『令和2年度 障害者職業紹介状況等』から見る障がい者雇用の現状

現在、障がい者の求人・採用を進めるにあたって企業の人事担当者が相談する相手というのは、「人材紹介会社」「障がい者求人サイト」「地域の支援機関」などが挙げられると思いますが、障がい者の求職者情報を取り扱っている最大の職業紹介専門機関は「ハローワーク」になります。
全国47都道府県に設置され、地域在住の障がい者の多くが就職やキャリア関連の専門窓口として活用しています。また、同様に管轄内の企業にとっても障がい者人材の雇用や助成金などの制度についての窓口となりますので、障がい者・雇用企業の様々な情報が蓄積されています。

毎年6月に厚生労働省から全国のハローワークを通じた障がい者の職業紹介の状況が公表されます。これは、ハローワークに挙げられる企業からの求人票をもとに就職した求職障がい者の数値を見ることができるのですが、最新の『令和2年度 障害者職業紹介状況等』の情報から現在の障がい者求人・雇用の状況を見てみたいと思います。

【参考】
厚生労働省『令和2年度 障害者職業紹介状況等』
https://www.mhlw.go.jp/content/11704000/000797428.pdf

新規求職申込件数は21年ぶり、就職件数は12年ぶりに減少


令和2年度は新型コロナウイルスの影響を大きく受けた年ということもあり、予想通り障がい者の新規求職申込件数と就職件数が減少しました。
新規求職申込件数は平成11年度以来21年ぶりに減少となり、転職希望者を含めて求職活動を控える行動が見られました。企業にとっても求人活動を抑える傾向が見られますので、双方にとって活発に動くことができない状況下にあることが分かります。

とはいえ、企業の障がい者採用への意欲は想定していたよりも低下していない印象があります。例えば、法定雇用率の達成を前提に障がい者人材の活用に積極的な姿勢な企業は、コロナ禍であっても採用活動を継続させ、実習が困難な状況の中でもリモートによる体験を導入するなど工夫を凝らした取り組みを進めています。就職件数は平成20年度以来12年ぶりに減少となりましたが、こちらも新規求職申込件数や求人票の減少に伴うかたちで前年度を割り込んでしまいました。

数値だけ見ると求職への意欲が抑制されている印象を受けますが、新型コロナウイルスまん延に対する世の中の動向によって、ネガティブなイメージからくる現象だと感じています。
私が普段から付き合いのある障がい者就労支援機関から聞くお話では、新型コロナウイルスの感染予防の観点から企業に訪問する体験実習等の機会が減りましたが、就職を目指す障がい者は多いため企業からの相談があればエントリーできる人材は少なくないということです。前段でご紹介したように、採用を進める企業にとって今は適材となる人材と出会えるチャンスだと感じます。

障がい種別ごとの就職率の高さは「知的」→「精神」→「身体」の順番

繰り返しになりますが、令和2年度は新型コロナウイルスの影響により障がい者の就職率が12年ぶりに前年度を割り込む結果となりました。
そのような中ではありますが、障がい種別ごとの就職率は、

「知的障がい者」:57.7%(前年度59.4%)
「精神障がい者」:42.6%(前年度46.2%)
「身体障がい者」:34.7%(前年度41.1%)
となります。
「知的障がい者」のみ50.0%以上の就職率なのですが、直近でも10年以上、この50.0%以上の就職率となっています。次いで「精神障がい者」の42.6%で最後に「身体障がい者」の34.7%となります。
「精神障がい者」はここ数年の雇用数が最も伸びてきており、早ければ今年度にも全国の雇用数が10万人を超えてくると思います。
「身体障がい者」はこれまでも就職率が前年度を下回ることもありましたが、安定して勤務してもらえる点や自己判断や広い業務範囲を任せられる点は、雇用する企業にとって安心して雇用できる障がい特性だと思います。

今後は、テレワークによる障がい者の雇用も増えてくると考えます。
例えば、就職する機会が限定的となっていた地方在住の障がい者が都心にある企業にテレワーク雇用される機会が増えてくるため、近い将来新型コロナが落ち着いてきた時期から障がい者の採用活動が上向きになってくるのではないかと感じています。

障がい者の解雇数も公表


『障害者職業紹介状況等』では、障がい者の解雇された数値も公表されています。「障がい種別ごと」や「都道府県別」など、あまり目にすることのない数値を見ることができます。
令和2年度は企業の経営に大きな打撃を受けた年になるため、障がい者の解雇者数にも影響が出るのだと思っていたのですが、ここ数年の解雇者数約2,000人程度と変わらない2,191人という数値でした。
障がい者だからという理由で最初に雇用を打ち切られるということではなく、新型コロナという大きな波を越えるまで可能な限り雇用を継続しようとする企業の姿勢が見えてきそうです。

新型コロナウイルスによる混迷な世の中は出口のないトンネルを進んでいるかのような状況にあり、今後も我々の生活には変化が求められます。
それははたらき方も同様なのですが、ネガティブな側面に意識を向けるだけではなく、新たな変化に馴染むような努力も必要だと改めて感じます。障がい者雇用においてもこれまでのような採用活動・求職活動が取れない状況下ですが、その中で創意工夫をしながら双方にとってメリットのある障がい者雇用が実現できるように努力を重ねていきたいと思います。

ABOUTこの記事をかいた人

[障害者雇用コンサルタント]
雇用義務のある企業向けに障害者雇用サポートを提供し、障害者の雇用定着に必要な環境整備・人事向け採用コーディネート・助成金相談、また障害者人材を活かした事業に関するアドバイスを実施。障害者雇用メリットの最大化を提案。その他、船井総研とコラボした勉強会・見学会の開催や助成金講座の講師やコラム執筆など、障害者雇用の普及に精力的に取り組んでいる。

▼アドバイス実施先(一部抜粋)
・opzt株式会社・川崎重工業株式会社・株式会社神戸製鋼所・沢井製薬株式会社・株式会社セイデン・日本開発株式会社・日本電産株式会社・株式会社ティーエルエス・パナソニック株式会社・大阪富士工業株式会社・株式会社船井総合研究所・株式会社リビングプラットフォーム