今年度は障害者雇用促進法が改正される年にあたり、一般企業の法定雇用率がこれまでの2.3%から2.5%へ引き上げられました。(2026年7月1日には法定雇用率が2.7%へ引き上げ)法定雇用率については5年ごとに厚生労働省にて見直しが検討されており、2013年度の法定雇用率2.0%への引き上げ以降は数年おきに引き上げが実施されています。
これまでの法定雇用率2.3%では障がい者の雇用義務のある企業は全国に108,202社(厚生労働省「令和5年障がい者雇用状況の集計結果」より)でしたが、今年度の法律改正による引き上げでは雇用義務のある企業数もさらに増加することになります。法定雇用率の引き上げについては数年前から周知されていたため、早い時期から法定雇用率2.5%を達成する雇用数を目指していた企業も少なくないと感じますが、雇用義務となる企業が今まで以上に増えるため、より一層障がい者の採用競争が激しくなり、求人活動における様々なコストに見合った成果が出しづらい時代になると強く感じています。これは、雇用している人材の職場定着にも影響します。
なぜなら、障がい者の求人に力を入れる企業は人材を確保するため、従来の雇用条件を見直した求人募集を掲げてきます。最近は障がい者の就職・転職に特化した人材会社も多様化してきましたため、求職活動を望む障がい者にとっては自社以外の求人情報を目にする機会が増えることとなり、その中には非常に魅力的な採用条件に映るものも多いと思います。
労働力不足が進む国内では、2030年には今よりも644万人の労働力が失われると言われています。(千葉県622万人の人口よりも多い数)少子高齢化による人口減少問題は一朝一夕で解決できるものではなく、現在の政策を見ても我々が安心できるような打開策があるようには感じられません。AIの社会への浸透が進んでいますが、労働力不足問題のいち部分を解消する程度だと感じます。
今後、労働の担い手である生産年齢人口(15歳以上65歳未満)が大きく減少する事実と向き合う中で企業の経営資源である労働力の確保・維持を実現させるためにどのように取り組むかは、多くの企業に共通する事業継続に向けた課題のひとつだと考えます。
障がい者の労働力はその解決策のひとつとして考えられます。
障がいの特性に対する理解や障がいを一括りにしたイメージにより、「障がい者=仕事は困難」と考えられてしまいます。障がいの特性(例えば身体障がい者・知的障がい者・精神障がい者)には違いがあり、障がい者手帳に記載されている障がいが同一であってもできることとできないこと、求める配慮には人によって違いがあります。
障がい者の場合、仕事の範囲・速度について一般の従業員に比べた時に限定的になる方も少なくありませんが、自社での採用の基準をクリアした障がい者の特性に見合った、業務・働く環境・コミュニケーションを整えることで成果を上げることが多くの企業で実践されています。
今回ははたらき方のひとつとして「リモートワーク」についてお話をしたいと思います。我々はコロナ禍を機にリモートワークでも業務成果をあげることが出来ることを実感しました。
すべての業務がリモートワークにマッチしないことは考慮しつつも、従来のはたらき方では選ばれにくかった選択肢をひとつ増やすことなりました。またリモートワークは障がい者の雇用にも多くの効果を出すことが証明されたと考えます。リモートワークにおける障がい者雇用を導入することで、得られるメリットを3点、リモートワーク雇用前に確認しておくポイントを4点についてご紹介します。
メリット①「求人募集の分母を増やすことができる」
リモートワークで人材を採用する際、人材の居住地域を限定せずに求人を募集することができます。都心部では企業が乱立しているために求人募集を掛けても求める人材と出会えないことが多くあります。
一方、地方でははたらきたいと考えていても会社の数が多くないために求人募集に求職者からのエントリーが集中してしまい、就職ができずにいる障がい者を採用のターゲットにすることが可能です。最近は、リモートワークの就労訓練を実施している地方の就労移行支援事業所が増えてきており、都心部にある企業からのリモートワーク雇用を希望する障がい者が通所しています。
今後もこの動きは加速していくことが予想されるため、人材の獲得として今のうちから地方在住の障がい者をリモートワークで雇用する企業も増えることが考えられます。
メリット②「出社による心身の負担を軽減」
障がいのある方にとって、公共の交通機関を利用しての移動に困難や不便、諦めを感じる人は少なくありません。また都心部の朝の通勤ラッシュは障がいの有無に関係なく、心身への負担は出社後の業務にも影響が出るのではないかと感じるぐらいの状況です。
人が多く行き交う中での移動には様々なリスクが潜んでいます。人の移動が比較的多くない時間帯と違って、通勤ラッシュの時間や乗り換えを気にする人たちばかりの中で障がい者から頼るのも気が引けるはずですし、他者への気配りができる心の余裕も持ちにくい場面ですから、仮に通勤途中の障がい者に不調が発生した時に声を掛けたり、介抱するような場面が想像しにくいと感じます。
もちろん、通勤ラッシュでも出社できる障がい者も存在しますので、そういった方達ばかりを採用できればいいのですが、リモートワークによる勤務体系も選択肢のひとつとしておくことで雇用主側が抱えるリスクの軽減につながることも認識していただきたいと思います。
次回はリモートワークによるメリット③と障がい者雇用を進めるにあたり採用時に注意するポイントについてお話しをしたいと思います。