【Q】
東京都内に本社があるシステム会社で人事担当をしています。今年度も法定雇用率が引き上げられる中、ギリギリ達成できる程度の雇用数を維持しています。
雇用する障がい者の多くが東京都内にある本社にて勤務しており、全員が出社型となっています。現在、来年の春採用に向けて求人を進めています。最近では障がい者の採用が厳しくなっていると感じています。
特に、本社のある東京都内は企業の数も多いためか、求人を出してもエントリーする障がい数が年々減少しています。これからも法定雇用率が引き上げられると思いますが、数値を達成するために必要な障がい者の採用ができるのか不安です。
今後も取り組みを継続させていくにあたり、障がい者雇用がどのように進んでいくのか参考に教えて欲しいと思います。よろしくお願いします。
《システム会社、従業員数約350名、人事担当》
【A】
前回からの続き
◯就労系福祉サービスからの支援が活性化
内閣府の調査では国内の障がい者人口はおよそ1,160万人(身体障がい者:436万人、知的障がい者:109.4万人、精神障がい者:614.8万人)となっています。また、厚生労働省から毎年公表されている「障害者の職業紹介状況等」内の統計データにある「ハローワークを通じて就職した障がい者の件数」の令和5年を見ると、全体の就職件数110,756件のうち最も多かった障がい特性は精神障がい者の54.7%でした。
この10年と少しの間に企業の障がい者求人ターゲットの中心は身体障がい者から精神障がい者へと変わりました。理由としては、身体障がい者の多くが60代以上の高齢者であること、身体障がい者の若年層(生産年齢人口)はすでに企業に雇用されている人材が多いなど、採用したいが成果に結びつきにくい一方で、精神障がい者は企業で働いていない人材も豊富であることが挙げられます。
しかしながら、精神障がい者への理解は徐々に進んでいるものの、採用後1年の定着率が50%を下回っている点を見ると職場での配慮といった理解面での課題は多いと感じます。
精神障がい者の理解について、一見してわからないところに障がいの特徴があり、個々によって職場に求める配慮にも違いが見られます。そのため障がい者に対する知識や雇用経験が浅い組織にとっては、雇用のハードルが高いと感じてしまいます。
障がい者を積極的に雇用している企業や特例子会社では、精神保健福祉士・心理士といった専門職や障がい者福祉サービス事業所の職員経験者など、専門分野の経験・知識のある方を採用し、職場には配置しているところが増えてきたと感じます。
おそらく、法定雇用率の引き上げへの対応も含め、企業における障がい者の雇用数が増加、中でも精神障がい者・発達障がい者の採用も増えてきていることが理由のひとつです。より専門的な立場から、採用した障がい者への配慮を実施することにより雇用定着に結びつけることができます。
企業が専門的な立場の人材を雇用することが理想ではありますが、外部にある専門機関を活用し、雇用定着に繋げる方法も十分な対応策になると考えます。都内の障がい者就労移行支援事業所(以降、就労移行と表記)には企業からの問い合わせも多くなっています。就労移行が受ける企業からの相談は職場定着や理解促進以外に採用相談にも対応します。そのため、就労移行では利用者(就労移行に通所する障がい者)確保のための競争が激しくなっているぐらいです。
◯雇用条件の多様化
障がい者の採用を進める上で人材の募集に苦労している原因のひとつが雇用条件の不一致が挙げられます。
「フルタイム・週5日40時間勤務」「出社による勤務」「障がい者採用は契約社員からスタート」など、ガチガチの条件提示は企業側の要望を前面に出したい気持ちは理解しつつも、もう少し求職者側の立場に立った考えも必要ではないかと感じます。これは障がいの有無に関係なく、広域に人材を獲得する上で組織に求められる時代に対する変化のように思います。
企業にとって雇用条件・待遇は簡単に変更をさせることができない領域です。
とはいえ、雇用条件が設けられた頃から大きく時代が変化しているのであれば、見直しを図る時期に差し掛かっているのかもしれません。
障がい者は様々な場面で困りや不便を感じた生活を強いられることが少なくありません。一般的に求められる働くスタイルが、実は障がい者にとっては難しいと感じる条件もあります。その不一致の状態を改善するような雇用条件に見直しを図ることで求人にエントリーする障がい者が増えるかもしれません。
「週20時間からの勤務スタートでも大丈夫」「午後から出社可」「体調に応じてリモート勤務可」といった働き方の選択肢を用意するのも多様化理解のひとつだと思います。
◯障がい者転職市場が活性化
近年は企業による障がい者人材の採用が活発化していることで、ハローワークや人材会社などを通じた求人募集が増えています。就職を目指す障がい者にとっては選択肢がひとつでも多いことは、自分の希望に合った雇用条件を提示している企業と出会うチャンスが増えることになります。
それは、現在働いている障がい者にとっても、今よりも良い条件のところに転職をしようか検討する機会が増えることにもなります。人材獲得の重要度で考えると障がい者の採用と同様に現在雇用している障がい者の職場定着にも目を向ける必要があります。
障がい者も仕事を通じて「自己の成長」「キャリアパス」「昇給・昇格」「将来設計」の実現が叶う企業を選択するようになります。また、仕事への評価や目標設定も明確に提示されている組織に人が集まるように感じます。