書籍:「社員の2人に1人 わが社の主戦力は障害者」

先日、仕事の打合せの際に『上前さんは「社員の2人に1人 わが社の主戦力は障害者」という書籍をご存知ですか。Amazonでたくさん売れているようですよ。』と薦められ、丁度障がい者雇用関連の書籍を探していた私は早速Amazonで注文をしました。
2日後にはオフィスに届いていました。(本当に早いですね)早速手にした表紙に書かれていた
「社員の2人に1人は障害者」
「10年連続で業績アップを実現」

という言葉に目が留まりました。

「社員の2人に1人は障害者」ということは、短時間勤務者(週20~30時間労働)が居たとしても同社の法定雇用率が2.3%を大きくクリアしているということです。近年になり障がい者の雇用数が増えてきているとは言いながら、2.3%を達成・維持するのもやっとだという企業が多い中で、社員の半分が障がい者の状況で日々の業務をこなしているということは簡単なことではありません。
その上「10年連続で業績アップを実現」させているということですから、著者である吉田昭元氏が代表を務める株式会社絆ホールディングスではどのような取り組みを実践されているのか気になって仕方がありません。

同社は、株式会社として放課後等デイサービスや就労移行支援事業所などの障がい児・者を対象とした福祉サービスを提供する支援機関だということです。支援機関という立場でありながら営利企業として収益を得なければいけないわけですから、多数雇用する障がいのある従業員を上手く活用できるための工夫や大切なポイントがあるはずです。
はやる気持ちを感じながら一気に読み終えることができました。第一に感じたことは、私が日頃から企業の人事担当者や現場で一緒にはたらく従業員の方々にお話していることと同じ内容が端的に分かりやすく書かれていたことへの共感でした。

その共感した障がい者雇用のポイントを3つに絞ってご紹介したいと思います。

①障がい者の活用は『適材適所』

私の考える障がい者雇用は「究極の『適材適所』だ」ということです。
それは、チームスポーツをイメージしていただけると良いのかもしれません。競技特性によって少なからずプレイヤーが他のポジションをカバーする部分もありますが、基本的には野球やサッカーなどは与えられたポジションによって役割りが決まっています。
特にラグビーでは、プレイヤーはポジションごとに体型が大きく異なり、求められるスキルにも大きな差があります。FW(フォワード)と呼ばれるポジションには「ウェイトの重い人」「背の高い人」「体格ががっしりした人」などが配置され、BK(バックス)には「足の速い人」「フィールド全体を見て指示する人」「体格が小さい人」というように、それぞれ違った特性のあるプレイヤー(人材)でチーム(組織)を作り、個々のポジション(業務)にあたっています。

障がい者雇用にも似た点が多く、障がいのある人たちはそれぞれが違った特性を持つプレイヤーです。その特性を見極め、適正な業務に配置するのは雇用する会社の役目です。障がい者の理解をお願いするのは、個々の特性や強みを分かっていない職場ではミスマッチが起こりやすいからです。
本文では、ミスマッチを回避するための障がい理解として「面接」「職場体験(実習)」などの重要性について詳しく書かれています。



②多くの障がい者と接しながら得た経験の蓄積

前述しました様に著者である吉田氏が代表を務める株式会社絆ホールディングスは障がい者の雇用義務のある企業でありながら障がい児・者を対象にした福祉サービスを提供する支援機関になります。
そのため、本格的な障がい者雇用をスタートさせた当初から、一般企業に比べて障がい者と関わる機会が多くあり、また障がい特性の理解を深める機会も同様に増えていった経緯があります。
その経験をもとに書かれた本著には、失敗から学んだことも含めて職場で導入した実体験が盛り込まれています。

例えば、本文にある「障害のタイプ別 接し方のコツ」といった段落では、

  • 職場でのコミュニケーションに困難を抱えているタイプ
  • 時間の捉え方に困難を抱えているタイプ
  • 新しいことや変化への適応の困難さがあるタイプ
  • 認知のズレや偏りからくる困難さがあるタイプ
  • 理解力・判断力に限界があるタイプ
  • 空間把握や作業感覚にズレがあるタイプ
  • 五感に過敏さがあるタイプ

