中」に見えていても実際には未着手のまま。といった失敗は、珍しくありません。
結果的に、「ツールを導入したせいで、仕事の進みが悪くなった」と悪い印象を生む結果になります。
チーム全体が働きやすい環境を作るための具体的な手法
タスク管理の工夫
■ タスクの視覚化
TrelloやJiraを活用して、タスクを視覚的に整理するのはいかがでしょうか?障がいの有無に関わらず、どんな立場の方にとってもタスクの全体像を把握しやすくなります。
■ タスクの優先順位づけ
個々のメンバーが取り組むタスクをスプリントごとに調整し、無理のない範囲で作業を進められるようにします。
コミュニケーションの工夫
■ ツールを活用する
メンバーの特性によっては、口頭のやりとりや曖昧な表現が苦手な場合があります。そのため、SlackやZoomといったツールを活用して、以下のようにコミュニケーションを補助することが有効です。
<Slackのテキストコミュニケーション>
口頭のやりとりを補う形で重要な情報を記録に残します。
たとえば、発達障がいを持つメンバーが、会話を見直しながら正確に理解する時間を確保できます。
必要に応じてタスクの優先度や締め切りを明確に記載することで、誤解を防ぎます。
<Zoomの字幕機能>
会議中にリアルタイム字幕を活用することで、話の流れを追いやすくします。
言葉の聞き間違いや意図の取り違いを防ぐ効果があります。
今回のまとめ
「誰も取り残さない」アジャイル開発は、障がい者に限らず、すべてのメンバーが最大限に力を発揮できる環境を生み出します。
ツールの選定や、ツールを周知~学習するまでのコストはかかりますが、現代的な開発のプロセスにおいて欠かせない存在です。
もちろん、一気に導入するのは、どの現場においても難しいと思いますが、
「まずは一部の部署やプロジェクトではじめて、大きく広げる」といった工夫で進めることができるのではないでしょうか?
これからも色んなツールや、システム開発における考え方をご紹介できればと思います。
※1.
Trello [https://trello.com/ja]
Jira [https://www.atlassian.com/ja/software/jira]