新型コロナウイルスも原因のひとつではありますが、従来の「はたらく」という事柄と比較したときに、「労働者の多様性」「はたらき方の多様性」「個々の属性に最適なはたらき方の提供」が認められる時代へと変化しました。
先日、厚生労働省にて開催されました「第116回 労働政策審議会障がい者雇用分科会」の中で「週の労働時間が20時間未満の障がい者雇用も法定雇用率に算入する」考えがあることが公表されました。
現在、企業における障がい者雇用は「障がい者法定雇用率制度」のもと、常用雇用労働者43.5人以上の企業は2.3%の障がい者を雇用する義務があります。その場合、週の労働時間が30時間以上の障がい者の雇用であれば1カウント(重度障がい者は2カウント)、20〜30時間未満の障がい者の雇用であれば0.5カウント(重度障がい者は1カウント)として計算されます。
そのため、一般的には今分科会で挙げられた「週の労働時間が20時間未満」を希望する障がい者の採用は法定雇用率に算入されない雇用となるため、企業は積極的に取り組んで来ませんでした。それは企業の経営者や人事担当者にとって「障がい者雇用」という取り組みが「法定雇用率への反映が大前提」であることの大きな証明のひとつとも言え、そこに該当しない障がい者の雇用がその人たちの社会参加につながるという考えに到達しにくい結果にもなっていることも現実です。
少し視点を変え、障がい者の求人・採用に苦労している企業が多くあります。
「障がい者雇用に取り組む企業の増加による求人倍率の上昇」「法律改正により障がい者雇用義務企業が拡大」「専門性が求められる精神障がい者のミスマッチ」といった理由により、障がい者の雇用が上手くいかず、実績よりも苦労と時間の浪費が積み上がっています。
現在の障がい者雇用は、一朝一夕で望むような実績を上げることは非常に難しく、繰り返しのトライ&エラーと専門機関からのアドバイスをもとに経験値を上げていくことで「障がい者人材の戦力化」への道を切り拓いていきます。
この「経験値を上げていく」考えは、フルタイムでの雇用だけではなく20時間未満の障がい者雇用でも十分に当てはめることができますので、今分科会を経て法定雇用率への算入が実現化されれば企業と障がい者双方にとって大きなメリットになります。
実は障がいのある人材で就職を希望する人の中には20時間未満での労働から勤務を始めることが適当な特性・状態の方が多くいます。そのため20時間未満の雇用により企業メリットが生まれることで短時間労働を希望する障がい者にとってこれまでよりも多くの労働機会の創出になります。そのことが障がい者の「社会経験の蓄積」「適正業務とのマッチング」となることはもちろん、リワーク者にとっても低いハードルからスタートできる社会復帰への道となります。
証明のひとつとして、「精神障がい者の20〜30時間未満の短時間労働を1カウントとして算出」の制度により精神障がい者の雇用実数が大きく伸びました。環境による影響を受けやすい精神障がい者は特に短時間労働からスタートする勤務が状態に適しているからだと言えます。
その一方で20時間未満での勤務形態を恒久的に認めてしまうことへの違和感も感じられます。本来、はたらくことで得られる社会保障制度には一定の労働条件を満たすことが労働者一律に求められています。また、20時間未満という勤務時間は将来的には20時間以上、30時間以上と伸ばしていくことを前提とした助走期間であるため、例えば予め算入される期間を設定しておくことも必要になるのではと考えます。
少し脱線しますが、障がい者就労系福祉サービスによる「定着支援」について考えることがあります。
「定着支援」は就職した障がい者が職場定着するために受けられるサービスで最長3年の期間内に専門機関の支援員からサポートしてもらえる制度で、就職した障がい当事者だけではなく雇用している企業にとっても、大きなメリットのある福祉サービスのひとつです。
「定着支援」を受けている本人と企業から「3年の定着支援期間を過ぎてからの支援がなくなることに不安を感じる」という声を聞くことがあります。そういった声を聞くたびに、本来はこの3年の間に当事者は自分の足で立つことができるように、また企業は本人の適性や強みを活かした配置、適切なサポート体制を組織内で構築することが求められているのを忘れてしまっていないだろうかと感じます。それでは、いつまで経っても障がい者雇用は他人事のままではないだろうか。
話を戻して、超短時間労働についても仮に期間の定めが設けられると想定したならば、その期間の間に当事者には体力をつけてもらい少しでも長い時間の勤務ができる努力をしてもらう。また企業側は当事者の障がい特性や状態を理解・把握し、安定した状態を維持しながら勤務時間を伸ばしていくための工夫を考えてほしいと思います。
しかし、障がい特性や当事者の状態によっては、20時間未満が最適な勤務時間となった場合、現行の考え方による制度ではどうしても無理が生じてしまうため、今後20時間未満の障がい者雇用を促進させるための制度を考える上では、障がい当事者の視点に立った意見も十分に加味された形での更なる議論の場が必要だと感じます。
休職した従業員の復職(リワーク)としても、超短時間労働はメリットがあります。リワーク者にとって復職の道は不安と焦りを強く感じるため、超短時間労働による精神的安定の提供は、時間を掛けながらになりますが最も早い復職への道程だと考えます。
法定雇用率制度についてネガティブな意見を耳にすることが少なくありませんが決してその通りだとは思いません。
もちろん、企業の障がい者雇用は、法律として義務化されている「法定雇用率の達成」に大きく舵を切っているところが多いと感じられる面があるのも事実です。一般的に労働で得られる経済的自立や社会の一員としての役割は、現在の障がい者雇用の姿から見たときに、はたらく障がい者の場合はどうしても二の次となってしまっていると感じてしまいます。しかし、法定雇用率制度により障がいのある人材の雇用と戦力化に取り組み始めた企業が圧倒的に多く、それらの企業にとっては「雇用が障がい者と関わる接点になった」「障がい者を通じて多様性に関心を持つようになった」という声が聞かれます。
また、障がい者にとっても企業での就労を通じて社会参加ができるようになった障がい者がたくさん存在するという事実は間違いではありません。