といった職場での困り事を人材のタイプごとに解説することで、よく発達障がいのある人材の採用に対処する方法を説明された内容を見ることがありますが、更に分かりやすく表現された文章になっています。


障がい者雇用を『コスト』から『戦力』へ

「障がい者雇用は『コスト』なのか。」
この仕事に関わっていますと上記のことばを聞くことが少なくなく、大きなテーマのひとつです。企業努力や創意工夫でどの程度カバーすることができるのか。答えに導いてくれる教科書があれば良いのですが、なかなか出会うことがありません。
本著も教科書ではありませんが、同社が実践してきた障がい者雇用の取り組みを通してそれぞれの企業が実践できる「自社にとって最良の障がい者雇用のかたち」に近づけることができると感じます。

「あなたの会社では、障がい者を一括りで考えていませんか。」
会社という組織の中で従業員はそれぞれ求められる役割りや責任には違いがあります。それによって評価や給与も違ってきます。でも、障がい者の雇用企業を見てみると業務内容・役割りに関係なく障がい者の評価制度はなく、給与を含めた待遇に広がりもない、均一化された組織が多いように感じます。

障がいの特性によって、任せることができる業務の範囲や内容に違いが出てきます。反復作業がメインの仕事もあれば、自己判断やいちからの組み立てが求められる仕事もある中で待遇が一緒となれば、はたらく側の気持ちを汲んだ社内制度からは掛け離れてしまってはいないでしょうか。
障がい者であっても「キャリアアップを目指したい方」「結婚、家族を持ちたい方」がいた時に選択できる制度になっているでしょうか。

雇用する障がい者を「コスト」という存在で終わらせるのではなく、「戦力」にすることで持続可能な取り組みにすることができると考えます。
そのためには「評価制度」「役割りに応じた待遇」を見直すことと、障がい者自身にも会社が求めていることを理解してもらうはたらき掛けが必要だということが、本文で語られています。



まだまだ、お伝えしたいことがあるのですが、やっぱり実際に本著を手に取って確かめていただきたいと思います。
自社にとって「障がい者を主戦力」にするために必要なことを見つけることができる一冊になっています。

著 書:「社員の2人に1人 わが社の主戦力は障害者」 定価1,500円+税
著 者:吉田昭元(よしだ あきひろ)
株式会社絆ホールディングス代表取締役
企業の人材育成業を営んでいた際、顧客の運営する放課後等デイサービス事業所に接し、その社会的意義を感じる。その後、2012年に株式会社絆ホールディングスを設立し、自らも児童福祉法に基づく障がい児支援の放課後等デイサービス事業に参入。
「(社会性+事業性)×人」という理念を掲げ、大阪市内に複数の児童発達支援・放課後等デイサービス事業所を開所。2016年以降は障害者総合支援法に基づく就労支援事業も手掛ける。
さらに、2018年には小学生から高校生までが通えるフリースクールを開設。
障がい者に対し、幼児期から就業に至るまでの切れ目のない支援を行う。
また現在は、2020年4月の雇用率強化政策(改正障害者雇用促進法)に伴い、企業と障がい者をつなぐ事業を進めている。
同社ホームページ:https://kizuna-house.net/
発行元:株式会社幻冬舎メディアコンサルティング
〒151-0051 東京都渋谷区千駄ヶ谷4-9-7
発売元:株式会社幻冬舎
〒151-0051 東京都渋谷区千駄ヶ谷4-9-7

ABOUTこの記事をかいた人

[障害者雇用コンサルタント]
雇用義務のある企業向けに障害者雇用サポートを提供し、障害者の雇用定着に必要な環境整備・人事向け採用コーディネート・助成金相談、また障害者人材を活かした事業に関するアドバイスを実施。障害者雇用メリットの最大化を提案。その他、船井総研とコラボした勉強会・見学会の開催や助成金講座の講師やコラム執筆など、障害者雇用の普及に精力的に取り組んでいる。

▼アドバイス実施先(一部抜粋)
・opzt株式会社・川崎重工業株式会社・株式会社神戸製鋼所・沢井製薬株式会社・株式会社セイデン・日本開発株式会社・日本電産株式会社・株式会社ティーエルエス・パナソニック株式会社・大阪富士工業株式会社・株式会社船井総合研究所・株式会社リビングプラットフォーム