前回の続き
④ 雇用の促進
法律で障がい者雇用を義務化することで企業は雇用に取り組み、法定雇用率を設けることで定量化を図れることになります。法律だけでは雇用の「質」は求められていないわけです。
以前には、雇用した障がい者に何も仕事をさせずに就業時間内は部屋に待機させたままの会社があったり、法定雇用率達成のためには手段を選ばない障がい者の雇用をしている企業もあります。
おそらく、障がい者雇用を「法定雇用率の達成」のみで取り組んでしまうと、はたらく障がい者に対して求めるものが低くなってしまい、企業内における障がい者の存在価値が希薄なものとなります。
それでは、障がい者雇用は企業にとって『負担』という立場を払拭することが困難になってきます。(メリットかデメリットで考えてしまう)
しかしながら、障がいのある人材は個々の特性によっては職場で求める配慮や業務でできる範囲にも違いがあるため、雇用側としては一律に仕事の成果を求めにくいと感じる部分があるというのも事実です。
今後、企業は多様な人材活用を求められる時代にあたって、障がい者雇用を促進するためにはどの様な対策が必要となってくるのでしょう。
法律の点から考えた時に、雇用に関する助成金などの制度を手厚くするというのもひとつの方法としては良いと思います。組織に障がい者を迎え入れるにあたり、多くの準備が必要になるため、そこに対して経費を掛けることもありますし、専門的な外部リソースを活用する際のコストとしても助成金制度はメリットがあります。
また、2018年4月より「短時間労働(週20~30時間未満)の精神障がい者の雇用を1カウントとする」という特例措置があるのですが、そのような期間限定の雇用促進措置も新規の求人採用につながると感じています。
一方で法定雇用率の達成ができていない企業との差別化という考え方はどうでしょう。
現在、納付金制度として法定雇用率が未達成の企業には納付金(罰金)を納めることになっています。(月額50,000円/1人当たり)近年、納付金制度の対象となる企業規模が引き下げられており、現状は従業員101人以上の企業が逸れにあたります。今後も引き下げされる可能性は高く、いずれは障がい者の雇用義務のある企業全部が納付金制度の対象になると感じています。
また、納付金額も現状の月額50,000円/1人当たりから引き上げも考えられるのですが、別の視点では納付金の支払い対象は中小企業が多いため、納付金が比較的法定雇用率を達成している大企業に調整金として支給されている状況があるという側面もあります。
しかしながら、今よりも法定雇用率を達成している企業を優遇する措置を検討するというのも良い考えではないでしょうか。
可能な限り、制度ばかりに頼るのではなく『障がいのある人材を活かす組織づくり』を目指した企業はたらきかけを願います。
これからの時代、法定雇用率の達成を前提に、段階を経ながら雇用の「質」を問う障がい者雇用の判断基準を組織内に設けることも必要になってくると思います。
上記を参考にしながら障がい者雇用の取り組みを追求していくことで、雇用の「質」を高めていくことができます。
企業は障がい者であっても仕事上で求めるものを高くすることで、「障がい者の存在価値を上げる」ということを考えてみてはどうでしょうか。
もちろん、障がい者側からの要望にも応えていくことにもなりますが、組織内から障がい者の雇用促進を邪魔する声がなくなるような成果につながると考えます。
⑤ 障がい者雇用を通じて
取り組みの進みを鈍くする「障がい者雇用は企業にとって負担」という考えを変えるひとつの方法としては、雇用目的を「量」から「質」へ進化させていくことが重要だとお話をしました。
「質」を目指した障がい者雇用の実現にはどこから手を付ければ良いのか悩む経営者や人事担当者も多いと思います。実際の話として、実現には時間を掛けながら組織に浸透させていくことが大切です。「量」は数値の達成という目標が立てやすいのですが、「質」は雇用の定着や満足度から図るために実感として感じにくいと思います。しかし、時間を掛けて取り組んだ分だけ、組織には「経験値」という大きな財産が積み上げられます。実は障がい者雇用で実績を残している企業は、この「経験値」を積むために惜しみなく時間を掛けてきました。
障がい者雇用に関する取り組みはすべて「経験値」となります。例えば、「障がい者雇用企業への見学」「支援機関や支援学校からの実習の受入れ」など、障がい者との接点をひとつでも多く持つことが『障がい者を知る』ための取り組みになります。
国内には障がい者雇用で手本となる企業がいくつもあります。それらの企業が障がい者雇用を始めたきっかけを調べてみるのも、自社が本格的に取り組む上で感じるところがあると思います。
障がい者雇用のきっかけとして有名なエピソードをお持ちなのが、神奈川県にある日本理化学工業株式会社という会社です。
こちらの代表的な事業はチョークの製造なのですが、従業員86名中63名が知的障がい者(重度の方も多数)になります。こちらが取り組みを始めたのは昭和35年からなのですが、当時の代表だった大山泰弘氏は「障がい者の受入れはできない」と思っていたのですが、あることがきっかけで雇用を始めることになりました。(詳しいエピソードについてはネット検索していただけるすぐにご覧いただけます。)
その後、日本理化学工業は国内で障がい者雇用としてはもっとも有名な企業のひとつとなり、今では企業や支援機関などからの見学の申し込みの問合せが連日のようにあると聞きます。障がい者を企業の戦力として見る視点を持つことで『負担』という存在から変わるのではないかと思います。
最近では、障がい者の仕事の範囲は徐々に広がってきていると感じます。ミルマガジンの取材を通して、株式会社革靴をはいた猫の「靴磨き」、大東コーポレートサービス株式会社(特例子会社)の「RPAプログラマー」、社会福祉法人北摂杉の子会が運営する就労継続支援B型事業所Lala-chocolat(ララショコラ)の「洋菓子づくり」など、これまでの付随的な業務以外の仕事に従事し、それぞれが与えられた目標の達成や責任についてもコミットする企業や事業所が増えてきました。
また、障がい者の雇用義務対象ではない企業規模であっても熱心に障がい者雇用に取り組む企業もたくさんあります。
それらは、障がい者というはたらき手の効果を認識し、真摯な気持ちで障がい者雇用に取り組む企業だからではないでしょうか。
「障がい者雇用が企業にとって負担」かどうかについて判断するのは、それぞれの企業経営者や人事担当者だと思います。
しかし、少なくとも障がい者雇用が企業の成長につながるという実績を持つ組織があるという事実をこれからも伝えていくことが我々の役目だと思っています。